視線
モネLOVE「……うーむ」
最近、帰っている途中によく視線を感じる、特にその視線が顕著になるのは雪が降っている時だ。しかしその時に周囲を見渡しても一面雪景色のみであり、人影らしきものは見当たらない。
このまま放っておくわけにはいかないので誰かに相談したいのだが、良い相談相手は誰がいるだろうか……
「……あっ、あの人がいいかもな」
俺は早速思い浮かんだ人物の元へと足を運んだ。
「…成程、最近誰かにつけられている気がすると」
「はい、今のところ視線を感じる以外には何もしてこないのですが、このままエスカレートすると考えると不安で」
「誰かに恨まれるような事とかした記憶はあるの?」
「いや、特には」
モネさんは少しの間頭を抱え、そして俺の目を見据えると
「じゃあ今日は私と一緒に貴方と一緒に帰ってもいいかしら?」
「えっ!? な、なぜですか?」
「もしかしたらその人は貴方に好意を抱いている人かもしれないの、その人に後をつけさせるのをやめさせるには貴方に"彼女"が居ると勘違いさせるのが1番良い方法だと思うのだけれど、どうかしら?」
突然の発言に思わず言葉が詰まってしまった、いやしかしこれは本当に良い方法なのか? 仮に俺を好きだったとして、その気持ちを俺に直接伝えずこうしてストーキングをしてきているのだ、碌な人物では無い可能性が高い。
「大丈夫よ、その人が襲いかかってきたとしても私が守ってあげるから」
モネさんは私の考えを見透かしたかのような、しかしその言葉はとても頼もしくて、俺は思わず安心し
「…それではお願いします」
と、モネさんの提案を受け入れるのであった。
▲▼▲▼▲▼
仕事が終わり、これから帰宅の準備に取り掛かるところにモネさんはやってきた。
「お疲れ様ですモネさん」
「ええ、貴方もお疲れ様。これから帰るところでしょ?」
「はい。本日は俺の為に手間をかけさせて申し訳ございません」
「別に構わないわ、私もこの時間帯からいつも帰っているの」
「そうなんですか。 …その手に持ってるケースらしき物はなんですか?」
「これ?これは秘密、あまりそう言うのは探らない方がいいわよ?」
「すみません配慮が足らなくて」
「いいの、じゃあ、一緒に帰りましょうか」
そうしてモネさんは一緒に俺の家まで同行してくれることになった。そして昨日視線が感じた場所まで来た所で、俺は感覚を研ぎ澄ました。
「…感じない」
今日は昨日と打って変わって全くと言っていい程に視線を感じることはなかった。
「今日はストーカーさんはいないみたいね?」
「ええ、何故今日はいないのか分かりませんが好都合ですね。もしかして諦めてくれたのでしょうか?」
「まだ油断しない方がいいわよ、もしかしたら襲ってくるかもしれない」
しかしそんなモネさんの予想は外れ、結局視線も何も感じないまま家に辿り着いた。
「…本当にすみません、まさか今日は姿を現さないどころか気配すら感じないとは思わなくて」
「いいの、貴方が無事で何より」
「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、メシ作りますよ」
「あら?お家デート?嬉しい♡」
「いえそこまでは言ってないです」
「……冗談よ。じゃあお言葉に甘えてご馳走になるわ」
今少しだけ不機嫌な表情をしていたような気がするが、まあ気のせいだろう。俺はモネさんを中に入れて、そしてメシの準備へと取り掛かろうとした。
「少しいいかしら?」
「はい、なんでしょうか?」
「今日、そのストーカーさんが現れなかった事って偶然だと思うかしら?」
「……どういうこと
俺はいきなりモネさんに床へ押さえつけられた。今の状況が飲み込めず、混乱してる俺を見てモネさんは笑った。
「ふふっ、可愛い♡ じゃあ鈍い貴方にネタバラシをするわね」
「貴方が鬱陶しく思ってるストーカーは私よ」
次から次へと脳へ送り込まれる情報、その多さと内容の濃さに吐き気すら覚えた。そして思わず出た声が
「なぜ」
「貴方が好きだからよ」
「なぜ」
「いつも私のことを色々と褒めてくれるからよ。初めの方はお世辞として受け入れるようにしたけど、それでも貴方が褒める事を止めないからいつしか絆されちゃったの。…理由はこれでいいかしら?」
分からない、いやわかりたくなかった。
俺がいつも尊敬していて、俺には無い長所が沢山あったモネさん、俺は思わず声に出していた時が何回もあった。まさかコレがモネさんをおかしくさせていたとは思わなかった。
「今日は本当に良い日、だって貴方の方から家に誘ってくれたもの、これはもう同棲するしか無いわよね?」
「本当に何を言ってるんですかモネさん……とりあえず離れてください…‥お願いしますから……」
「ごめんなさいね。…そういえばご飯を作ってくれる話だったわね、でも貴方は色々あって疲れてるでしょ?だから今日から私が作ってあげる♡」
そう言うとモネさんは立ち上がり、台所へと迷わずに進んで行った。色々と脳にこびりついた疑問は剥がれないままだが、今はそれを考えてる時間はない。
今が逃げられるチャンス。
そして俺は玄関へ急いで行き、そして扉を開けた。
「"雪垣"」
しかし突然目の前に雪の壁が生成され、逃げる事はできなくなってしまった。
「やっぱり逃げようとしたわね、いい?よ〜〜く聞いて?
これから私とアナタはここで一生暮らすの、アナタは外に出させない。他の女の子に目移りしちゃうかもしれないから。
今回逃げようとしたことは見逃してあげるけど、次逃げようとしたらアナタの手足を私の能力で壊死させて、私無しでは生きられないカラダにしてあげるわ♡
ふふっ…お金のこととかは心配しないで?アナタは私のことだけを見ていれば良いの、考えてほしいの、"私"を感じてほしいの、それだけで私は満たされるわ。
もうっ、暴れないで頂戴。 …そうだ、今日の晩御飯のメニューは
アナタを頂くことにしたわ♡
勿論アナタは私を食べても良いわよ?こうすれば私のお腹は膨れるしアナタも満足できるでしょ?
じゃあ……いただきます♡」
どうしてこうなってしまったのか、その答えは出るはずもなく、なされるがまま夜を営んだ。
終わり