蜂の狩り

蜂の狩り


暗殺の他にもお父様から任されていた仕事があった。

蜘蛛と蝶を捕まえて調教して売ることだ。


オレは蜂の中でも勘が鋭い方だったらしい。

だから蜘蛛と蝶を見つけるのがうまかった。

蝶と蛾を見分けるのも得意だった。

だから蜘蛛と蝶を探せと命じられた。

怖がっていた蝶も抵抗しようとした蜘蛛もドロドロにした。

探して、捕まえて、快楽漬けにして、そして何も考えられなくさせて蜂に売る。


蝶はもし蛾だった場合は分かるように小指を切り落として兄者に食べさせた。

蛾は毒があるから売れない。

もしこの蝶の小指が蛾の小指だったら兄者は死んでいたかもしれない。

それでも命令だから指を切り落として兄者に食べさせた。


本当にクソみたいな仕事だった。


売られた蜘蛛は子どもを産む道具にされる。

売られた蝶は子を孕んだ蜘蛛に食べられる。

それを分かっていながらオレは捕獲と調教と売買を続けていた。


オレたちがあの人と戦って、救われるその日まで。




「お久しぶりですファーミン様」


オーターと一緒にパーティに行った日にオレはそいつとまた出会った。

オレが嫌いな蜂。

お父様と同じく蜘蛛を子を産む道具としか見ていない外道。


「今は蜘蛛を売ってはおられないので?」


……オレのかつての商売相手。


「貴方たちが捕まってから蜘蛛を入手するのが難しくなってきてましてね。また売ってほしいのですが……」


そっと袖のナイフを確認する。

ここで人を殺すのはまずい。

どこかに移動してから殺そう。


「そういえば貴方とよく一緒にいる神覚者は蜘蛛ですよね?今はいろいろと仕込んでいる最中ですか?」


殺そう。


周りの事など気にせずにナイフを取り出そうとした瞬間目の前の男は砂に埋められていた。

……オレごと。


オレは不意打ちの砂の衝撃に耐えられずに意識を失った。




目が覚めるとオーターの家だった。

オレはベットで寝かされていて隣でオーターは本を読んでいた。

「目が覚めましたか」

そう言ってオーターは本に栞を挟み閉じた。


「……あんなところで人を殺そうとしてごめん。もっと人目につかないところで殺そうとするべきだった」

「そもそも殺そうとしないでもらえると助かります」

「えー?」

「そんな顔してもダメです。……あの男に何を言われたんですか」

「……オレさあ、蜘蛛と蝶を蜂に売ってたんだよね」

「……」

「蜘蛛は子どもを作るために必要だし蝶は蜘蛛の栄養になる。だから蜂に売ってた。捕まえて、快楽に落として、そして蜂に売る。アレは売ってた蜂の1人」

「……そうなんですね」

「……それであいつさあ。お前のことを売り物扱いしたんだよね」

「……は?」

「『今は仕込んでいる最中ですか?』だってよ。……本当に反吐が出る」


あの蜂もオレもどうしようもないクズだ。

蜘蛛を虐げて蝶を殺す蜂。


それでも兄者とオーターを傷つけたくなかった。

2人を蜂の犠牲にしたくなかった。


そっとオーターの頬に手を伸ばす。

オーターはその手を避けなかった。


「……オレは酷い蜂だよ?逃げなくていいの?」

「……逃げませんよ。だって貴方は私に酷いことが出来ないでしょう?」


そう言ってオーターはオレの手に触れる。

オレは笑いながらオーターに口付けた。


「酷いことをしない」ではなく、「酷いことが出来ない」とオーターは言った。

相変わらずオレの友人はオレのことをよく分かっている。

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