親子ほのぼのいいよね

親子ほのぼのいいよね


現世の人々は流行り廃りを繰り返しながら様々な物を生み出し、尸魂界とは異なる色を付ける。

店に足を運べば、こちらには無い様々な品々や祝事(イベント)に備えた商品が売られており、尸魂界の死神達がそれらに興味を持ち───何に惹かれるかはギターやファッションなど実に様々ではあるのだが───影響を受けることは特段珍しくない。

そんな中、散財などの奇行に走ってしまうことも、未知故なのか有り得てしまうのである。


これは、彼にも『そういうこと』が起こったのだ、というだけの話である。


浦原商店にて、店長である浦原喜助と一人の死神が対峙していた。

「平子さんから…ハイ、確かにお預かりしました。」

「…ありがとうごさいます。」

「それにしても珍しいですねぇ、あなたが私を訪ねてくるとは」

「平子隊長からの依頼ですから。俺はできるだけあなたには関わりたくない。」

「嫌われてますねぇ。」

「分かってて言ってるでしょう。何回目ですかこのやり取り。」


───この手紙を喜助に渡してきてくれ

──────ついでに適当に幾つか新譜買うてきて

滅却師との戦いを終えてから半年した頃、五番隊の隊長である平子真子は自身の副官である彼にそんな『おつかい』を頼んだ。

もちろん彼は「別の隊士に頼めばいいじゃないですか」と渋ったのだが、口八丁で隊長に丸め込まれ───副隊長は隊長に何だかんだ甘いですね、と様子を見ていた三席の彼女は言う───依頼を受けた。受けてしまった。

それからというもの、「また頼むわ」などと言われ、その『おつかい』を不定期に度々こなすようになった。「珍しい」などとんだ冗談である。

その不愉快さから気を逸らすように店内の様子を眺めると、一角に何やら駄菓子屋らしからぬ商品が並んでいた。

「あぁ、これですか?現世のイベントに合わせた商品なんですよ」

「イベント?」

「子供が親にプレゼントなどを贈り感謝の気持ちを伝える日、とでも言いましょうか。ちょうど一週間後ですね。」

「子が親に…」

「興味がおありでしたら商品を幾つか見繕いますよ?」

「丁重にお断りします。あなたの儲けになることは何一つしたくない。じゃあ用事は済んだんで。さよなら。」

「どうも、平子さんによろしく言っておいてください。」

「…」

何がよろしくだ、この野郎───男に対する苛立ちを置き去るように彼は店を出る。そして少し離れた場所にあるCDショップに立ち寄る。この一連の行動さえ毎度のことである。


「親に贈り物か…」

以前から気になっていたCDアルバムの試聴をしながらふと呟く。

滅却師との戦いの中で、「自身」を失い、「自分達」が「何」であるのかを知り、真の卍解に至った。

そして、自分が五番隊副隊長であり、それ以上に平子真子の息子である、と改めて認識できた。

それができたのは親たる平子真子その人のおかげである。

「感謝のプレゼント…うーん…」

深く悩む。

自身と隊長の親子仲は悪くは無い。寧ろ冗談を言い合える程度には良好である。が、長い───百年の空白はあるが───親との思い出を振り返り、思い至ってしまった。

「俺…贈ったこと…ない…?」

もちろん隊長に様々な品を渡したことはある。しかしそれらは櫛や髪油など、自身の欲求に従った物がほとんどである。

『感謝の品』ならば相手の欲しい物を贈るのが道理ではないのか。

「何か…何を贈れば…」

思考が迷走を始めた───恥を承知であの男に見繕って貰うべきだったか、などと考えかけた───ところで、

音が消えた。

CDが全ての楽曲を再生し終える程に長考していた、という事実に驚く。

「…あいつに頼ってたまるか…一週間あるんだ。何とかしよう。」

そう決意し、CDをプレイヤーから取り出してレジに向かった。


〜残り七日〜

夕刻、五番隊隊首室にて、

「ただいま戻りました平子隊長。これ頼まれてた新譜です。」

「お前も平子やろ。おかえり、ご苦労さん。いつもより遅かったな、なんやええ物でも見つけたんか?」

「あー…そんな感じです。」

「なになにー?」「おやつー?」「しんじーあそんでー」

「一斉に喋りなや、おやつはさっき食べたやろ、あっこらCDにベタベタ触ったらアカン!うおっ誰や縛道使ったんは!?悪いけど今ちょっと手ぇ離せへんねん、お兄ちゃんに遊んでもらい。」

「わかったー!!」「しんじもあそぼーよー」

「後でな」

部屋の主たる隊長と賑やかな子供達がそこにいた。

先の戦いの中で『生み出た』赤子達は、事情が事情であるために、五番隊隊舎で育てられることになった。初めは赤子達が『親』に引っ付いて離れようとしなかったのもあり、隊長が育児のほとんどを行っていたのだが、復興処理との並行作業による過労により隊首会中に倒れた───今では笑い話である───ために、五番隊全体で育児を行うようになった。席官や隊士の持ち回り制であり、仕事もそれに合わせた割り振りとなった。

───余談ではあるが、これにより隊士と席官の報告・連絡・相談が以前より活発かつ円滑になったり、「良い父親になりそうな男性隊士ランキング」(有志作成)に五番隊が数多くノミネートされるという珍事が起きたりした。

今日は隊長が担当だったはずなのだが、どうやら緊急の事務仕事が舞い込んだようである。

「なにかったのー?」「にーさんあそぼー!」

「ごめん、何か買ってきたわけじゃないんだ。向こうで遊ぼっか」

「わーい!!」「かげおにしよー!」「ゆうがたはかげがおっきいんだってそーたいちょーがいってたー!」

「悪いな。」

「いえいえ、隊長はその棚の上の書類に集中してください。」

「ありがとな、急にこんな山がくるとは思っとらんかったわ…子供の手ぇ届くとこ置いといたらエラいことなるからな…」

「お疲れ様です…あ。」

「なんや?」

「隊長って何か欲しい物ありますか?」

「あー?…そういうのええって言うとるやんけ」

「はやくあそぼー」「ひがくれるー」

「はよ行ったれ。俺もちゃちゃっと終わらせて行くわ。」

「…はい…」

失念していた。平子真子とはこういう男であった。特に息子には昔から徹底してそうであった。今のように仕事や事情があれば気遣いを受け入れ頼ることもあるが、私事においては自身に何かを望むことはなかった。それが純粋な善性によるものであり、気兼ねない関係を望む故の態度であると当然彼は理解しているが、今の状況においては、最大の敵と言わざるを得なかった。

結局何が欲しいかを聞き出せないまま、子供達との遊びに日が暮れるまで興じることになってしまった。


「ハァハァ…雛森ちゃんヤバいよ…誰かこの子達に瞬歩教えようとしてる隊士(ヤツ)がいる…」

「結構いますよ?」


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