解毒剤とか…
アビドスの首脳陣を消す
そう決意してからのセリナの行動は早かった
「半量あれば足りるはずですが…念の為全部詰めていきましょう」
救護騎士団の薬品庫から催不整脈作用のある薬品を見繕い、瓶からシリンジいっぱいに吸い出しておく
セリナは念には念を入れて解毒剤となる抗不整脈剤の注射も準備すると、2本の注射器を隠し持って…
第一のターゲットである"砂漠の魔女"の元に現れた
「貴女はハナエちゃんをたぶらかして、あんな風に利用しました…許せません…!死ね、魔女‼︎」
ハナコのベッドに忍び寄り、毒薬の入った注射器を振り上げながら一気に毛布を剥ぎ取る
「っ‼︎誰ですか⁉︎」
振り下ろした右手をハナコに逸らされ、注射針がベッドに突き刺さった
ホースの追撃を躱してベッドから転がり落ちたセリナと、飛び退いて突如現れた暗殺者を警戒するハナコ…
暗闇の中で2人の目が合った
「セリナさん…⁉︎」
ハナコが暗殺者の顔を見て動揺を顕にする
彼女が知る"救護騎士団のセリナ"は罷り間違っても殺意を持って寝所に忍び込むような人ではなかった…
だが、今のセリナは違う
ハナコが隙を晒した瞬間、剥ぎ取った毛布を2人の間を遮るように投げ上げ
────再び神秘を発動させる
「殺りました…!」
セリナが現れたのはハナコのすぐ背後
そのまま棒立ちのハナコの首筋に注射針を刺し、薬液を注入した
「(毒!)はあっ‼︎」
「ッひゅっ…!」
ハナコは注射器を握るセリナの腕を取り、腰を落として背負い投げで彼女の体を床に叩きつけながら針を抜く
───そしてそのまま、セリナの手首を返してセリナ自身の首に注射針を突き刺した
2人はすぐさま立ち上がり、互いに睨み合う…
同時に心拍が乱れ、胸に締め付けられられるような痛みを感じ始める
このまま胸の痛みを放置すれば、自分は遠からず死ぬ。予感/確信が2人の間に生まれた
その時ハナコが口を開く
「解毒剤とか…持ってらっしゃらないんですか?」
ある、セリナの看護服のポケットには抗不整脈剤の注射が入っている
ズキズキと胸が痛み不確かな脈拍が身体に異常をきたし始める中、セリナは僅かな逡巡の後───
解毒剤を取り出して自分に打とうとした所を、ハナコが解毒剤の注射器を奪い取って自分に刺した
「ぁっ…ふぅ……流石にヒヤヒヤしましたね…」
命綱を絶たれたセリナが崩れ落ち、胸を押さえて悶え始める
「あの、大丈夫ですか?解毒剤の予備とか持ってないんですか?…すごく具合が悪そうですけどあれやっぱり危ない薬ですよね」
「ごめんなさっ…いや、なんで…いや…死にたくない!死にたく…ミネ団長…た、助けて……ハナエちゃ…」
何かから逃げようとするように、泡を吹いて震えながらセリナは床の絨毯の上を這う
「その…何か持ってきましょうか?水とか…アビドスサイダーもありますけど………手とか握っててあげますか?」
無論、もはや助かる方法はない
「暗い…苦し…やだ……せん、せぇ…」
静かになった部屋の中で、ハナコは床に座り込んで横のベッドに寄りかかる
「はぁ……セリナさん、どうして………怒りの有害性を示すいい例、と思っておきましょう…」
ハナコはしばらく頭を抱えていたが、そのうち立ち上がってホシノやヒナの元に報告に向かって行った