蟲姦 前編

蟲姦 前編









青い監獄が建てられた山

実は、この山はとある曰く付きの山であり、禍々しいモノが棲んでいたのである。

それらを鎮める為に、山には高名な坊主が念を込めた石碑が置いてあったのだが、それを大工が監獄設立時に壊してしまった。石碑は一見、ただのデカい石にしか見えなかったので、その判断もある程度はやむ無しであっただろう。

しかしそれが、山に棲んでいた蟲の怒りを買ってしまったのだ




ライバルリーの途中

國神と玲王の部屋にて


夜中に目を覚ました玲王は、何故か無性に一人になりたくなってしまって、それ程行きたい訳でも無かったが、トイレへと歩き出した


玲王の服の裾には、ごく小さな蟲がくっついている


この蟲が玲王に微細な念波を送り、玲王が一人になる様に仕向けていた。

不幸にも、玲王は蟲の標的になってしまったのである


トイレを済ませた玲王は、手を洗って廊下に出る。すると、部屋とは反対の方の廊下の先から、シャリシャリと不気味な音が聴こえた


「なんだ···?」


気になって、廊下の先を注視してみるが、暗すぎて音の正体を視認できない。

普段の玲王ならここで引き返し、明日にでも絵心へ音の正体を聞いてみる所だが、どういう訳かその音の正体を確かめたいという欲求が膨らんでしまった玲王は、部屋とは反対側の廊下へと歩き出す


シャリ、シャリシャリシャリ


音は近く、大きくなっていき、とうとう音の原因へと辿り着く。

しかしそれは、なんの変哲もないただの壁だった


「···んだよ、何もねぇじゃん」


がっかりと肩を落とした玲王は、踵を返して部屋へと歩き出す。

その時だった

プツリと何かに首筋を刺された感覚がして、玲王は咄嗟に首を庇う。伸ばされた手には固く小さなものが当たり、羽音も聴こえた事から虫が居たのだと分かった。

蜂かも知れない、応急処置をしなければ。と、玲王はそう思うが、身体が動かない。

それどころか、妙に身体が怠く、眠たくなってきて─────────

玲王はそのまま、廊下の真ん中で意識を手放した




大きな壁だと玲王が認識したもの。それは、無数の蟲が這い集まってできたものだった。暗闇の中にいた玲王には、ただの壁に見えてしまったのだろう。

もしも蟲だと認識して、咄嗟に逃げていれば。そうすれば玲王の人生は蟲なんぞに汚されることは無かったのかも知れない。

だがもう何を言っても後の祭りだ


壁に擬態していた蟲達が、一斉に玲王へと群がっていく








ぬめぬめとした何かが身体中を這い回る不快な感覚に、玲王は眉を顰めながら目を覚ました


ぐわんぐわんと鳴る頭をなんとか覚醒させ、状況の把握に努める。

眠っていて目を瞑っていたからか夜目が効き、辺りは暗いが、ぼんやりと周囲を見渡す事が出来る。

玲王は現在、床から1m程浮いていた


「···あ?」


慌てて身体を動かそうとするが、何かに阻まれてしまう。両の手と足が何かに絡みつかれ、ほぼ大の字の状態で拘束されていた。

一体何が原因でこんな状況になっているんだ。と、玲王は目を細めて己の身体を見下ろす。すると、玲王の手足を縛っているものの正体を辛うじて見る事が出来た


無数の蟲が、キシキシと嫌な音を立てながら玲王の身体に集っている


「ひっ······!?」


サッと頭が冷え、咄嗟に振り払おうと腕に力を込める。が、蟲達が互いの身体を掴み合い、強く拘束してくるせいでビクともしない。ムカデのようなものからゴキブリのようなもの、ジャングルの奥底に居そうな見たこともないものまで。様々な種類の蟲が互いに協力して玲王を押さえ込んでいる様子は、異様としか言い表しようが無かった


優に千を超えそうなほど集まった彼らが、さながら蜘蛛の糸の様に壁に張り付き、その真ん中に玲王が置かれている。そんな状況だった


(何なんだ!何だよこいつら!何が目的だ······まさか、このまま俺を喰う気じゃ···)


彼らの顎は、人の肉程度なら噛み裂けるだろう。一つ一つは小さくても、それがこの数となれば、玲王一人腹に収めるのは十分だ。


「クソ、俺はこんなトコで終われねぇんだよ···!誰か···っ!」


助けを呼ぶために大きく口を開け、息を吸う。

その瞬間、大きくぶよぶよとした何かが口の中へと入ってきた


「んぶ···っ!?んんっ!」


咄嗟に吐き出そうとするも、ぶよぶよの何かは玲王の口蓋にくっつき、舌の上に居座る。

ひんやりとしたそれの正体を確かめようとするが、あいにく手頃な鏡など無いので確認できない。しかし、玲王はぶよぶよの何かに既視感を感じていた。

そういえば、目を覚ました時、こういうぶよぶよでぬめぬめの何かに身体を這い回られていた気がする。

というか、今も────···


恐る恐る、身体を再度眺めてみると、それらは居た。

蛞蝓のような、桃色の、しかし通常よりもだいぶ大きな蟲が、何匹も玲王の身体を這い回っていたのだ


(つまり今、俺の口の中にいる奴も)


そう思った瞬間、耐え難い程の嘔吐感で玲王は思い切りえずく。が、それでも口の中の蛞蝓は出て行ってくれない。

感染症、寄生虫、病気

様々な単語が頭をぐるぐると回り、背筋は恐怖で凍り付く。

桃色のそれらが這った後の服は、まるで酸でもかけられたかのように溶け落ちてしまっていて、彼らが良からぬ成分を排出しているのは明らかだった。

このまま身体の外から、内からも溶かされて、蟲達の養分とされてしまうのだろうか


蛞蝓達は、玲王の素肌にも桃色のぬめぬめを擦り込んでいく。

胸板から足先、更にはあられもないところまで徹底的に。

舌の上の蛞蝓は、ほんのりと甘いさらさらした液体を分泌していて、それを飲み込まないように、玲王は喉の奥を必死に閉じていた


暫くして、玲王は自身の身体のとある違和感に気が付く


(なんか、熱い···?)


ぬめぬめがモノを溶かす酸だとしたら、肌には痛みが走るはずだ、だが、玲王の肌は火照るばかりで痛みなど一つも感じない。

違和感を感じていた玲王は、すぐにぬめぬめの正体を知る事になる。

一匹の蛞蝓が通った後の桃色の肌を、更にもう一匹が通過した時だった。

鋭い電流の様な快感が玲王の脳髄を走り、反射的に四肢が跳ねる。

その頃にはもう、身体の殆どが蛞蝓にマーキングされていて、桃色のぬめぬめが効力を発揮し出していた。

ずり、ずりと蛞蝓が這うたびに、その愛撫の様な感覚で玲王の体温は上がっていく。

ピクピクと痙攣する指先に、玲王は自分が蛞蝓の這う感覚で気持ち良くなってしまっている事に気が付いた。

桃色のぬめぬめは、媚薬のような効力をを持っていたのだ。

やんわりと勃ち上がる己の陰茎に、のぼせたような体温とは裏腹に玲王の心は冷えていく


気持ち悪い。こんな蟲相手に。

気持ち良くなってることが、気持ち悪い


「んぅ···!」


一匹の蛞蝓が玲王の陰茎に近寄り、その上を這う。その瞬間、大きな快感が全身を貫き、玲王は一際大きく身体を跳ねさせた。

それと同時に、口の中に居座っていた大きな蛞蝓の分泌液を思い切り飲み下してしまう。


ごくりと喉仏が上下し、分泌液が体内に侵入する。すると、食道と胃が強い酒を飲んだ時のように熱くなった


分泌液を飲み込ませた事で満足したのか、口の中に居た蛞蝓はのそのそと口から外へと出て行き、身体中の蛞蝓達もゆっくりと身体を這いずりながら何処かへと消えていった


「げほげほっ!かはっ!」


咳き込んだ玲王は急いで飲んでしまった分泌液を吐こうとするが、どう頑張っても胃液は逆流してくれない。

喉の奥に指でも突っ込めれば楽なのだが、それも四肢を拘束する蟲達のせいで叶わなかった


「ぉ゛え······けほ···なん、なんだ···」


ほぼ素っ裸になってしまった玲王は、この奇妙な状態から蟲達は自分をどうしたいのだろうと考える。しかし、無感情にただ自分を拘束するだけの蟲達から何か情報を得られる訳でもなく、ひたすら上げられた感度と体温に玲王は身悶えするしか無かった


玲王の口内へ侵入した蛞蝓。アレが分泌した媚薬は、感度を異様なまでに引き上げるだけでなく、筋力と判断力まで奪う事の出来る強力な毒薬だった。故に、玲王は何があってもあの分泌液を飲むべきでは無かったのだ。


そもそも蟲達に選ばれてしまった時点で彼の運命は終わってしまっていたのだが



手足を拘束していた蟲

その中でも毒針や牙などを持つ蟲達が、玲王の胸板へと集まっていく


皮膚を無数の蟲が這う事でゾワゾワとした感覚が湧き上がり、玲王の肩がふるりと震える


「ん···何して······」


やけにぽやっとする意識をなんとか正常に繋ぎ止めながら、玲王は蟲達の動きを警戒する。といっても、睨む事くらいしか出来ないのだが。

胸板へ集った蟲達の中から百足のような蟲が前へ出て、その長い身体で玲王の乳首をぐるりと一周して巻きつく。

両胸にそれぞれ一匹、代表の様に百足だけが乳首の側へと寄ってきている。

キュッと絞り出された玲王の乳首は、百足の掛ける圧力でぷっくりと浮かび上がっていた。

浮き上がった桃色の乳首の真ん中。小さな穴に向かって、百足は自身の毒針を突き刺す。


「い゛っ······!?」


ぷつりと突き刺された感覚に、思わず呻く玲王。乳首に突き刺さった針からは、どくどくと得体の知れない液体が流し込まれていた。

本来百足の毒は顎にあるので、やはりこの百足は普通の百足とは違うのだろう。いや、そんな事は今はどうでもいい。自分は一体、この蟲に何を注がれているのだろうか


毒液が広がる感覚が手に取るように分かる。男である玲王の乳腺は女性のそれよりかなり少ないのだが、それでもその一つ一つに熱い液体が流し込まれていると分かるほど、百足の毒液は劇的な効果をもたらすのだ。そんな事は露知らず、玲王は自分の胸筋が毒で変な色にならなきゃ良いなと気楽な事を考えていた。ここまでの危機感の無さは、蛞蝓に飲み込まされた脳の働きを鈍らせる毒液のせいだろう。


時間にして3分程

たっぷりと毒液を注がれた玲王の乳首は真っ赤に腫れ、乳腺の一本一本が脈打つ様な心地がした。

玲王の乳首から毒針を引き抜いた百足は、己の身体を器用に操り、玲王の胸筋を優しく揉み込む。そうする事によって、毒液が玲王の乳腺の隅々まで行き渡るようになるのだ。


どくんどくんと脈打つ度に、ずくずくと胸は疼いていく。奇妙な感覚に、玲王は熱いため息を溢した


状況は最悪。景色は気持ち悪い。打開する策も見つからない。

だけど、どうしてだろう

ぽやぽやとして、うっすらと心地良い


玲王がこの時、鏡を突き付けられたとしたら、きっと鏡面に夢見心地に赤く染まった自分の顔面を見ただろう。蛞蝓の毒液は、順調に玲王の脳を侵食していた。


役目を終えたとばかりに百足が玲王の胸から退くと、今度は毒針を持った蟲達が玲王の胸へと万遍なく散らばっていく。

彼らはカチカチと興奮気味に顎を鳴らし、熱を持ってぽってりと腫れている玲王の胸筋へと次々に深く毒針を差し込んだ。


「ぁう···あ···?」


不思議な事に、痛みは全く感じない。それどころか、注入されていく毒液を、玲王は温かいと感じてしまう。じんわりと胸全体へ広がる感覚に、ぬくいカイロでも当てられたみたいだと呑気なことを考えていた。


百足が注入した毒液は、女性と男性どちらの胸がどんな状態でも母乳を精製出来るようにするモノであり、群がった蟲達が注入した毒液は、百足の毒の補助と胸の感度を上げる為のモノだ


蟲の毒液が回るのは早い


存分に毒液を注入した蟲達が毒針を抜き、元の位置へ戻っていく頃には、既にその効果が現れ始めていた


もう、半分夢を見ているような気持ちの玲王だったが、張っていく胸の痛みと乳首のむず痒さに瞬きをして、視線を己の胸板へとやった。

すると、そこにあったのは普段の2倍は膨れているであろう胸筋と、真っ赤に熟れた乳首。


「·········は?」


玲王の頭が晴れたのはその一瞬後。なんと乳首の先から、ピュッと勢い良く白い液体が飛び出したのだ。

赤く染まった乳首を垂れていく白くサラッとした液体。それはどこからどう見ても、母乳としか思えない。

普段とは全く形相を変えた胸筋と相まって、玲王はそのぼやけた頭でも即座に理解したのだ


自分の身体が作り替えられてしまったと


喉の奥が締まり、ひゅう、と辛うじて息を吸う。

勝手に、不自然に、ありえない形で、しかも、こんな蟲ケラに。

己の在り方を歪められてしまったという恐怖が、落雷の様に玲王を駆け抜けていく


「ひ·········っ!やめろ!!」


身体中を這いずる蟲への嫌悪感も、この時にようやく取り戻した。

玲王は必死に腕や脚を振って蟲を振り払う。先程までなら固く結束した蟲達は玲王を逃さなかっただろうが、今はあっさりとその拘束を解き、玲王を地面へと降ろした。

ペタンと地面に尻もちを付いた玲王は、すぐさま立ち上がって駆け出そうと足を踏み出す


「あっ!?」


が、地面を蹴ろうとした脚がカクリと折れ、玲王は無様に地面へと倒れ込んだ


一瞬、何が起こったのか分からなかったが、恐怖のせいで足が竦んだのだろうと断定し、玲王は再度立ち上がる。しかし、やはり足は力なく折り畳まり、玲王はその場に座り込む事しか出来なかった。


これは蛞蝓の毒液を飲み込んだ副作用のひとつであり、筋力が急速に失われるせいで、玲王は走る事すらままならない身体となってしまったのだ。鍛え上げられた筋肉はそのままだが、それらを活用する能力が著しく低下する。そういう毒だった


「なんで···!クソ、こうなりゃ這いずってでも逃げてやる···!」


しかし、御影玲王は最高に諦めの悪い人間。足りない筋力でも這うこと位は出来るだろうと、なんとか匍匐前進で進もうとする。

拘束を辞めた蟲達の事など気にする余裕も無かった。


玲王を解放した蟲達は寄り集まり、グチグチと嫌な音を立てて融合していく。

そして、彼らは溶け合い一つとなり、大きな蟲へと進化していた。

所々歪なそれは、玲王の2倍程の大きさをしている。蟲の王の見た目は蜂に近いが、羽は白く胴体は濃紺で、羽蟻の様にも見えた。

腹部の尻側の先にはどくどくと脈打つ大きく太い肉棒が付いており、肥えた腹からはうっすらと卵が顔を覗かせている。


大きさ故にグロテスクなその蟲は、ギョロリと黒眼を玲王へと向けると、重々しい音を立てながら飛び立つ。


不審な音に振り返った玲王は、己を捕獲しようと六つの脚を広げる巨大な蟲を目撃し、その圧倒的な存在感に思わず身を竦ませてしまった。

巨大な羽の羽ばたきによる風が玲王を襲い、それと同時に玲王の四肢を器用に押さえ込む蟲の王。地面に縫い付けられた玲王は、蟲の頭にくっついた無感情な瞳と相対し、本能的に「コイツに話は通じない」と理解する


(喰われる!嫌だ、死にたくない!)


玲王はまだ、自分が蟲にとっての捕食対象なのだと思っていた。

いや、そう思う事で無意識に最悪の答えから逃げていたのかも知れない。

ただ一つ言える事は、きっと彼はこの場で一思いに喰われて死んだ方がまだマシだっただろうという事だ


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