見たくなかったもの
※現パロ・おれくんは男 横恋慕、
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「へえ、そうだったんですね」
娘がいるだなんて聞いていない。
そう喚き散らしてやりたい衝動に駆られて、代わりに口をついて出たのは当たり障りのない言葉だった。
つまらない返事にくまは頷き、元気だ食べ盛りだ何だと、なんとも心暖まるエピソードを語る。普段こうして二人で飲むときよりは訥々とした、しかし十二分に雄弁な語りにおれは優しく相槌をうつ。
終いには財布にしまわれた写真を見せられた。
赤いルージュを塗った唇を惜しげもなく開けて笑う、桃色の髪のかわいらしい少女。名門中学の制服を着ていた。眼鏡の角ばったフレームの奥で目を細めて、一歩後ろに佇むくま。
見たくもなかった父親の顔はおれの瞼の裏にすっかり焼き付いてしまった。