【見回り】編 ③ -見回り-前

【見回り】編 ③ -見回り-前





[百鬼夜行連合学院 キツネ市場中心部]


 

 屋台の店主「いやぁ、助かったよ嬢ちゃんたち!おかげで祭りまでに仕入れが間に合いそうだ。」

 

ユカリ「いえいえ、お安い御用ですわ!」

屋台の店主「おっ、そっちはいつぞやの姉ちゃんか。ありがとな!」

 

39号(ミク)「お役に立てて良かったです。」

39号(アリス)「また困り事があったら言ってねー!」

あれから数日。レンゲ様の提案とキキョウ様の画策により、百花繚乱は3~4人のチームを組んで見回りをすることになった。

私たちが組んでいるのは、お馴染みのユカリ様と───

 

ナノハ「3人ともお疲れ様〜。ジュース飲む?」

ユカリ「いただきますの!」

39号(ミク)「はい、いただきます。」

39号(アリス)「おぉ〜、最近出たやつだ!ありがとう!」

百花繚乱の2年生、ナノハ様だ。相方のマワリ様は用があって別行動中。


 ナノハ「今日も暑いから、無理せずのんびりいこうねー。揉め事が起きないといいんだけど。」

百花繚乱でも随一ののんびり屋だ。しかし言動に反して、仕事そのものはテキパキとこなしている。

ナノハ様の仕事は雑用が多い。建物の管理や掃除から、戦闘での避難誘導や補給係まで───様々なことをこなしている。

「その代わり戦闘はからっきしだけどねー」───と彼女は主張しているが、ナノハ様がそう言うたびに2,3年生の部員たちは苦笑いしたり眉をひそめたりする。何かあったのか…?


 「あ、あのっ!」

そして、ナノハ様ともユカリ様とも違う声がもう1つ。

 

12型「どうして私も一緒なんですか…?」

海賊版アリスの12型だ。キキョウ様は先のチームにそれぞれ1人ずつ、海賊版アリスの子たちを同行させるように命令したのだ。

ナノハ「んー…意図はよく分からないけど、まあいいんじゃないー?表に出て遊ぶことってそんなに無かったんでしょー?」

12型「それは…そうですが……」

ユカリ「ご安心を!どんな不届き者が現れようと、身共たちが傷1つ付けさせませんわ!」

39号(ミク)「そういうことです。余計なお世話でしたら申し訳ありませんが……」

39号(アリス)「今日ぐらい百鬼夜行を楽しんでみてもいいんじゃないかな?」

12型「───は、はい!やってみます!」


 ユカリ「本日の徘徊るーとはどういたしますか?」

ナノハ「そうだねー…あ、せっかく12型がいるんだし、『あそこ』に行こうか。」

39号「「あそこ…?」」


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[百鬼夜行連合学院 百夜堂]


 ユカリ「成程!そういえばお昼時でしたわ!」

12型「喫茶店……ですか?」

ナノハ「そうだよ〜。味は保証する。」

39号(ミク)「ああ、ここでしたか……」

百夜堂。百鬼夜行の中でも根強い人気を誇っている、お祭り運営委員会が運営している喫茶店だ。

12型「えっと、有名なお店なんですか?」

39号(ミク)「ええ、私たちも最近よく来るので───」

???「あっ、お姉様!」


 こちらを見るなり、駆けつけてくる影がある。それは今となってはよく見る外見に、真っ黒に輝く腕を持っているアリス───

39号(アリス)「───数日ぶりだね、カノンちゃん!」

 

10050号「はい、待ってましたよ!」

量産型アリス10050号。私が『カノン』と名付けた妹だ。


 ユカリ「カノンさん、お久しぶりですわ!御役目はしっかり果たしてますの?」

10050号「久しぶりと言っても1週間ですけどね。完璧にできてますよ!今も───

???「こらー!10050号ちゃーん!」

???「は、走ると危ないですよ、社長ー!」

叫ぶ声とともに2人、駆けつけてくる。一方は百夜堂の制服を着た生徒、もう一方は同じく、百夜堂の制服を着たアリス。

 

シズコ「また会議を抜け出して───って、あれ?百花繚乱の皆さん……?」


413号「あ、39号お姉様!お疲れ様です!」

百夜堂看板娘兼オーナー兼お祭り運営委員会委員長の川和シズコさんと、その一員として働いているアリス、量産型アリス413号だ。

ナノハ「や、お疲れ様。」

シズコ「……はぁ……」


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 ウミカ「はい、ご注文のふわふわ抹茶パンケーキです!」

ユカリ「ありがとうございます!」

シズコ「今日は定休日なんだけど…相変わらずねえ、ナノハ?」

ナノハ「ごめんごめん、どうしても食べたくなって。お代は払うからさ。」


 

 フィーナ「お疲れ様デース!───あれ?そちらのアリスは何か頼まないんデスか?」

12型「……あ、ごめんなさい、すぐに頼みます!」

39号(ミク)「……えっと、もしかして───」

量産型アリスはなぜか当たり前のように食事ができるが、それが先天的なものなのか後天的なものなのか分からない。つまり食事の機能が元からあるのかどうか分からない訳で……

要するに『海賊版』の彼女のエネルギー源は燃料のみであり、食事ができない可能性がある。その場合、しっかり配慮をしなければ───

12型「はい、初めて見るものばかりで迷ってしまって。こちらのパフェをお願いします!」

フィーナ「承りマシター!」

……食べられるのか……それはそれでエンジニア部の皆さんが頭を抱えそうだ。


 12型「ところで気になっていたんですけど…このお店の方々との関係は…?」

39号(ミク)「あ、お話した方がいいですね。」

コーヒーフロートを机に置き、説明を始めた。

39号(ミク)「こちらの腕が特徴的なアリスが10050号。百花繚乱の諜報員です。」

10050号「百花繚乱の皆さんからは『カノン』と呼ばれています!」

12型「諜報員……ですか?」

ナノハ「『百花繚乱は独自の情報網を持っている』って話、聞いたことない?あれの一環でねー。今は百鬼夜行の色んな部活に体験入部してもらって、人の輪を広くしてもらってるんだ〜。」

ユカリ「来週以降は陶芸部に向かわれると聞いていますわ!」

どうやら陰陽部にはあくまで一部員として伝えていて、諜報員であることは公開していない。キキョウ様はいざというときの切り札にするつもりだとか。

さすがにそれはどうなのかと尋ねたところ、「どうせ陰陽部側も同じようなことしてるから。どちらかと言うと対抗策だよ」と一蹴された。ニヤ様なら……まあ、やりかねないな……


 私たちがどちらかと言うとお姉さんというか……従者に近い親しまれかたをしている分、量産型アリスとして可愛がられるのは彼女の方が主である。

……いや、仕えるのが目的なので。別に羨ましくないので。

なんか最近、化粧品とかファッションに手を付けてみたりしてますけど。なぜかこの前、皆さんに囲まれてるカノンを見てたら皆さんから「ミクも可愛いから大丈夫」と言われましたけど。嫉妬とかしてないので。


 39号(アリス)「そして他の人たちは百夜堂で働いてる人たちだよ!『お祭り運営委員会』としてお祭りを盛り上げてたりもするの!」

ナノハ「お祭りのあれこれの関係もあって、百花繚乱との繋がりがそこそこあってね〜。こうして定休日でもお邪魔させてもらえてるってわけだよ。」

シズコ「それはナノハが休日にばっかり訪ねてくるからなんだけど……まあ、助けられてるのは事実ね。」

ナノハ「でしょー?」

シズコ「今日は私たちの試作メニューをたっぷりレビューしてもらうわよ…?」ゴゴゴ…

ナノハ「……うん、わかったー……」


 しゅんとするナノハ様を気にも留めず、そうしてシズコさんたちは12型に向き直した。

シズコ「───じゃあ、改めて。事情は大体聞いています。いつでも大歓迎ですからね!おいしい食べ物をいつでも用意していますから!」

413号「413号もお話してみたかったんです!これからよろしくお願いしますね!」

12型「はい!よろしくお願いします!」

ウミカ「せっかくですし、会議に百花繚乱の皆さんも手伝っていただくのはどうでしょう?」

フィーナ「ご注文の品デース───オット、皆で会議デスか?大賛成デスよ!」

ユカリ「良いんですの!?」

シズコ「正直、行き詰まってるのは確かだから…何か案を出すだけでもいいから、手伝ってくれないかしら?」

ナノハ「いいよ「ナノハは拒否権なしで!」……わかった〜。」


 シズコ「それじゃあ早速議題よ。今私達が直面している問題は何と言っても、合縁祭の出し物!これを決めないことには───」

会議が始まり、意見を交わす中。裏でメッセージを送る。

39号(ミク)〔カノン、少しいいですか?あまり皆さんにはバレないようにお願いします。〕

10050号〔アリスネットワークからとは、珍しいですね。何でも言ってください!〕

39号(ミク)〔ここ数日の間、何か『電波』のようなものを感じたことがありませんでしたか?こう、ピリッとする感じの……〕

あの『違和感』の正体。私とアリスちゃんはこっそり調べ続けていた。

10050号〔うーん…?あっ、数日前の『あれ』でしょうか?〕

39号(ミク)〔……もしかして夕方ごろでしたか?〕

10050号〔はい!あと、413号お姉様も同じような違和感があったと言っていました!〕

39号(ミク)〔……!なるほど…他に同じような事例は?〕

10050号〔それより更に数日前にはなりますが…甘味処で働いているアリスさんからも同じ報告がありました!〕


 39号(ミク)(───これはおそらく、私たちが海賊版アリスを確保した日のことですね。)

同じ時間帯に、複数のアリスが感じとっていた。単なる気の所為でない上、何かしらの法則性がありそうだ。これは大きな進展になる。

39号(ミク)〔……分かりました。確かにキキョウ様の言う通り、完璧に仕事をこなしているみたいですね。〕

10050号〔本当ですか!?嬉しいです!じゃあ、カノンを本隊に加えていただくことも…〕

39号(ミク)〔それとこれとは話が別です。〕

10050号〔…もー、ケチなんですから!〕


 10050号〔ところで、どうしてわざわざアリスネットワークで?〕

39号(ミク)〔ああ、それは───〕

シズコ「───ねえ、ミクちゃんはどう思う?」

10050号「……!!」

39号(ミク)〔……すみません、アリスちゃん。〕

39号(アリス)〔大丈夫だよー。はい、ミクちゃん。今までの会議内容。〕

39号(ミク)〔ありがとうございます。カノン、話の続きはまた。〕

10050号〔了解です!怒ったシズコ社長はおっかないですからね!〕

素早く会議内容を読み取って、回路をフルに回す。

ミク「そうですね、私は───」


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 ナノハ「それじゃあそろそろ、見回りに戻るね。」

ユカリ「陶芸部のカノンさんも楽しみにしていますわ!」

10050号「はい、ご期待ください!」

シズコ「元気すぎるところがあるとはいえ───人手としても店員としても助かったから、また10050号ちゃんに来てほしいんだけど……ナノハ、何とかならない?」

ナノハ「んー、それぐらいなら何とかなるかもー。帰ったらお願いしてみるね〜。」

シズコ「やったぁ!さすがナノハ!」

ナノハ「ふふふ、よきにはからえ〜。」

ウミカ(なんだかんだ、お二人とも仲が良いですね!)

フィーナ(口ではなく心で繋がる……これが仁義なんデスね、部長…!)

413号「また来てくださいね、39号お姉様!」

39号(ミク)「もちろんです。」

39号(アリス)「さっき決めた、アリスたち向けのメニュー開発…だっけ?手伝えることがあったら言ってね!」

413号「はい!もちろん、12型さんもご一緒に来てくださいね!」

12型「……は、はい!ごちそうさまでした!」


[百鬼夜行連合学院 チラシ通り]


 

 それから、百鬼夜行の色々なところを周って。色んな人と話をして、時に困り事を解決して。そうこうしている内に日が暮れてきた。

ナノハ「うん、そろそろ今日の見回りは終わりかな。夜に巡回する子たちと交代だねー。」

39号(アリス)「今日も楽しかったねー!」

12型「……楽しい……そうですね……」

12型は申し訳なさそうにこちらを見ながら話し始めた。


 12型「……あの、皆さん。お気遣いくださってありがとうございます。でも、隠さなくても大丈夫ですよ。」

ナノハ「……どういう意味かなー?」

12型「だって私たちを見回りに連れ出した理由は、私たちをおとり───」

そこまで彼女が口にしたとき、彼女がふと、何かに気付く。

ユカリ「……?どうかされましたか?」

12型「あれ、もしかして…!」


 彼女の指さす方に目をやると、遠くの方でアリスが裏の路地へ入っていくのが見えた。数秒ではあったが、外見の特徴は───

39号(ミク)「───海賊版アリス。」

39号(アリス)「うん、そうっぽいね。」

確証はまだないが、海賊版アリスの特徴を押さえていた。間違っているならそれでいい。ただ、間違っていない可能性はある。

ナノハ「───私はここで12型を見ておくね〜。3人とも、任せていいかなー?」

12型「え、でも……」

ナノハ「危険には晒せないでしょー。お願い、みんな。」

39号・ユカリ「「「了解です!」」わ!」

返事と共に、私たちは駆け出した。


[百鬼夜行連合学院 裏路地街]


 軽く入り口を覗いてみると、そこには後ろ向きで佇む先程のアリスがいた。

39号(ミク)「……あの、大丈夫ですか?」

ユカリ「何かありましたの?」

すぐにその下へ駆け寄る。

彼女は反応してゆっくり振り向いた。

その表情は、何かを恐れているような、何かを訴えるような。そんな怯えた顔をしていて───

そのとき。


 ???「────!」カチャッ。

直後、私たちの背後から影が伸びる。同時に鋭い殺気が伝わってきた。

39号・ユカリ「「「……!!」」」

そこには、黒づくめのスーツを着た10人余りの集団。そのすべてがこちらに銃を構えている。

そして───

 

???「───やれ。」

ダダダダダダッ!!!





To be continued…





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