【見回り】編 ③ -見回り-後
───別に、何か特別な存在になろうだなんて思っていません。別に、『正規品』に成り代わりたいと思っているわけでもありません。
ただ私は、この世界で生きる者として、同じアリスのみんなと何気ない日常を過ごしたかっただけなんです。
それなら、正規品の『代替品』として世の中を過ごすのも悪くないと思っていました。
でも、現実はもっと残酷だった。『代替品ですらない』。
結局、私たちは何者としても生きることを許されず。蓋をされ、日の目も見ることもないまま、ただ忘れられることを望まれました。
何もできなくて。何もさせてくれなくて。私たちは日常を過ごすことすら出来なかった。ただ、排除される腫れ『モノ』でしかなかったんです。
きっと、機械の『日常』とはなんだ、と思う人もいるんでしょうね。実際、私も分からなくなったことがあります。
もともと私たちに『日常』なんてあるはずがない。それこそ、許されていないでしょうから。
でも、気付いたんです。私の考える『日常』は、私の求めている『日常』は───今キヴォトスで生きる住民の『日常』であることを。
私はきっと、キヴォトスの人たちと。そして、『正規品』の皆さんと───対等になりたかったんだと思います。
もちろん、分かっています。きっと正規品ですら、人と対等ではない。あまりにも傲慢な願い。
だけど、私は───諦められないんです。
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[百鬼夜行連合学院 裏路地街]
ダダダダダダッ!
銃声と共におびただしい数の銃弾が飛んでくる。狙いは───
39号(ミク)(この弾幕、ターゲットを絞っているとは思えない…!海賊版アリスを目的にしているものではないってことですね!)
ユカリ(つまり狙われているのは───身共たちを含めた全員、ですの!)
すぐさま背負っているケースから砲塔を取り出し、後ろのアリスをかばうように盾にする。
ユカリ様まで守るスペースは作れなかったが、どうやらうまく横に躱せたようだ。
39号(ミク)「ユカリ様、お怪我は!?」
ユカリ「問題ありませんわ!」
???「チッ、かすりもしないか。そう簡単にはいかないな、百花繚乱は。」
39号(ミク)「とにかく、このアリスの子を逃がして「待って、ミクちゃん。」」
言いかけたところでアリスちゃんに遮られる。
39号(アリス)「たぶんそれは難しいと思う。ここで守りながらやりあった方が勝機があるよ。」
39号(ミク)「どうしてですか?」
39号(アリス)「ここ、『完全な一本道』だよ。建物の入り口もない。」
39号(ミク)・ユカリ「「………!!」」
アリスちゃんの言う通り。そこには身を隠せそうな障害物がほとんどない、平坦な一本道だった。
海賊版アリス「ご……ごめんなさい……ごめんなさい……」
???「ご理解が早いようで。」
39号(ミク)「海賊版アリスを追ったら、最悪の状況で集団に襲われた……都合が良すぎますね、流石に。」
39号(アリス)「うん。つまり───」
海賊版アリスを利用して『誘い込んで』きた。本当の奴らの目的は───
ユカリ「身共たち、ですわね。」
???「へえ、そこまで…予め読まれてたかのようだな。だが───」
ジャキッ。
再び、複数の銃器が向けられる。
???「この人数差で勝機があるとは思えないなぁ?大人しくくたばれ!」
ダダダダダダッ!
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[百花繚乱紛争調停委員会本部 調停室]
百花繚乱の部員「あの、キキョウ先輩。どうして海賊版アリスの一件から、見回りの活動に繋がったんですか?
普段から見回り自体は各自が行っていますし、大々的に徹底するものなのでしょうか…?」
事務活動の報告ついでに、雑務を担当している部員はキキョウに尋ねる。
部員「……あっ!不満がある訳ではないんですよ、もちろん!」
キキョウ「分かってるから、大丈夫。
───まあ、そうだね。最初は私も、回りくどいことなんてしないで海賊版アリスの捜索に力を入れた方がいいんじゃないか、って考えてた。」
お茶をすすり、続ける。
キキョウ「───でもね。本当に危険なのは私たちの方なんじゃないかと思ってる。」
部員「えっと、どういうことですか?」
キキョウ「最初はその海賊版アリスを私たちに処理させる、って目的だった可能性が高い。今まで私たちはアリス達の扱いが煩雑と言わざるを得なかったから。
でも今回、私たちは海賊版アリスを保護して、そこから情報を聞き出して行動し始めてる。アリス達の証言に犯罪組織が絡んでるような情報があったのは、貴女も聞いたでしょう?
そして相手は腐っても犯罪組織。何も現状を知らないとは思えない。」
部員「えっと、つまり───」
キキョウ「考えてる通りだと思うよ。今まで実質的に無害だったアリスに纏わる犯罪組織が、軒並みこちらに牙を剥いてくる。」
部員「そ、そんな…大ピンチじゃないですか!?」

ナグサ「───だけど、これはチャンスでもある。そうでしょ、キキョウ?」
静かに話を聞いていたナグサが声をかける。
キキョウ「……そう、その通り。
こっちが奴らを迎撃して、逆に奴らを捕まえて情報を聞き出す。アリスの状況を把握するにしろ、犯罪組織を特定するにしろ、それが一番手っ取り早い。
単独行動を禁じてチームを組ませたのはそれが理由。ちゃんとその辺りの旨も見回りの担当には話してるよ。……言い出しっぺのレンゲは、たぶんそこまで考えてた訳じゃないと思うけど。」
それを聞いた部員は焦って反論する。
部員「……で、でも!それならちょっと人数が少なくないですか?39号ちゃんとユカリちゃんのところとか、ナノハ先輩は戦闘ができませんし───」
キキョウ「非戦闘員がいるところにはちゃんと人数を多めに入れてる。ナノハは大丈夫だよ、私が保証する。
───それに、人手が足りなくなったときのために、協力も要請してるから。」
部員「協力……?」
ナグサ「うん、あくまでお願い程度に、だけどね。」
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[百鬼夜行連合学院 裏路地街]
ガキンッ!カンッ、カンッ!
組織の構成員「クソッ、ちょこまかと!」
構成員「どけっ、カバーする!」パァン!
39号「「………っ。ちょこまかとしてるのはどっちですか!」」ひゅん、シュタッ。
39号(ミク)(近接戦を仕掛けても、すぐに他の相手に阻まれて距離を取られます。遠距離攻撃に切り替えた方がいいですかね?)
39号(アリス)(いや?相手は近接戦に慣れてなさそうだし、間合いを詰める隙はあるからむしろ徹底するべきかも。それにこっちには───)
ユカリ「お二人とも、ここは身共が!」
ユカリ様に合図され、咄嗟に横に跳ねる。
〚まっすぐに芽生えた決意〛
ドゴォン!!
「「ぐああっ!!」」
ユカリ様の強力な一射が、数人を爆風に包む。はたから見てもとてつもない威力だ。
構成員「くっ…この火力は、堪えるな……一度引くか?」
構成員「……!いいや……」
ユカリ「………っ!」ズンッ。
すぐに、ユカリ様の動きが鈍くなった。
構成員「どうやら連発はできないらしい。反動もある───なら、話は別だ。」
ユカリ(もう気づかれましたのね…!)
必死に体を動かそうとするユカリ様を守るように、鉈と砲塔を構えて立つ。
39号(ミク)「落ち着いてください、ユカリ様。撃った後の立ち直りはカバーします。」
39号(アリス)「ああ見えてあいつら結構効いてるよー、今の一撃。じっくり行こう!」
ユカリ「ありがとうございます、お二人とも…らうんどつー、ですわ!」
海賊版アリス「ど、どうして私も……私は───」
39号・ユカリ「「「大丈夫です、絶対助けます!」」わ!」
海賊版アリス「……!はい……!」
再び互いが動き出そうとする───そのとき。
???「とぉりゃー!」
バキッ!
構成員「ぐあっ!」
相手の内の1人が後ろから蹴り飛ばされる。
構成員「なっ、なんだお前!?」
???「ふっふっふっ、ピンチのときに颯爽と駆けつける正義のヒーロー ───
───勇美カエデ、見・参!
……これ、言ってみたかったんだよねー!」
カエデさん───そうか、修行部の!
構成員「っ!なんだこのガキ!」
カエデ「……こ、これから!素敵なレディーになるつもりだから!」
構成員「うるせぇ!お前もこいつで吹っ飛ばす!」チャキッ。
パァン!
彼女に向かって放たれた弾丸が───
〚戦闘用シールド、装着〛
ガキンッ!
迅速に割り込まれた盾に阻まれる。
???「危ないなー…でも、させないよ?」
その大きな盾から少しずつ姿が鮮明になる。
ツバキ「大丈夫、カエデ?」
カエデ「ツバキ先輩!ありがとうございます!」
修行部の部長、春日ツバキさんだ。
バババババッ!
構成員「くっ……!」
???「二人とも、大丈夫ですか!?」
???「ご無事ですかー!?」
牽制射撃と共に2人の人影が現れる。
ミモリ「勝手に飛び出していっちゃダメですよ、カエデちゃん!」
カエデ「あっ、ごめんなさい!いかにもピンチそうだったから、つい……」
318号「うーん…でも、318号はファインプレーだったと思いますよ!」
修行部の副部長である水羽ミモリさんと、修行部所属のアリス、量産型アリス318号。修行部の方々を実際に近くで見るのは初めてだ。
構成員「チッ…このやろ───」
39号「「隙あり!」」ドガッ!
ユカリ「ですの!」ガンッ!
そっちへ気を取られている隙に重い一発を入れつつ、修行部の方々の下に駆けつける。
ユカリ「そちらのアリスさんの言う通り、おかげで助かりましたの!」
39号(ミク)「ご助力、感謝します。」
カエデ「ふふーん!もっと褒めてくれても───じゃなかった。お礼は後で!あの人たちをやっつけちゃおう!」
ミモリ「私達でサポートしますね!」
ツバキ「ガードは任せて。」
構成員「───潮時か。…ボス?」
相手もたじろいでいたが───リーダーと見られる人物が不敵な笑みを浮かべる。
構成員「いや───まだだ。」
なんだ?何を狙って───
ツバキ「……!318号!」
39号「「!!」」
振り向いた時には既に。黒いスーツの仲間と見られる者がすぐそこにいた。
39号((伏兵…!?一体どこから…!?))
そのまま318号に近づき───
バリバリバリッ!!
318号「〜〜〜〜!!!」
激しい音を立てながら、318号が痙攣する。
───電流を流された?だが、見たところ体が焼けているようには見えない。
しかし318号の信号が途絶えたのは間違いない。彼女は完全に機能を停止させられている。
カエデ「318号ちゃ───」
構成員「おおっと、動くんじゃねえ。こいつは特殊な電気信号を流して強制的にシャットダウンさせてもらった。それ以上動くならこいつの安全の保証はできないぞ。」
39号(ミク)(やられた…!量産型アリスの弱点をもろに突かれた!)
39号(アリス)(……大変なことになってきたね。)
318号はヘイローも特殊な改造もない、ごく一般の量産型アリス。救助を強行するにはあまりにも脆い存在。
構成員「……はっ。面倒な援軍と思いきや、とんだお荷物だったようだな。」
そう言う相手を睨みつけながら打開策を考えて───
いたのだが、違和感に気付く。
───『動いている』。
ユカリ「……えっ、え……?」
ミモリ「……!?そんな……!?」
カエデ「あ、あわわわわ……」
ツバキ「…………」
え、いや、まさか、そんな……
構成員「……?まあいい。そのまま大人しくしてろ。」ジャキッ。
そうして、額に銃を向けた。
39号「「…………えぇっ?」」
ユカリ「………えぇ!?」
構成員「………は?」
銃を向けた───そう、銃を向けたのだ。
『318号が』、自らの身を抱えている『相手の額に』向けて。
構成員「はっ?なな、なんで───」
パァン!!ドゴッ!ドカッ!
困惑している間に容赦なく、銃弾をゼロ距離で打ち込み───そのまま追撃し始める。
────なんで??シャットダウンしてるんだよな??
ツバキ「おおー…やっぱりかぁ。」
39号(ミク)「あの、ごめんなさい、『やっぱり』ってどういうことですか?」
ツバキ「あの子、結構前から『最高の睡眠のための修行』として頻繁にシャットダウンしてたんだけど…最近、「何か掴めたような気がします!」って言うようになって。」
ミモリ「それ以来、心なしかシャットダウンしている間に動いていたような気がしたんですが……まさか本当だったなんて……」
カエデ「───す、すごいすごい!まるでツバキ先輩みたい!」
そうこうしている間に、318号はその相手を制圧しきってしまった。
ツバキ「ふふ、さすが私たちの318号。修行の成果が出てるってことだね。やっぱり私も見習おうかな?」
ユカリ「やはり努力は実を結ぶものなのですね!身共、感服いたしました!」
いや、なんか簡単に言ってるけど、シャットダウンだぞ?睡眠とかとは訳が違うんじゃ───
39号(アリス)(えっ……??何それ知らん、こわっ……シャットダウンしてるのに?体が動く?え、機械だよね?神秘パワーとかじゃないの?えっ、こわっ……)
ほら、アリスちゃんドン引きしてますって。こんなに思考が止まってるアリスちゃん初めて見た。
構成員「……どうします、ボス?」
構成員「……こんな訳の分からない事態になってまでやってられるか。退却する。」
39号「「……!逃が───」」
と、相手に意識を向けた時には眼前に。
ユカリ「これは…!閃光だ───」
ビシャアアッ!
激しい音を伴って、閃光が走る。
ツバキ「……っ!追えない!」
39号(ミク)(……間に合った…!)
視覚情報の遮断ができた。すぐに解除して追いか───
39号(ミク)「……え?」
そう思い開けた視界は───真っ白だった。閃光弾の光が残っている?でも刺激はなくて…
39号(ミク)「……?どういう───」
39号(アリス)「……!ミクちゃん、これ煙幕だよ!」
39号(ミク)「……っ!」
閃光弾に注目を集めている間に一緒に投げていた、ということか?逃げ際も手慣れている───
ユカリ「ミクさん、アリスさん!あの方々は───」
39号(ミク)「ごめんなさい、『こちら』を徹底します。」
39号(アリス)「うーん、してやられちゃったけどしょうがないねー。」
海賊版アリス「……っ。ありがとう、ございます…」
『こちら』。それは海賊版アリスの保護。
襲撃を仕掛けてきた相手を捕らえるのが一応の目的だが、そのために彼女を危険に曝しては意味がない。きっと、百花繚乱の人たちなら誰でもそうする。
煙幕が晴れ始めたころには、相手の気配はどこにもなかった。
ツバキ「……まあ、でも───収穫はあったみたいだね。」
ツバキさんが目を見やった先には、先程制圧した構成員を抑えつけている318号の姿があった。
相変わらず、起動はしてないみたいだけど。
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[百鬼夜行連合学院 チラシ通り]
ユカリ「改めてご助力、感謝いたしますわ!」
39号(アリス)「本当にありがとう!」
カエデ「ふふん、当然のことをしたまでだよっ!」
ツバキ「力になれて良かった。」
39号(ミク)「何かお礼を───」
ツバキ「ううん、大丈夫だよ。困ったときはお互い様、でしょ?」
ミモリ「実は私達もパトロールを切り上げるところだったんですけれど……ナノハさんから救援要請をいただきまして。」
ナノハ「呼んだらすぐ来てくれてびっくりしちゃった。」
ツバキ「もともと百花繚乱の人たちからは手伝って欲しいって言われてたからね〜。まだ眠かったけどすぐに飛んできたよ。
───話してたら眠くなってきた……」
さすがツバキさんだ。眠気に苛まれながらもあの機敏な動きを繰り出していたということか。
318号「318号もまだ睡眠が足りていない気がします!寝るときは一緒にお願いします!」
そんなツバキさんに同調する318号。シャットダウンは睡眠ではないはずなんだけど……
カエデ「あっ、318号ちゃん!体は大丈夫なの?」
318号「はい、お姉様のお墨付きです!」
39号(ミク)「軽く見させてもらいましたが、異常はどこにもありませんでした。」
39号(アリス)「でも電流を流されてるし、ちゃんとミレニアムで診てもらってねー?お代はこっちで払えるはずだから!」
ミモリ「はい、ありがとうございます!」
……個人的にはシャットダウン中に何の外的干渉もなく動けるのが一番の異常なんだけど。まあそれは今後、じっくりとエンジニア部の皆さんと頭を抱えることにしよう。
海賊版アリス「……!もしかして12型……ですか!?」
12型「……55型?」
55型「はい…!良かった…!怖かったです…!」
55型と呼ばれたアリスが12型に飛びつく。安堵して涙を流している様子を見て───
守る判断は間違っていなかったと、心から思う。
ツバキ「逃げられた人たちのことも、こっちでマークしておくね。」
ナノハ「そうしてもらえると助かる〜。」
ユカリ「身共たちはこの御方の引き渡しと、こちらのアリスさんの保護をいたしますわ!」
ミモリ「分かりました。私達は───あっ、いけない!急いでお夕飯の支度をしないと。そろそろ失礼しますね?」
カエデ「!今日は肉じゃがだったよね!楽しみー!」
318号「お手伝いしますね、ミモリ先輩!」
ツバキ「───そういうことみたいだから、お暇するね。また何かあったらよろしく〜。」
ナノハ「こちらこそよろしく〜。」
ユカリ「またお会いしましょう!」
39号「「ありがとうございました!」」
ナノハ「───じゃ、行こうか〜」
そうして帰路に着こうとしたとき。
「あ、あのっ!」
39号(ミク)「どうかされましたか?12型さん。」
12型が話しかける。
12型「もう、自分でも分からなくなってきたんですけれど…どうして私たちを───『海賊版』の私たちを連れ出してるんですか?
この見回りの目的が犯罪組織の迎撃であることは知っています。だから、私たちをおとりに利用して捕まえるんじゃ───」
…………ん?
ナノハ「え、違うけど。」
39号「ん、違うよねミクちゃん?」「違いますね。」
12型「………え?」
即座に否定されて呆気にとられる様子だ。
ユカリ「……12型さん。」
12型「は、はい……?」
そんな12型をユカリ様は、ゆっくりと優しく抱きしめる。
ユカリ「大丈夫ですわ。貴女が元居た場では、そういったこともあったのかもしれませんが。
百花繚乱は───身共たちは、そんなことは致しません。もっと自由に、純粋に楽しんでいいんですのよ。」
12型「純粋に、楽しむ……」
ナノハ「なるほど、そういうことか〜。キキョウはちょっと怖く見えるのかもしれないけど、そういうことは絶対しないよ。」
39号(ミク)「というかキキョウ様に限らず、百花繚乱の皆さんは絶対に賛成はしないと思いますよ。」
39号(アリス)「賛成するような子はみんなでみっくみくにしちゃうよ!」
ユカリ「ですから───安心してくださいませ。身共たちが側にいます。」
{───なんで……}
彼女はぼそっと何かを呟いた後、目元をこすって言う。
12型「……ありがとうございます!」
ナノハ「……ふふ。それじゃ改めて、みんなで帰ろっか〜。動ける、55型?」
55型「はい!」
夕日も落ち切り、お店の明かりが綺麗に道を照らし始める頃。のんびりとみんなで帰った。
ピリッ、ピリッ。
39号(ミク)(………!)
その道中、あの『違和感』が再び身を襲った。
39号(ミク)〔アリスちゃん、今の。カノンにもう一度確認は取りますが、間違いないですよね?〕
39号(アリス)〔うん、絶対あったね。───そのついでにミクちゃん。1つだけ聞いても良い?〕
39号(ミク)〔はい、なんでしょう?〕
39号(アリス)〔えっと、勘違いだったらいいんだけどね───〕
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[百花繚乱紛争調停委員会本部 調停室]
日が落ちきった頃、キキョウのスマホが軽く震えた。
キキョウ「………!」
ナグサ「どうかした、キキョウ?」
キキョウ「ナノハから連絡が。狙い通り1人捕まえたって。」
ナグサ「噂をすれば、だね。今日は焼き鳥をたくさん準備しておかないと。」
キキョウ「……あの子たちは断われないから、程々にしてね。」
ナグサ「え、焼き鳥はご褒美でしょ?断わる必要なんてないと思うけど…?」
キキョウ「……はぁ……ん?」
ため息をつく彼女のスマホに、もう1つ通知が入る。
キキョウ「39号から…?……!」
ナグサ「今度はどうしたの?」
キキョウ「……『あの件』、気の所為じゃなさそうだって。」
ナグサ「……そっか。」
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〈数日前: 百花繚乱紛争調停委員会本部 調停室〉
キキョウ「何かしらの電波障害?」
39号(ミク)「はい、海賊版アリスを保護した際に違和感がありまして。」
39号(アリス)「うん、ピリピリする感じ!」
ナグサ「うーん…でも電波に異常があるなら、電子機器に異変があってもおかしくないと思うけど───」
キキョウ「特に報告はないね…何かの不具合かただの気の所為、なら話は単純なんだけど。」
ナグサ「ミレニアムに連れて行こうか?何かあったら心配だし…」
キキョウ「いや、委員長自ら出向くのは───ああ、正式な所有者はナグサ先輩ってことになってるから、問題はないね…」
39号(ミク)「この件、個人的に探ってみてもいいですか?」
39号(アリス)「具体的には、百鬼夜行のアリスちゃんたちへの聞き込み!」
キキョウ「……アリスたちに…か。成程、可能性はあるね。10050号───カノンにも探らせてみるから、上手く使ってあげて。」
39号(ミク)「話が早くて助かります。」
ナグサ「……えっと、アリス達だけが異変を感じとってるかもしれない、ってことでいいの?」
キキョウ「そういうこと。電子機器や私達のような住民とは違う───となれば、他に可能性があるのはアリス達かなって。とりあえず情報がないと始まらないから、動いてもらう。」
キキョウ「ただし、2つ約束して。まず、今後同じような違和感、あるいは別の異変があると感じたらすぐに知らせること。あまりにも多いようなら、ナグサ先輩にミレニアムに送りつけてもらう。」
ナグサ「抵抗は…しないと思うけど、しないでね。」
39号「「はい!」」
キキョウ「そして次に───その違和感の件は他言無用。私たちだけで内密に進めて。」
39号(アリス)「一応、理由を聞いてもいい?」
キキョウ「あまりにも確実でも具体的でもない話だから、変に情報を広めて混乱が起きるのを防ぎたいのがひとつ。もうひとつは───
『電波』が関わっている可能性がある以上、どこに危険が潜んでいるか分からないからだね。本来ならこの会話も危険なんだけど…仕方ない。」
39号(ミク)「一応、アリスネットワークを含めた通信は全てシャットアウトしていますが───少し雑な対応でしたね。」
39号(アリス)「んー、成程!がってんしょうち、ってやつだね!」
キキョウ「とりあえず、手を打っておいて損はない。お願い、2人とも。」
39号「「分かりました!」」
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ナグサ「あの話が真実味を帯びてきた、か……少し、大変なことになりそうだね。」
キキョウ「まあ、捕らえた組織の奴から得られる情報にもよるけど…私の予想が正しいなら。
そろそろ私たちも動き始めないといけないね。」
To be continued…