視えるアンリちゃんとエゴイスト
(アンリちゃん絵心さん周り捏造)(起承転結の無い雑談)
祖母の家の箪笥の中身みたいに地味な配色。
初めて幽霊を見かけた時の帝襟アンリの感想はそんなものだった。
髪も肌もボロボロの衣服も薄汚れて黒か薄茶だったし、流れている血も白目も劣化して濁っていたから。
暗さ一色のその生き物……死に物?
どっちかな物は当時3歳のアンリに喃語のような呻き声を発しながら近付いてきたが、アンリが手にしていたキ○ィちゃんの除菌スプレーをしゅっしゅと両手で吹いて「ばっちいの! やーやーなの! くちゃいの!」と訴えかけている内にショックを受けた顔で消えていったのを覚えている。
いたいけな幼女に全身全霊で不潔だと嫌がられるのは時に粗塩や聖水よりもダメージを喰らう。自分と同じく幽霊が見える体質だった父は、娘の話を聞いてそうしみじみと呟いていた。
お父さんも大きくなったアンリにパパの服と一緒に洗濯しないでって言われたら泣いちゃうよ、とも語っていたっけ。
「──っていうのが私の初めて幽霊を見た時のエピソードなんですけど、絵心さんはどうでしたか?」
どういう流れからそんな話題に収束したかは忘れたが。
アンリと絵心は、それぞれ書類作業とモニター確認と並行する形でそんな雑談をしていた。
「覚えてない。そもそも霊感を自覚するまで、あれらは幽霊のコスプレをした物好きな変態野郎どもだと思っていた」
興味の薄そうな声色で視線も寄越さずにさらりと答える。過去に思いを馳せている様子も無い。
相変わらず心の辞書に愛想や愛嬌といった文字は綴られていない男だ。
「えぇ……首がとれてる幽霊とか、足のない幽霊とかもですか?」
「首がとれてる幽霊の仮装だと思ってたし、足のない幽霊の物真似だと思ってた」
「はぇー……」
「何か言ってきても適当にあしらえば勝手に帰ったしね」
「ふえぇ……」
思わずゆるキャラじみた鳴き声が連続で出る。鈍感と言えば良いのか、無関心が過ぎると言えば良いのか。
確かにこの男なら、どんな剣呑な雰囲気の悪霊に恨み言を吐かれても真正面からズケズケと言い返していそうだ。
そういえばモニター越しに潔世一が似たようなことをしている姿を見たことがある。
やはりエゴイストたるものそれくらいのスタンスでいなければやっていけないのだろうか。