見聞色もこうなると考えもんだな
背後に誰かが近づく音。ルフィのよく知っているその気配に一切の警戒もなく振り返ろうとした瞬間先に声をかけられた。
ふと、その声に普段にはない緊張の色がほのかに混じっていることに気づく。
「……おう、お前もこっちに来てたのか」
驚かせないようにいつも通りの笑顔で振り向いたつもりだったが、つい無意識のうちに見聞色が出てしまった。
相手の肩越しに今見ている景色が見える。顔はルフィの首筋に埋められ、何かつぶやいている唇がゆっくりと這う。片手で頬を包まれ、見たことのない近さで瞳をのぞき込まれる。耐えられず逸らした視線の先にあった唇がゆっくりと近づいてくる……。
ルフィははっと我に返る。
何なんだ?これは?……意味は多分わかる、だが一体どういうことだ?
混乱した思考は止まり、今度はルフィの躰の芯がにわかに緊張する。ドクンと跳ねた心臓が喉までせり上がりそうで思わず生唾を飲みこんだ。
そして顔を上げると目が合った。ずっとこっちを見ていた。そして伝わるのは緊張ではなかった。相手の焦燥感がまるで吹きつける熱風のように感じる。そして目が逸らせない。
ルフィの頬がどんどん熱くなる。恥ずかしい。思わず腕を上げて顔を隠す。
———覚られた。相手に。未来を見たことを。おそらく何を見たのかも。
そんなことは時間にしてみれば一瞬だったのだろう。ルフィは顔を隠した直後に抱きすくめられていた。そして肩越しに、さっき見た風景が再現されている。
ぎゅぅっと、背中に回された腕に力がこもる。首筋に押しつけられた唇からは熱い吐息が漏れ、ルフィの耳の裏をくすぐる。見ただけではわからなかったぞくぞくとした未知の感覚に足の力が抜けそうになる。唇が食むように進み、言葉が肌を撫でる。
「なにが見えた?」
ルフィはびくっと肩を震わせ、思わず相手の服の裾を握りしめた。今はもう体中が熱い。
「いや、ま……ちょっ、まて…」
緊張で声がかすれてうまく喋れない。いや、これは緊張か?戸惑うルフィの頬を相手の手のひらが優しく包む。
瞳をじっと見つめられる。奥に燻る情欲の炎。これはもしかして自分が写し出されてるんじゃないか?
たまらなくなり視線を逸らした。そして。
唇が、ルフィの唇の形を確かめるように何度も柔らかく触れ、最後にちゅ、と小鳥のような音をさせて離れた。
頬を寄せ、今度は耳朶を挟むように口づけられると、熱い息と言葉を注ぎ込まれる。
「本気出せば逃げられるのに……逃げなかった」
「それはっ…その…」
真っ赤になってうつむくルフィの顎がすくわれ、まだ何か言いかけた唇が塞がれた。手が服の下を滑り、汗ばんだ背中を撫で、強く抱きしめる。
舌が唇を割りルフィの言葉にならなかった吐息をかき回す。丁寧に口の中を愛撫され、今ははっきりと自覚した快感でもう立っていられなくなる。
ルフィはパチパチと白く溶けていく頭の中で、ふたりとも素肌のまま、相手の腕の中で躰を反らせ、受ける愛に全身で答えている自分の姿が見えた気がした。
でも、見聞色はそんな遠い未来は見えない。
これは、おれの願望なんだろうか。
戸惑いながら、不慣れな手つきで相手の首に腕を回してそんなことを思う。そして思考は白く塗りつぶされていった。