※血・暴力描写あり注意
ここは白ひげのナワバリ。
そこで私、ウタの目の前で人々が笑いあっていた。
その手には様々な豪華な食事や酒が握られている。
子供達も食事だけでなく、おもちゃやぬいぐるみを持ち楽しそうに遊んでいる
私は熊のようなフードを深く被り、それを音符に座りながら見ていた。
「皆!欲しいもの、したいことがあったらなんでも言ってね!皆が幸せになれるように私頑張るから!」
私の言葉に皆が喜びの声を上げる。
私が黒ひげ海賊団とも知らずに。ウタワールド内なら私が正体を隠そうと思えばいくらでも好きに隠せるから民衆を責めるのは酷だが。
誰かがもっと食事や酒をくれと言った。
誰かがキレイな服が欲しいと言った。
それら望まれたものをどんどん出していく。
その時、視界の端でフッと女性が消えた。
きっと体が死んでしまったのだろう。でも、彼女の最期は笑顔だった。きっと心は救われたはずだ。
周りが不審に思わないよう、すぐさま音符兵士の要領でそっくりな人物を作り場を誤魔化す。
こんな誤魔化しではしばらくしたら気付かれるだろうが、ちょっとでも誤魔化せればいい。
その間に全て終わるのだから。
ウタワールドを見たまま、同時に現実の世界を見る。
現実のウタは激しいラップを歌いながらステップを踏み踊っていた。
その歌声も街中の乗っ取られた電伝虫が街はおろか島中に拡散し続ける。
そしてその周囲で、先ほどウタワールドで笑顔で暮らしていた人たちは体を操られ、お互いを傷つけあっていた。
きっかけはティーチの提案だった。
近々白ひげ海賊団の残党を始末したいと考えているらしい。
その宣戦布告代わりに無事なナワバリを一つ全滅させようと言っていた。
そして白羽の矢が立ったのが私、ウタだ。
ティーチの頼みとあらばと二つ返事でやると答えた。
そして今、ナワバリの中で一人歌い続けている。
『I wanna make your day , Do my thing 堂々と』
ある母親は息子を包丁で刺す。
ある父親は娘を銃で撃つ。
『ねぇ教えて何がいけないの?』
ある男は恋人を殴り続けている。
ある女は仕事仲間の首を絞めている。
『この場はユートピアだって望み通りでしょ?』
街中で誰かが誰かを傷つけ殺めていく。
その中心でウタは歌い、踊り続けた。
『突発的な泡沫なんて言わせない』
誰かが切られた血がウタの白い髪にかかる。
ステップを踏んだ拍子に血だまりを踏み靴に血が跳ねる。
だがそんなことで中断できない、この歌声を届け続けないといけない。
『慈悲深いがゆえ灼かもう止まれない』
同時に見えるウタワールドの世界、そこで笑っている彼ら。
きっと自分以外の黒ひげ海賊団のメンバーが来ていたらあんな笑顔は出来ないはずだ。
『ないものねだりじゃないこの願い』
犠牲が必要ならば、せめて私が心だけでも救ってあげないといけない。
『この時代は悲鳴を奏で救いを求めていたの』
—そうだ、白ひげのところにいた時から知っていた。海賊だけじゃない、国や天竜人のせいで苦しんでる人がたくさんいる—
『誰も気づいてあげられなかったから』
—大丈夫、私は分かってるから、皆が救ってほしがってることを分かってる—
『私がやらなきゃ だから邪魔しないでお願い』
—私の力なら皆の心を救える!今日の人達、私の新時代が間に合わなくてごめんね!—
『もう戻れないの だから永遠に一緒に歌おうよ』
—それでも体は救えなくても、心は救ってみせるから!—
最後の住人が自らの喉にナイフを突き立てた。
船で待機していたラフィットは能力で空を飛び、白ヒゲのナワバリにある街、その中央付近へと着地した。
そこには先ほど今にも眠りそうな声で「回収お願いします」と連絡してきたウタがスヤスヤと眠っていた。
まるで胎児のように体を丸め、幸せそうな顔をして寝ている。
ラフィットが周囲を見渡す。そこには数えきれないほどの死体ばかり。
その中心で眠る少女は何を夢見ているのだろうか。
いつだったかキラキラとした目で聞かせてきた“誰もが自由で平和に幸せに暮らせる新時代”だろうか
彼女は心の底からそれを達成できると信じている。
こんなことをしておきながら。
「ホホホ…提督、あなたの娘はとんでもない化け物に育ったようですね」
そう呟きウタを、自分を求められた救世主と勘違いした殺人鬼を抱え、その場を後にした。