親になる、ということ

 親になる、ということ



 ボールを手に、オモダカが楽し気に笑っている。その姿を見ながら、アオキは彼女の目の前に立つ息子の背中を見つめる。

 オモダカのポケモンはあと1匹、キラフロルだけだ。対するあの子の手持ちはおそらくあと2匹。傷つきながらもウェーニバルがボールから飛び出してきたキラフロルを見据えている。その姿を見ながら、今日こそはオモダカを倒せるだろうか、と思いを馳せる。

 ここにはアオキだけではなくハッサクとポピーの姿もある。ポピーが状況を連絡したのか、先程チリも屋上に上がってきて固唾を飲んで見守っている。もう先日二次試験はクリアしているのだから四天王である自分たちが毎度見に来る必要はない。現にハヤに対して思い入れの弱いアカマツはここにはいない。だが、彼らにとっても弟か孫か何かのように可愛がっていたハヤがオモダカに勝ちチャンピオンとなる姿は何よりも見たいに違いない。あくまでも試験なので応援の声は上げられないが、拳を握り静かに見守っている。

 ずっと、こうしてあの子がチャンピオンランクを目指す姿を見たかった。そして自分はそれを迎え撃つ立場でいたかった。幼い日、おかあさんみたいなチャンピオンになりたい!と目を輝かせていた息子の姿に、柄にもなくそんな未来を願ったことを思い出す。

 今こうしてここにいるのは、その夢を諦めきれなかったせいだろう。あの子を授かった前後の人員が不足していた頃と違い、今はオモダカの言うところの新たな才能も数多くパルデアに存在している。ジムリーダーも四天王もアオキが望めば辞めることが可能なタイミングは何度かあった。

 それでもアオキは面倒を押して、実力で周囲を黙らせてこの場所に居座っていた。ただこの時の為だけに。

 きっとオモダカも同じだったのだろう。少なくともあの子が出来る前は、遠からずネモかハルトにトップチャンピオンの称号を譲るつもりでいたはずだ。リーグ委員長という立場についてはそこまで簡単に譲るつもりはないだろうが、トップチャンピオンという立場はオモダカにとっても他に相応しい人がいるのであればすぐにでも譲って構わないものだったはずだ。

 トップチャンピオンという称号は自称しているだけで保ち続けることが出来るようなものではない。民衆から彼女より別の人間の方がトップに相応しいと言われたら、きっとそれを押してまでこの立場を守り抜くことはしなかっただろう。そんなことを言う人間が一人もいなかった訳ではないだろうが、それでも大半の人にトップチャンピオンとして相応しい人間として認められるようにオモダカが必死に努力していたのは確かだ。


 けれど、そんなトップチャンピオンの母と、ジムリーダー兼四天王の父を持つことは、あの子にとって幸いだったのか、不幸だったのか。あの子が入学してから今日この日まで、何度そう考えたかわからない。

 オモダカとアオキの一粒種であるハヤがアカデミーに入学したのは、12歳の時だった。アカデミーの入学可能年齢の下限よりはだいぶ上ではあるが、課外授業で一人でパルデアを巡ることを思えばまぁまぁ普通程度の歳だろうか。

 もっと早いうちに入学させるべきだろうかと二人頭を悩ませたこともあったが、結局自分達はハヤが望んだタイミングで入学させることを選んだ。幼くして四天王を務めていたポピーが楽しそうにアカデミーに通う姿を見て、あまりに幼い頃からトレーナーとして英才教育を施すことは正しいことなのかとオモダカに迷いが生まれたのが大きかったのだろう。アオキとしても本人が望むならともかく、ポピーのように幼い頃から凄腕のトレーナーとなるように教育しようというつもりはなかった。そもそも本人が望んでいるのか、才能があるのかもわからないのにこちらの都合を押しつけたいとは思わなかった。

 実際ネモもハルトもチャンピオンランクになったのは相応の歳になってからだ。最終的に、焦ってトレーナーとして教育しようとするより、ハヤ自身が望んだ時に望んだものを与えようという方針で最終的には意見が一致した。


 トレーナーとして早期に教育しようというつもりはなかったが、アオキもオモダカも手持ちは多い。当然家では多くのポケモン達の世話をしている訳で、ハヤも生まれて間もない頃からポケモン達に親しんでいた。物心ついてからオモダカのクエスパトラとアオキのムクホークとの間に生まれたタマゴを欲しがったのでそれに関しては望み通りに与えたし、たまたま出掛けた先で見つけたイーブイを見て捕まえたいと言うので捕まえさせた。

 だがその二匹はどちらかと言うと穏やかでひかえめな子達であまりバトルを好んでいないように見えたし、ハヤ自身もバトルに関しては本格的にするのはアカデミーに入学したらでいいと思ったのか、自分の手持ち達を戦わせたいという意思は中々見せなかった。周囲の善意の声は適当に聞き流して自分を貫ける幼い息子に、変なところばかり親に似るものなのだと思ったものだ。


 けれども、そうでなければ今こうしてハヤがここにいることはなかったかもしれない。

 実のところ親である自分達でも正確には理解出来ていない。あの子に寄せられる期待の目がどれほどの重圧なのか。


 世間的に、優れたポケモントレーナーの元に生まれた子は親と同じようにトレーナーを志し、優れたトレーナーになることが多いと言われている。幼い頃から多くのポケモンと親しんでいるせいなのか、才能が遺伝することが多いのかは知らない。個人的には前者だろうと思っているが、おそらく多くのチャンピオンを志し、夢半ばで敗れた人たちは後者だと信じてその子供たちを持ち上げるのだろう。

 そうして幼い息子の目指す道が周囲に囲まれ一つしか選べなくなることを恐れていたのだろう。オモダカはハヤが幼い頃はわざわざ世間にその存在を伝える必要はないだろうと言って彼を多くの人の目に晒すことはしていなかった。結婚したこと、子供が出来たことまでは隠してはいなかったが、わざわざ結婚報告のコメントを出したりはしていないし、プライベートなことなのでと詳細はぼやかしていた。父親が基本的に顔出ししていないチャンプルタウンのジムリーダーであり、四天王の一人であり、ついでにリーグ職員だということは近しい人以外は知らなかったはずだ。

 そのおかげか幼い日の憧れを変に歪めることもなく育ってくれたハヤは、普通にアカデミーに入学した後もその生活も楽しんでいたようだ。そうして初めての課外授業が始まって、ハヤも多くの生徒たちと同じようにジム巡りを始めた。


 ハッコウジムでナンジャモの動画に出演し、トップチャンピオンである母のようなトレーナーになりたい、と口にしたのは、その最中のことだった。ハヤ本人が自分の意思で親について語るのであれば好きに話して構わないし、両親についても公開して構わないと言ってあったが、わざわざ生配信中に言うとは、とその図太さに苦笑したことを覚えている。

 けれど、そのことでハヤの周囲はにわかにざわつくこととなった。今まで顔出しをしていなかったジムリーダーがトップチャンピオンの夫であったという話は思っていた以上に周囲の耳目を集め、アオキの元にも取材と称した野次馬が多く訪れた。適当に応対していたらいつしかオモダカとアオキの馴れ初めが勝手に作り上げられ、その両親に憧れトレーナーを志したハヤは将来のトップチャンピオンかと期待を寄せるような記事が並ぶこととなった。

 それと前後して、カラフシティでジムバッジを手に入れてから、しばらくハヤはジムに姿を見せなくなってしまった。課外授業の時期が終わってしまい、通常授業期間に戻ってからも、やがて次の課外授業が始まって、それが終わってもあの子がチャンプルジムに来たという報告は上がってこなかった。

 まさか、予想以上の周囲の反応に辟易してジム巡りを断念してしまったのか。そうやきもきしていたのはアオキとオモダカだけではない。ナンジャモは自分が配信したせいではないかと少々気に病んでいたようだし、同じくあの子の挑戦を待っているリップやグルーシャも気にしていたようだ。通常時はきちんと授業は受けているという話は聞いていたが、アカデミーの寮に入ってしまっているハヤと顔を合わせることはなくなっている。あの子が今の状況をどう思っているのかを聞くことは出来なかった。オモダカも理事長として、という顔をしてアカデミーを訪れては生徒たちの様子を伺っていたそうだが、中々息子には会えなかったし流石に部屋に押し掛けることは出来なかったらしい。ある日見つけた『子供は親がその道のエキスパートだと知ると、その道以外を選ぶ傾向にある』なんていうニュース記事を眺めて肩を落としていたオモダカの姿に、アオキもやるせない気持ちになったものだ。


 そうして大人たちが心配する中、ハヤがひょっこりとチャンプルタウンにジムチャレンジを受けに来たのは、あの子がカラフジムのチャレンジを終えて一年近く経った頃だった。二年生になって最初の課外授業がそろそろ終わろうという時期だったはずだ。彼の手持ちもいつの間にかずいぶんと強くなっていて、中盤のジムテストとして相応しい程度に手加減していたとはいえ、あっさりとアオキをねじ伏せてくれた。そんな息子の姿に、様々な思いが去来して喉が詰まったのを覚えている。歳をとると涙もろくなると言うけれども、本当なのだと思ったものだ。別にハッサクのように号泣したりはしていないのはもちろん、実際に涙を流した訳でもないし、ハヤの方はこちらの反応など気にせず手持ちを褒めていたけれども。

 そうして彼にジムバッジを授け、久しぶりに一緒に飯を食いながらこの1年どうしていたのかと聞いたところ、ただ単にパルデア中を巡って自分の手持ちを鍛えていた、という返事が返ってきた。カラフシティに来るまではアカデミーに入学して貰ったクワッスとボウルシティ近辺で捕まえたブレイズ種のケンタロスをメインの戦力として育てていたが、彼らが育ち進化してバトルが彼ら頼りになっていくうちにヒラヒナとイーブイが拗ねてしまったのだという。自分たちの方がハヤとの付き合いも長く、共に育ってきたのに、と。穏やかで控えめな子たちだと思っていたが思いの外負けず嫌いな一面もあったようで、もっと自分たちも戦いたい、強くなりたいと主張し始めたたのだという。とはいえヒラヒナもイーブイもどちらかと言われたら非力なポケモンだ。ロースト砂漠近辺で彼ら自身が野生のポケモンにバトルを挑むのはまだ力不足だと感じたハヤはアカデミー近辺に戻って一から彼らを鍛えていたらしい。その甲斐あって進化してすっかり立派になったクエスパトラとグレイシアの姿に、アオキの方が感極まりそうになってしまった。

 この1年の皆の懸念についてもさり気なさを装いながら聞いてみたが、周囲の反応なんかニュースは一切見てなかったから知らない、と言い切られ、脱力したものだ。どうやらハヤとしてはかくとうやエスパータイプが好みだけれども、手持ちのタイプの偏りと本人の資質を考えてグレイシアに進化させようということでイーブイと意見が一致したらしい。けれども、あまり店には並ばないこおりのいしを見つけるのに時間がかかったのがこの一年の半分ほどを占めていたそうだ。

 別に最年少記録を更新したければそもそももっと早く入学したし、周囲の声なんて気にしない。今でも変わらず母さんのようなチャンピオンになりたいと思っているし、四天王としての父さんを倒してやるんだと言われて、思わず幼い頃にしたように頭を撫でたら嫌な顔をされた。まだ成長期に至っていないのか背はアオキにはまだまだ並ばないが、大きくなった息子の姿はひどく眩しいものだと思った。


 その言葉通り、ハヤはその後マイペースにジム巡りを続け、チャンピオンテストにまで辿り着いた時には3年生になっていた。面接は問題なく終えて、二次試験へと進む。

 どうやら前言の通りに父親の対策は誰よりもしっかりしていたようで、アオキも2匹ほどは倒したものの割とあっさりと負けしてしまった。もっともアオキに対する対策ばかりで、その後チャンピオンに至る前のハッサクとのバトルを若干軽んじていたのか、二度ほどハッサクに敗れたためにアオキも同じ回数ハヤと再戦することになったのだが。それでも回を重ねるごとに息子もその手持ち達もバトルの経験を重ね成長しているのがわかって、感慨深く思ったものだ。きっとアオキ達と同じ理由で四天王の大将を勤め続けていたのであろうハッサクがハヤとのバトルが一段落する度に号泣したせいで、感極まるというほどにはならなかったが。

ポ ケモントレーナーとして、バトルをしていれば言葉以上のことがわかる。オモダカも同じなのだろう。既に3度ハヤを退けているが、その中でも挑戦するごとに息子が成長しているのを感じているのだろう。ハヤの知らないところで散々悩んでいた姿はおくびにも出さず立ち塞がっている。アオキに対しては少々反抗的なところも見せるハヤも赤ん坊の頃からずっとオモダカには素直に甘えていたし、オモダカにとっては何よりも大事な存在だ。きっと


 ウェーニバルがアクアステップで素早くキラフロルに一撃を入れるが、耐え切ったキラフロルの反撃に反応しきれず倒れる。ボールに戻したウェーニバルをねぎらったハヤは、最後の手持ちを送り出す。アオキとオモダカにとってももう一人の息子のような存在である、クエスパトラの姿に、一瞬オモダカの視線がトップチャンピオンとしてではない私情に揺れたような気がした。

 そうしてハヤが指示を出す。今度こそ母を超える為に。

「クエスパトラ、ルミナコリジョン!」


 クエスパトラの技を受けてキラフロルが崩れ落ちる。そんな相棒をねぎらったオモダカが、たった今チャンピオンになった少年に向き直る。


「素晴らしい勝負でした。おめでとうございます。チャンピオン・ハヤ……よく、頑張りましたね」


 トップチャンピオンとして合格を告げ終えたところで、取り繕っていた表情が緩む。純粋に愛おしい息子が思いを果たしたことを喜ぶ母親の顔でねぎらう。その言葉と共に後ろでチリとポピーが口々にハヤを讃える。

 どこか呆然としていたハヤはオモダカの言葉に、じわりと表情を変えた。キラフロルが倒れた時点で号泣を始めたハッサクがうるさいのでそっと距離を取ってコートの横に回り込んでいたアオキも「おめでとうございます」とそっと祝いの言葉を投げかけたが、そんな息子の顔を見て首を傾げる。

「……ありがとう」

「どうしてそんなに不服そうな顔をするのですか?」

 ようやく勝利を掴んだと言うのに、息子の顔にはどこか釈然としない、と書いてあるようだった。釣られるようにしてオモダカも少し怪訝な表情を浮かべる。そんな母を見返してハヤは呟く。

「だって、ドラパルトとブリガロンは出してこなかったから。手加減されていたんでしょ?」

「このバトルは私的なものではなく、チャンピオンテストの試験としてですから。私が歳を経るほどにチャンピオンになるのが難しいなんていう訳にはいかないでしょう。もちろん、決められた範囲内で全力で戦っていますよ。あなたが相手だからと手加減したつもりはありません」

「それは知ってるけど。本気の母さんにはまだ勝てる気がしないのに、チャンピオンだなんて言われても」

 ハヤの不満の理由を理解したのか、オモダカが微笑みを浮かべる。おそらくはその理由はむしろオモダカにとっては喜ばしいものだろう。

 幼い頃から今まで、オモダカのようなチャンピオンになりたい、と願ってきた可愛い息子。その願いを嬉しく思いながらも、実際にチャンピオンランクになった途端に目的を見失うことはないだろうか、と以前オモダカがふと不安を零していたことを思い出す。

「チャンピオンランクへの到達はゴールではありませんよ。関門のひとつでしかありません。ですからこれからは新たな目標を見つけてくれたらいいんですよ」

「……そうかもしれないけど」

 オモダカのとりなしにもまだ納得しきれないのか、ハヤは何となくすっきりしない表情を浮かべている。

 どちらかと言うと、ようやく倒したとはいえ自分の力不足を痛感しているのかもしれない。実際、ハヤよりも輝かしい才能の持ち主もいるということはアオキも知っている。入学直後にあっという間にチャンピオンロードを駆け上った才能の持ち主を少なくとも二人は知っている。単純にスピードだけで比較出来ることではないとは思うが、それを知っていれば懐疑的になる気持ちもわからなくはない。

 そう思ったアオキはハヤに言葉を投げかける。

「チャンピオンに相応しいのは、才能に溢れた人、かもしれませんが。全てのトレーナーの道しるべとなるべきチャンピオンとして必要なのは、誰も並ぶことのない才能の有無よりも、努力し続けられる人かどうかではないかと思いますよ」

 幼い頃から図太さを見せる息子に、散々似なくていいところがアオキに似ていると周囲に言われたものだけれども。きっと本気で中身がアオキにそっくりなら、こうしてここにいることはなかっただろう。オモダカが危惧していた通り、どうせ親に敵わないならもういい、と途中でやる気を無くしていたかもしれない。

 けれどハヤはそうではない。相棒達の不満をきちんと汲んで、多少遠回りでも構わずに付き合い続けて。直接的に評価されることよりも、ポケモン達の意思を優先させられる。それだけでも評価されて然るべきだろう。そしてチャンピオンとなった今も驕ることなく自分を見つめられるだけの冷静さも持っている。

 あの子が幼い頃に周囲の皆が思っていたよりも、ずっとオモダカに似ている。オモダカと全く同じ道を行くことはないかもしれないが、きっと更に高くを飛ぼうという意思があるなら、この先に何があっても大丈夫だろう。

「……何か、いい話と見せかけて惚気られてる気分になるんだけど」

「褒めているつもりなんですから、素直に受け取れないんですか」

 けれど息子にはジト目で睨まれ、思わず苦笑する。もっともアオキとしてもハヤの意見を否定はしきれない程度に、オモダカのことを考えながら投げかけた言葉ではあったが。

 それでも少しだけハヤの表情も緩む。そんな息子にアオキは一言付け加えてやる。

「ちなみにオモダカだけではなく自分も本気を出せばまだあなたに負けるつもりはありませんので」

「知ってるよ。もっと強くなって本気の父さんも倒してやるから」

 やはりオモダカに対する尊敬の念とは違って、アオキはハヤにとって倒すべき相手と認識されているような気がする。 

「はいはい、話は終わったん? ごちゃごちゃ言わんと今日くらいは素直にチャンピオンランクになったことを喜べばいいんや」

「そうですの! 私のことも、トップもハッサクさんもアオキさんも倒したんですから、それは誇っていいんですの」

「え゛え゛、よ゛く゛がんばりま゛じだ……っ!!」

「ほら、ハッサクさんもそろそろ落ち着き。そりゃどんな新チャンピオンより思い入れがあるのはわかるけど、ハヤを困らせるもんやないで」

 チリに後ろから抱きつかれながら祝われ、ポピーも笑顔で同意する。ハッサクは相変わらず号泣しているが、やかましく

 そんな状況に辟易としながらも、ようやくハヤも笑みを浮かべる。ようやく状況を受け入れられたらしい息子の姿にアオキとオモダカと顔を見合わせ、小さく笑った。


 あの子が生まれた時、最終的にハヤという名に決めたのは、オモダカだった。あまりに色々と考え過ぎて訳がわからなくなっていたアオキが他のジムリーダー達から案を貰って、その中で生まれてきた子の顔を見て一番しっくり来る名を付けた。確か案をくれたのはナンジャモだっただろうか。決めたのはオモダカだという印象ではあるが。

 ハヤ……ブナの木は『繁栄』のシンボルだ。あの子がパルデアを繁栄に導けるような子になるように、何よりあの子の未来が栄えあるものであるように、と。あの子が生まれた時、オモダカはそう願って名付けたはずだ。

 あれから15年。

 実のところハヤ自身が疑った通り、誰よりも輝かしい才能を持っている、と言うほど順風満帆な道を辿っている訳ではないかもしれない。将来的にあの子がどうなるのかはわからない。きっと輝かしい未来に辿り着けると思いたいが、それは神のみぞ知る、ということだろう。


 既に親として出来ることはもうほとんど無いだろう。後はあの子を信じて、見守ることくらいしか出来ない。

 あの子の未来が繁栄と共にあるように。笑顔を見せる息子の姿に、アオキはただそう願った。


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