蟲に抗えない愛の神
短めマスターさんに頼まれた私は、ある特異点残滓で素材回収を行っていた。
正直、やりたくもないが。
マスターさんのお願いなら、やってあげなくもない。
だってほら一応、愛の神ですし?
マスターさんが堕落してくれるなら、面倒くさい仕事も神として多少はやる気が出る。
このままどんどん私に頼らせて、依存させて、いつかは──────
そんなことを考えていると。
「え?」
何かが足に絡んだのか、地面に倒れ込む。
「…………いたっ…………」
地面に思い切り打ちつけられたからか、鈍い痛みが全身を襲う。
神である私が転ぶなど、その上、痛みを感じるなどあり得ない。
一体何故、と思いながら足元を見てみると。
「──────」
得体の知れない、気持ち悪い何かがいた。
その何かは無数の蚯蚓が集合した様な見た目で、少女の姿の私の膝にまで達する程大きい異様な存在だった。
どうやら、この異形が私の足に絡みついて転ばせたらしい。
「……………………」
こんな気持ち悪い何かに転ばされたという事実にイラっと来て、燃やし尽くしてやろうと睨みつける。
すると、何故か私はその何かを──────蟲、と認識してしまった。
蟲とは思えない異形の化け物なのに。
これは蟲である、という謎の確信が脳に走る。
同時に、私はこれには勝てない、という謎の恐怖が心を支配する。
「あ、あ…………」
得体の知れない恐怖に突き動かされる様にその場から逃げようとする。
が、身体が動かない。
まるで腰から下の神経が無くなってしまったかの様に、その場から動くことが出来ない。
「なんで…………っ」
ならばと、身体を変えて逃げようとするが、権能が使えない。
まるでアクセス権を剥奪されてしまったかの様に、カーマたる私の力が動かない。
まるで、肉体が…………抵抗するのを諦めている様に。
あらゆる力が、抜けていく。
そうこうしている内に、蟲がゆっくりと鎌をもたげてこちらに近づいてくる。
「いや…………っ…………こないで…………っ」
みっともなく恐怖に震えながら、無意識に地面を後退るけど。
そんなものは意味がなく、あっさりと蟲に捕まってしまう。
「やめ…………っ」
両腕を動かして藻搔いてみるけど、蟲から伸びる蚯蚓の様な触手に両腕を押さえつけられる。
「ひ…………っ」
その感触はヌメリとしていて、言いようが無いほど気持ち悪く、嫌悪感で身が竦む。
そして、両腕を拘束されたまま、固い地面に押し倒される。
「ぐ…………っ」
押し潰される様な圧迫感に苦悶が漏れるが、同時に更なる恐怖が私の心を締め付ける。
「なに、して…………っ」
蟲が私に覆い被さり、その身体から無数の触手を伸ばし始めたのだ。
蟲から伸びる触手が、私の全身を汚していく。
ヌルヌルとした気持ち悪い触手が服に入り、うぞうぞと蠢く。
更に、触手の一部が、私の秘部へ届こうとしていた。
「〜〜〜〜〜っ」
あまりの嫌悪感と恐怖に身体が無意識に藻搔くが、見た目通りの非力な少女になってしまった私にそれを退ける力はなく。
あっさりと蟲に抑えつけられ、動けなくなる。
それどころか、邪魔だと言わんばかりに触手が服を剥ぎ取っていく。
そして。
「…………ぎ…………っ…………が…………っ…………」
触手があっさりと、私の秘裂を貫いた。
何の前戯も施されていない膣内に無理矢理挿入されたせいで、耐え難い苦痛が私を襲う。
しかし、蟲はそんな私を気遣うことなどせず、ゴリゴリと、膣壁を削る様に触手を膣内で動かしていく。
(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!)
嫌悪と苦痛に支配され、何も考えられなくなる。
しばらくそのまま、痛みと嫌悪に心と身体を犯されていると。
「…………っ、な、に…………っ…………ひ…………っ」
膣内の触手が、冷たい液体を吐き出した。
その液体は膣内の膣壁に触れると同時に、水の様に染み込んでいく。
すると。
「…………っ⁉︎…………あつ、い…………っ…………なん、で…………っ」
何故だか膣内が濡れ出して、快楽が神経を走る。
それを感じ取ったのか、蟲が触手の動きを激しくする。
「ひ…………っ…………やめ…………っ…………気持ち悪い、はず、なのに…………っ」
それは、痛みしか感じない筈の乱暴な動きだった。
なのに、何故か私の膣内はそれに悦び、脳に快楽を伝えてくる。
普通の人間なら防衛反応で狂ってしまいそうな程強烈な快楽を。
「いや…………っ…………あ…………っ」
しかし情欲の神である私は神であるが故にそれに狂うことが出来ず、嫌悪と快楽を同時に感じる矛盾に正気のまま心を削られる。
心が犯され、肉体の様に抵抗する力をゆっくりと削り取られていく。
そしてそれを正気のまま認識出来るが故に、こんな蟲に良い様にされてしまう自分が惨めで涙が出る。
だけど、蟲は当然そんな私の感情など気にすることはなく。
本能のままに、私の膣内を犯し続けた。
蟲に犯され続け、抵抗する気力が一切無くなった頃。
どくん、と膣内の触手が脈打ち始める。
同時に、触手が子宮口にその頭を押し付けた。
「…………なん、ですか…………」
完全に屈服してしまった私は、諦める様に蟲に問う。
当然、蟲が答えを返す事はなく。
無言のまま、子宮に何かを注がれる。
そして、子宮に注がれた瞬間、その正体を何故か理解してしまう。
「…………っ…………」
それは、蟲の卵だった。
無数の卵が、子宮の中を埋め尽くしていく。
つまり、私は蟲の孵卵器にされてしまったのだ。
「…………っ、うぐ、ひぐ………………っ」
蟲に良い様に犯された時から薄々わかっていたことだが、自分が蟲以下の存在であると明確に刻まれた様で、惨めさに泣き声が漏れる。
そんな泣き声も、蟲は意に介する事はなく。
機械の様に、私に産卵し続けた。
長い、長い産卵が終わった後。
蟲は興味を無くした様に、私から去っていった。
まるで、最初からいなかったかの様に。
しかし、産卵されて少し膨らんだ下腹部と子宮に溜まった感覚が、あれは夢ではなく現実であると私に教えていて。
蟲の孵卵器という道具に堕とされた事実を、逃れられない形で突きつけた。
「…………マスターさんのとこへ、戻らないと」
ショックで崩れそうな心を、彼女を支えにしてどうにか押し留める。
そのまま立ち上がり、蟲が去った方向と逆方向へ歩を進めた。
しかし。
「──────え?」
歩を進めた先は、蟲の巣窟だった。
さっきと同じ様な蟲や、違った蟲、小さい蟲から大きい蟲まで、様々な種類の蟲が蠢いている。
そして、その蟲が全て私に気づく。私を襲おうと、全ての蟲が一直線に向かってくる。
「……………………ぁ」
ぽきり、と何かが折れた音がした。
「…………もう、どうでもいいです…………」
蟲の大群に、飲み込まれた。