見抜きと手こきのやつ

見抜きと手こきのやつ


「ほんと!何もしなくていいから!」

頭を下げて声を張り上げるマスターに、エルメロイⅡ世は、困ったように眉をしかめて首を振った。

「そういう問題ではなくてだな、その、私は男だし、君はまだ子供で、そういうことはあまり……」

Ⅱ世の指摘は最もだった。マスターが頼んでいたのは「Ⅱ世をオカズに目の前で自慰をさせてくれないか」という申し出だったからだ。別にオカズにする分には黙って勝手にやってくれればこちらに害は無いのだが、なぜ目の前でやろうとする?

「それに、君の周りには魅力的な女性が沢山いるだろう、こういうことを勧めるべきではないのかもしれないが───」

何も40も手前の、草臥れた男でなくて良いだろうと言外に伝えるも、藤丸はがばりと顔を上げて、

「先生じゃなきゃ、ダメなんだ」

そう、強い意志の宿った声で訴えてくる。これは、了承するまで帰らないつもりだぞ、と理解した。マスターである以上傷つけることは出来ないし、どうやってこの場を切り抜けるものか……



正直、賭けだった。けれどその賭けはおそらく成功したっぽい。どうしたものかと考えあぐねている先生を見て、自分の勝ちを確信した。先生は多分頼み込めばこれくらいは許してくれると踏んでいたが。ダメ押しとばかりにもう一度頭を下げる。

「お願い!絶対に先生には何もしないって約束する!目もつぶってていいから!」

お願いします!と深く頭を下げると、頭上からこれ以上ないほどのため息と共に

「本当に何もしなくていいんだな」

という言葉が聞こえ、内心強くガッツポーズをした。


「じゃあ、よろしくお願いします」

「…………あぁ、勝手に始めてくれ」

目をつぶったまま、ベットの縁に座った先生が答えた。飛び散らされたら堪らんと部屋から持ってくるよう言われたゴムを取り出し、チャックを開ける。ジジ……という音に少しだけ俯きが強くなる。俯いた上に顔は背けられていて、横顔しか見えなかったが、そのシチュエーション自体が興奮を煽り、既に愚息は臨戦態勢だ。適当にゴムをつけて、先生の方を向いて肉棒を握り込む。

くちゅ……ぬちっ……くちゅ……

先生と向かい合う形で、肉棒をゆっくりと扱き始める。根元からカリまでゆっくりゆっくりと扱く。耳も塞ぎたいのだろう。ぎゅっと寄せられた眉に、眉間の皺が強くなっていた。あの皺に先をこすり付けたい。真っ黒なスーツを穢してやりたい。その薄く、固く閉じられた唇に熱くて太いものをぶち込んでやりたい……。

「はぁっ……はぁ……」

息が酷く荒くなっていることに気づき、少し苦笑する。時折薄目でこちらを覗いてくるのに煽られて、扱くスピードが早くなっていく。

「先生……俺、もう、いきそうです……!」

返事は無いが、こくり、と頷いたのを確認してさらに強く握り込む。緊張からか、不快感からか、上ずった呼吸の中で、喘ぐように口を開いては閉じる先生の頰も少し赤くなっているように見えてたまらない。極度の興奮に、腰の奥がじゅわじゅわと熱くなってくる。背筋にぞくっとしたものが走る。あ……ダメだ、と思った時にはもう達していた。

「あっ……っ……!!!」

先端からどぷっと精液が溢れ出す。そのままゴムの中へと流れ込んだのを確認し、抜いて縛って、ゴミ箱に投げ捨てる。さっさと処理したとはいえ、臭いが少し気になるのか、強く眉をしかめていたⅡ世が、ゆっくりと目を開ける。

「終わっ……たのか?それは」

仕方ない、と思う。まだ勃起している自分の股間を見て、先生は心底嫌そうな顔をした。その顔が自分を煽っているのだと、自分の色気にどこまでも無自覚なこの人に、興奮にも似た苛立ちを覚えた。

「……本当に、私で抜いているんだな……」

がっくりと項垂れて、眉間を揉むように手をやっていたⅡ世が、何を思ったのか、こちらに向き直る。

「……手で、してやろうか」

「えっ」

「手袋のままで、いいなら」

嫌ではない。むしろお願いしたいくらいだ。でも、先生のあの黒い手袋で握られて、その中に射精する妄想をして、ブンブンと首を振った。

「でも、なんで……」

「いや、早く終わって欲しいだけだ」

嫌そうな顔はそのままに、Ⅱ世はスーツのポケットから葉巻ではなく煙草を取り出し、火をつけた。片手で煙草を咥え、もう片方の手で輪っかを作り、そのままゆっくりと俺の肉棒を握る。一瞬びっくりしたような動きをして、そのまま優しく握られた。加減が分からないのか、弱い力のままゆっくりと上下に扱き始めたのを食い入るように見る。手袋に包まれていてもなお分かる長く細い指、硬い手の甲に浮き上がる筋。いつもは葉巻を握る指先が、今だけは俺のモノを握っている。その光景に頭がクラクラした。

「う……はぁ……あ……先生……」

「……呼ばないでくれ、正気に戻りかける」

たまらず口から声が漏れる。先生の顔を見れば、眉間の皺はそのままで、けれど先程とは違い、しっかりと視線を握ったモノに向けていた。先端から先走りが溢れるのを、血管が脈打つのも、全てを見られている───そう思うと耳がキンと張り詰めて、先生の息遣いさえも聞こえてくる。そのままゆっくりと、先生は同じ動きを繰り返していて、じっくりと快感を高めていくような動きは嫌いじゃないけど、さすがに焦れったい。

「……あの、先の方を……」

「…………」

黙ったまま、指先が竿をなぞり、親指が先端にかかる。そのまま少し強く鈴口を擦られて、息を詰めてしまう。ヌルヌルとした先走りが先生の黒い手袋をてらてらとさせていて、視覚でも快感を煽ってくる。慣れてきたのか、少し強い強さで、ぐりぐりと先端を虐められる。

「はぁ……っ、イく、もう出る……!」

とどめとばかりに、強く扱かれ、今までで一番の快感が襲う。腰がガクガクと震え、先生に握られた肉棒からはびゅる、びゅるるるっと精液が溢れ出た。こぼされないようにか、そのまま先の方を長い指で包んで、先生の手袋が、精液をすべて受け止めていた。黒い手袋が白い精液でいっぱいになっていて、コントラストに脳が焼かれてしまいそうだ。そっと手を退けて、ティッシュでしっかりと手を拭うと、先生は罰が悪そうな顔をして、箱を投げてよこした。

「ごめん、手袋……」

「いやいい、クリーニングに出す予定だった」

それはまた、この手袋を身につけると?嘘みたいな妄想で、俺の愚息はまた立ち上がるのだった。

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