裏に隠れたものの意味
雪花どう、と音を立ててチルタリスは地に伏した。
フェアリーのテラスタルジュエルが砕け、煌めきは失われる。
エースが倒れたというのに、青年の動揺は一瞬にして消え失せた。
「は」
「はは」
「はははっ」
ラスト一体まで追い詰められて青年は笑う。
優し気にたれた目が獲物を狙う猛禽のように鋭く変わった。
狂気に似た何かを宿して、反転した瞳は虚空を見る。
「……ここは貴女の舞台です」
「存分に舞い、踊りましょう」
「……ねえ? 拙の舞姫」
今では販売されていない、最初期のモンスターボール。
見せつけるように、差し出すようにそれを持ち、ひょいと軽く放り投げる。
現れたのは、ドレディアだ。高貴さはそのままに、ただし令嬢のような淑やかさよりも、フィギアスケーターのような苛烈さをにじませている。
ほんの少しだけ昔。ヒスイと呼ばれていた時代のシンオウ地方。その時代に生息していた、つい最近再発見されたという姿のドレディアが、堂々たる姿で登場した。
正直に言うと、ポケモン勝負において全力というものは自分には難しい。壊れてしまうのが怖くて、恐ろしくて、無意識のうちにセーブしてしまうのだ。
この時代に順応したとはいえ、根っこにあるのはヒスイ時代の死の身近さなのだから。
全力で戦って、力尽きてしまったら?そのときにポケモンに襲われてしまったら?
一度経験したからこそ、恐怖は鮮明に色濃く沁みついている。
だから叩きのめしてしまうし、余力は常に持つようにしている。
その前提を覆されて、楽しくないはずがない。
生死を預けて、眼前の勝負に全てを掛ける。
負けるかもしれない、だなんて。
楽しくて、楽しくて仕方がない!
青年の側には毒びしが、相手の側にはステルスロックが撒かれている。
登場早々にどく状態になるも、意に介さずに相手を倒した。
ドレディアはどくの状態異常、相手はステルスロックにより削られた体力。
互いに残り一体。
さあ、これで対等だと、青年は唇を歪ませる。手で押さえてはいるものの、隠しきれない獰猛な笑みが零れ落ちた。