蟲姦 後編
仰向けに押さえ付けられた玲王は、頑丈な顎が自身に迫ってくる様子をまじまじと眺めさせられた。そのまま皮膚を喰い破られると思ったが、蟲の王は玲王に噛み付く事はせず、細長い舌を出して玲王の首筋をぺろりと舐める
「ぁう···」
味見をされている様な気がして、死の恐怖から玲王の身体は勝手にカタカタと震える
蟲の王の舌は、そのまま玲王の胴体へと移動し、脇の下や腹筋の線をなぞる様に舐め始めた。
唾液は少なく、サラッとした肉厚な舌が敏感になった玲王の素肌を滑っていく。
反射的に玲王の腰は浮き、身体の奥には熱が籠もっていってしまう
「は······ぁ、ううぅ······」
チロチロと舐められる度に玲王の足先はきゅうっと丸まり、悩ましげに下げられた眉と赤みを増していく頬は「気持ち良い」と雄弁に語っていた。
だが、玲王自身は自分が感じている事には全く気付かず、今なお心を冷やし続ける死への恐怖に震えている。
蟲の王は、そんな玲王の様子に不満を抱いていた。
彼は、自分の石碑が壊された事に対して怒っていて、その代わりに自分の好きに選んだ人間を番として貰い受ける事でされた仕打ちをチャラにしようと考えていたのだ。
それなのに先程からこの人間は、嫌がったり怖がったり逃げようとしたりするばかりで、番として蟲の王に愛を捧げるべきという義務を果たそうとしていない。
蟲は蟲なりに、玲王に快楽を与え、玲王の次なる人生を楽しいものにしてやろうと考えていた。蟲にとっては玲王の夢や目標、大切にしているものなど心底どうでもいいので、玲王の人生を歪めてしまう事には一切の躊躇いは無い。
だが、番としてこの先永遠に側に居るのだから、いつまでも反抗的な態度を取られると蟲としても困るのだ。
蟲の王の強靭な顎に切り裂かれ、無残にも食べられてしまうと思い込んでいる玲王は、青白い顔でその時を待っている。
執拗に玲王の上半身を舐めていた舌が離れていき、蟲の王は身体を左右に振った。
すると、翅の付け根と同じ所から、にゅるりと複数本の触手が出てきた。
これには流石に玲王も瞠目する
にゅるにゅると伸びてきた桃色の触手は、四肢を押さえられ逃げる事の出来ない玲王の身体中へと巻き付いていく。
腕、脇、首筋、太ももの付け根
そして乳首や陰茎にも
触手はそれぞれローションの様なぬるぬるとした体液を纏っており、滑りの良いその触手に肌を撫でられるだけで、玲王は小さく嬌声を上げた
「うあっ!?な、なに、何だよ!」
混乱する玲王。そんな彼を一番最初に愛撫したのは、乳首に巻き付いた触手だった。
胸筋全体を揉み込むように締め上げながら、乳首を触手の先端で素早く擦る。
きゅうううっ!と搾り取るような動作をされたものだから、改造された玲王の胸はひとたまりもなく、まるで噴水のように母乳を噴射してしまう
「んぁあっ!や、あぁあ···!」
びゅくびゅくっ
と、乳首の小さな穴から液体が飛び出る未知の感覚と、感度が何倍にも膨れ上がった胸筋への愛撫で、玲王の脳には甘い痺れが走る。
しとどに濡れた玲王の乳首はひくひくと震え、次の刺激を待ち望むかのようにぴんっと立ってその存在を主張していた。
(ぼ、母乳···また、出しちゃった······)
本来ならばあり得ない現象に、再び玲王の頭は冷えていく。しかし、冷静になる暇も与えはしないとばかりに、触手が一斉に愛撫を開始する
「ぁ゛あっ!?ひ、やめっ···!んぅう゛うっ!やめ、ろ!!」
ぐちゅぐちゅと音を立てて玲王の身体を撫で回す触手達。鍛え上げられた筋肉の造形美を確かめるように念入りに、雄の中でも上位の大きさと形を誇る陰茎は不規則な締め上げで、無数の触手達は全霊を持って、玲王の発情を促していく
「は···っ!あ、ぁあ、ぅうう······」
ぐっと歯を食いしばって、イかないように身体に力を込める玲王。異形とはいえ、蟲に絶頂させられるなんて人としての矜持が許さなかった。だが、そんな玲王の努力を嘲笑うように、蟲の触手は玲王の弱いトコロを的確に責めていく。
尿道口に狙いを定めた触手が、その先端をぐぱぁ、と広げ、玲王の陰茎へとかぶりつく。そして、玲王の陰茎を擦り上げながら吸引しだしたのだ。
ぐぽ、ぐぽ、ぐっぽぉ
卑猥な音を立てて吸引される陰茎。その凄まじい刺激に、玲王はひとたまりもなかった
カクカクッと腰を浮かし、呆気無く射精した玲王。精液は蟲の体内へ吸い取られていき、卵へと練り込まれる。これで正真正銘、蟲と玲王との仔が誕生してしまったのだ
「ぅ······ぁあ·········」
蟲に絶頂させられてしまった玲王は、今現在己の仔が誕生した事など一つも知らず、ただただイってしまった自分が情けないと沈んでいた。
そんな玲王の気持ちなどもちろん汲むつもりのない蟲は、引き続き触手での愛撫を続行する
「あ······♡ あ、ぅう♡」
ぬりゅぬりゅと這う触手にもたらされる甘い刺激。イった事によって矜持が傷付き、抵抗力の下がった玲王の脳は、再び蛞蝓の毒液の影響を受け始めていた。
ふわふわとした心地と、何もかもがどうでも良くなる感覚。絶え間ない快感をわざわざ否定する意味を見失った玲王は、与えられるままに媚びるような嬌声を上げ始める
火照り赤く染まった肌に、蕩けた瞳
玲王が"仕上がった"と悟った蟲は、いよいよ本番、本丸である種付けを開始した
蟲の尻の方でグロテスクに異彩を放つ肉棒。それを、玲王の尻穴へと近付ける。
未開のそこに、熱い肉棒が押し付けられ、霞がかった玲王の思考が一瞬、警戒色に染まる。
しかし、それを察知したかのように愛撫を強めた触手達によって、玲王の意識はまた、快感へと沈んでいく
「あ♡ぁ、ああ···♡」
ぱっくりと開いたまま閉じない玲王の唇へ、蟲の王の舌が近付く。湿り気の無い長い舌が玲王の口へ侵入し、玲王の舌を絡め取る。無意識に、玲王も蟲の王のキスに応えて舌を突き出した。
そうやって深くキスを交わしながら、まるで恋人の様に蟲と玲王のセックスが始まる
ずりゅ、ぐぷぷ···
蟲の王自ら己の肉棒にローションのような分泌液を分泌し、そのお陰で肉棒は玲王の尻穴へスムーズに侵入を果たす。
もちろん、誰にも侵入を許した事の無いそこが広げられたのだから、玲王には相当な痛みと負荷が掛かるハズだ。しかし蟲の王の肉棒は柔らかく、芯が細い為、それ程尻穴に負担を掛けずに肉壁を掻き分ける事が出来るのだ。
よって、玲王は痛みによって目を醒ます事も出来ず、排泄と同類の快感が加わった事で、後頭部にジンとした気持ち良さが走る
自分が何をされているのか分からない、でも気持ちいいから、どうでもいい
「んぁっ♡ ···う···あぁう♡♡」
首筋を撫でられ、胸を弄られ、ありとあらゆる性感帯は刺激され続けている。
それは無論、尻穴も例外では無かった。
蟲の王の肉棒は順調に玲王の腹の奥まで侵入し続けており、その際、より滑りを良くする為に小さく抜き差しをする事がある。その度に、未開発のハズの前立腺が疼き、玲王の腹には熱が灯った
ずりゅ、ずりゅ
蟲の王の肉棒は玲王の最奥まで辿り着き、そこでようやく動きを止める。
ふるりと震えた肉棒は、その先端から管のようなモノを出し、玲王の更に奥、取り返しの付かない場所まで侵入していく。
流石にそこまで深くなると、玲王の方も感覚を拾えない。
だが、拾えたところでずっぷりと埋まってしまった肉棒を抜き去る事など出来るはずもない。
ぐぷん、ぐっぷん
伸縮を繰り返す管は、卵をぽこぽこと玲王の腹へと植え付けていく。
腸壁を押し退け、所狭しと敷き詰められていく無数の卵達。数えてみれば、それは優に百を超えることが分かっただろう。
卵は玲王の腹に入った瞬間に、とあるものを吸収して成長していく。
膨らんでいく卵達は、玲王の腹もぽっこりと膨らませていった
ずっ、ずっ、と、何回も肉棒を刺し直し、玲王の奥底まで余さず卵を植え付けていく蟲の王。
腹が張っていく違和感は、玲王をほんの少しだけ正気に戻してくれた。
何もかも手遅れになった後で、意識を現世へと戻してしまった玲王は、ぼんやりと山のようになった己の腹を見下ろす
(あー···、これ俺、死んだかな···あれじゃん、エイリアンが腹食い破って出てくるやつ···)
乳首から母乳を滴らせながら、玲王はまだ蟲が自分を殺すつもりなのだと考えていた。冷静に考えれば、わざわざ胸を改造されたのだから、この先永遠に苗床として活用されていく事は分かるはずなのに、どうにも肝心な所でその優秀な頭脳を発揮できていない。
ぬめぬめとした触手に頬を撫でられ、玲王は目を細める。
(ああ、きもちいい···このまま死ぬなら、それはそれで良いや······)
とくんとくんと生命の脈打つ腹を見つめながら、玲王はぼんやりとそう考える。
自分はとっくに、大切な相棒との約束を破って、酷いことをしてしまった最低最悪の人間だ。だから、このまま誰にも知られずに死ねるなら、それは悪くないかも知れない。と、自暴自棄な考えをしてしまっている。
膨れ上がっていく腹が一層大きく脈打ち、産卵が始まる。
その気配を感じ取った蟲の王は、一旦玲王への愛撫を辞め、己と玲王の仔が誕生する瞬間を見守った
(······あれ?この感じ···腹を食い破る訳じゃねぇのか···?)
入った時よりも数倍大きく育った卵が、玲王の肉壁を掻き分けて下ってくる。
まずは一つ目。
「ゔぅ···っ、あぁ゛!」
顔を顰めてりきんだ玲王の尻穴から、真白い卵がころりと転がり出る。
それと同時に、なにか大切なものがするりと抜け落ちた様な感覚がして、玲王はぞくりと怖気立った。
ピキピキと卵が割れ、中からは美しい翅を持った蝶々のような蟲が産まれる。
ふわりと飛び立った蝶々は、玲王の胸元へと止まり、細長い針のような口を玲王の乳首へと刺し、母乳を飲み始めた。
幻想的なまでに美しい、蟲と玲王との仔。その誕生に蟲の王は喜びに打ち震え顎を鳴らしたが、玲王はそれどころでは無かった
コイツが、この蟲が産まれた瞬間、何か大切なものを手放してしまった気がする
力の入らない腕を辛うじて頭まで持っていき、玲王は髪をくしゃりと掴んで違和感の正体を探ろうとする。が、そうしている間にも新しい命が産まれようとしていた
「ぁゔぅ···!」
抗えない産卵衝動に強制的に従わされ、玲王は二つ目の卵を産む。
ころりと身体から卵が出て行った瞬間、やはり何かが玲王の中から消え去った
再び産まれた蝶々は、今度もまた玲王の母乳を求めてひらりひらりと近寄ってくる。
が、そんな蟲達に構う余裕は玲王には無かった。今、違和感の正体を突き止めなければ、もう本当に取り返しの付かない事になってしまう気がする
(分からない、分からなきゃ。身体は痛くない、五感もちゃんとある。俺の意識も蟲に乗っ取られたりはしてない。なんだ?何が消えた?)
ダメだ、このままだと夢が。
アイツとの約束が果たせない
死んでも良いなんて、どうして考えていたんだろう。だって俺はまだ、こんなにもアイツの隣に立ちたいじゃないか
そうだ、アイツの、俺の宝物の
──────···アイツって、誰だっけ
「···············ぁ?」
その疑問が頭に浮かんだ瞬間、ビクリと身体が跳ね、そして思い出す。
あの濃密な半年を、隣で夢を見た凪誠士郎の名前を。
「······ぇ、あ?おれ、いま、なぎのこと」
忘れるなんてありえないのに
御影玲王は先程まで
凪誠士郎の名前を思い出せずにいた
蟲の卵の養分
それは、宿主の記憶や思い出、大切な感情。彼らは産まれる瞬間、古いものからそれらを吸い取り、宿主を蟲に都合の良い苗床へと変えていく。
いわば、仕上げの様なものだった
その事に気付いた玲王は、必死に己の記憶を辿る。腹の中の大量の蟲達は今なお玲王の記憶を吸い続けており、卵を割って産まれる事によって、玲王はその記憶を完全に無くしてしまうのだ。
玲王はもう、小学生だった頃の記憶を殆ど無くしていて、中学での担任の名前もあやふやになってしまっていた
妊婦のように膨らんだ腹の中
忌々しい蟲共が、玲王の大切な記憶を喰らっている。
その事実に行き着いた玲王は、咄嗟に拳を振り上げて、腹の中の卵を壊そうとした。
しかしその手は、蟲の王の触手によって絡め取られる。
「やめろ!離せ!!壊さなきゃ!こいつ等殺さなきゃ!離せぇっ!!」
狂ったように叫ぶ玲王には構わず、蟲の王は次の仔が産まれる瞬間を今か今かと待ちわびていた。
ぐぐ、と下ってくる卵の感覚に、玲王は頭を振って抵抗する。
後孔に力を込めて、ぎゅっと閉じ、卵が産まれないようにする。
傍から見たら滑稽で意味の無い抵抗だったが、玲王は必死だった
忘れたくない。あの日々を。
今は苦しくても、眩しかった毎日は、楽しかった日常は、夢を見るあの熱は。
玲王にとってかけがえのない、唯一無二の宝物との日々だけは、どうしたって手放したくない大切な思い出なのだから
そんな玲王の抵抗に痺れを切らしたのか、蟲の王は細い触手を伸ばし、玲王の後孔へとその触手を押し当てる。
ぐにゅりと侵入した触手が無理矢理玲王の後孔を押し広げ、卵の道を作ってしまった
「やめろ···っ、やめ···!」
ビリッと走る快感に、玲王はきゅっと目を閉じる。ぽこんと卵が産まれ落ち、玲王の脚がびくりと飛び跳ねる。
そしてまた、玲王の記憶は手のひらに乗せた砂のように攫われてしまう
卵を割って産まれてくる蝶々は、この世のものとは思えない程美しい。
しかしその美しさが、玲王の目にはあまりにも残酷に映った
産みたくない、もう、忘れたくない
「凪、凪っ!忘れない。絶対···!」
蟲の王は、土壇場で激しく抵抗する玲王に腹を立てた。もう卵は産むしかないというのに、どうしてこの人間はここまで抵抗するのだろうか。こうなればもう、王自ら産卵に手を貸すほかあるまい。
蟲の王は、更に二本の細い触手を玲王の後孔へと伸ばし、その触手を奥へと侵入させていった
「ぁあ······ッ!?」
3本の触手はそれぞれ肉壁に張り付き、大きく肉壁を広げる。くぱぁと開いた後孔に冷たい風が当たり、玲王は寒さと恐怖で背筋が凍っていくのを感じた。
こんな事されたら、腹の中の卵が一気に産まれ落ちてしまう。
「や···っ、やめ、やめて、お願い···」
顔を蒼白く染めた玲王は、目の端に涙を浮かべながら蟲の王へと懇願する。
勿論、その言葉が蟲に届く筈も無かった
3本の触手の先端が卵を刺激し、卵達は産まれ落ちようと、後孔の出口へと殺到する
直腸が卵達で埋まっていく感覚に、玲王の視界は絶望に黒に染まった
ごろごろと床へ転がった卵達は、外気に触れた途端にピキピキとひび割れていく
「嫌だ···やぁ、だ···」
ボロボロとこぼれ落ちていく涙が頬を伝い、地面へと丸い染みを作った。
濡れた瞳に、玲王の記憶を喰った蟲が産まれ落ちる瞬間が映る。
無数の美しい蝶々が飛び立った
(やだ、いやだ······忘れたくない)
ぼやけては消えていく思い出
失ったそれは、失くしたことすら思い出せない。もう、取り返しなんてつかない
(なぎ、なぎ···大丈夫、覚えてる······凪、凪誠士郎。お前のことだけは)
産まれて
割れて
消える
ぽこん、ぽこん
と、次々に
(宝物。一緒に、●●●●するんだ)
(なぎは、俺の●●だから···)
(俺は、俺··········は············)
(······························································)
(··················あれ···············)
(俺、何考えてたんだっけ)
紫色の髪を地面に散らし、かつて御影玲王だった者は虚ろな目を天井へと向けていた
胸元には、母乳を求めて無数の蝶々が集っていて、その様子を蟲の王は満足気に眺めている
急激に膨らんで凹んだ腹は皮が伸びてしまっており、ヒビ割れたような跡が残っている
蟲の王は、完璧な番を手に入れた
美しく、頑丈で、立派な仔を孕んでくれる、この上ない番を。
これで石碑を壊した件は許してやろうと蟲の王は決め、きらきらとした蝶々に包まれている玲王へと近付く
涙の跡はすっかり乾き、身体中から伝わる快感の余韻に、玲王はただただ浸っていた
そんな玲王の頬を蟲の王はペロリと舐める
虚ろな瞳に蟲の王を映し、
蟲の王へ、玲王は微笑んだ
深い意味は無い。この生き物は玲王を気持ち良くしてくれる。それだけの理由で、玲王は微笑んだのだった。
もうそれ以外に、笑顔を作る理由も消え失せてしまった
蟲の王と、御影玲王の脱け殻は、無数の仔に囲まれながら触れ合う。
涙の跡だけが、かつて玲王が大切にしてきたものの証だった