規格外
「最強の『次席』にして特級呪術師、黒川蘇我。」
「またの名を——『天道』!」
(あの者の呪力・・・なにかおかしい・・・?)
東堂が眼前の女性の名を紡ぐ。彼女はこちらに顔を向けず一言「間に合ってよかった。」そうつぶやいた直後にすさまじい風が吹く。
——そして二人が気づいたときには『特級呪霊の目の前で崩拳の構えをとっていた。』
(なんという瞬発力!術式での防御が間に合わない!)
「ハッ!!」
容赦なく突き出される拳。それに対し花御は回避と術式による防御をあきらめ呪力で固めた腕をクロスさせガードの姿勢をとった。その選択は間違いではなかった。黒閃ほどではないにしろその打撃は虎杖や東堂のそれとは比較にならず、当たった瞬間両腕が軋み衝撃で数メートル後退するほどの威力を持っていた。へたに回避や術式を使おうとすれば、ガードが間に合わず一撃でこれまで以上の手傷を負わされていたかもしれない。
(これだけの威力・・・次の攻撃までの隙は大きいはず。まずは体勢を立て直す!)
そう読んだ花御は後退の間に呪いの種子を数発撃ってけん制を試みる。しかし目の前の暴風がその進行を止めることはない。少しの間の後追撃するべくもう一度加速し、通り掛けに風を浴びた呪いの種子が急成長し大輪の花が咲く。
「逃がさない——っ!?」
しかし花御も同じ轍は踏むまいと木の根を生やし黒川を足元からすくい上げ宙に浮かせ、自由落下を始めた目標に対し種子による追撃を行う。
(おそらく先ほどの様子からするにあの急激な加速は足から生じた風を地面と衝突させることで実現しているもの。空中では十分な加速はできないはず。故に回避は困難。そして呪力で守る限り私の種子は防げない。これで終わりです。)
黒川は呪力を最大まで練り上げる。
「ダメだ!あれを呪力で受けたら——」
虎杖が言い終わる前に変化は訪れた。落下中の攻撃。先ほどの虎杖や東堂とは違い回避する手段がなく、また呪力で防げばそれを糧に強化される種子。東堂は術式を発動し黒川と花御を入れ替えようとしたそのとき——
「!?」
彼女は『空中で弾かれたように急加速し飛来する種子を回避した。』
そして勢いをそのままに花御へ接近し、お返しとばかりの一撃を叩き込む。
(空中での機動すら可能とは!だが、前の攻撃と違いこちらは備えができている。勢いをつけてくるのならそれに合わせて迎撃するだけのこと。)
右腕で打撃をガードしその速さを逆手にとってのカウンター。しかしそれは不発に終わった。拳を受け止めていたはずの手が『2度目の衝撃によって弾かれ』体勢を崩されたからである。
「あれって・・・逕庭拳!?」
逕庭拳。それは虎杖の速すぎる瞬発力に呪力が遅れてやってくることで一度の打撃で二度の衝撃が発生する非常に特殊な技。しかし彼女のそれは、虎杖が使っていたものとは全くの別物だった。呪力を使わない素の打撃こそ虎杖とほぼ同等だが呪力が衝突した時の威力が段違いで、花御を大きくのけ反らせる。そのまま胴体に打撃を数発打ち込み豪快な回し蹴りで木々の生い茂る森へ吹き飛ばす。
「よく見ておけ、ブラザー。あれが、五条悟に次ぐ強さを持つと言われる呪術師の戦いだ。おそらく呪力操作と体術だけであの呪霊を圧倒している。」
「え、それってつまり・・・。」
「ああ、彼女は術式を使わずにあそこまで一方的な戦いをしているということだ。特級呪霊を相手にそんなことができるのは五条悟とミス黒川くらいだろうな。」
膝をつき伏せる花御にとどめを刺すため近づく黒川が異変に気付くのはすぐだった。
周囲の植物が急速に枯れていき、呪霊の左肩に咲く花に呪力が集まっていく。
「植物は呪力を孕みません。私の左腕は植物の命を奪い、呪力へと変換する。」
「それが私に還元されることはない。そのすべてはこの『供花』へ。できることなら使いたくはなかった・・・。」
そこに虎杖と東堂の二人が到着する。
「二人とも来ちゃダメ!ものすごい呪力出力です!」
「しかしあなたの瞬発力があれば、躱すのはたやすいでしょう。ではどうするか。」
黒川がその意味を理解し、掌印を結ぶ。
「「領域展——」」
領域展開。一方は起死回生のために。もう一方は守るために。しかし、同じ詞を紡ぐ両者の極点が衝突することは無かった。
五条悟によって帳が破られたからである。
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以下原作展開