蛇姫語 ~出会い~
ウタルテットの不当な読者koum「妾は許される! なぜなら、そう、美しいから!」
海軍本部からの呼び出し。
上から目線の対応に無視していたら、催促にやって来た海軍の船が九蛇の船に乗りつけてきた。
挨拶がてら海兵を石にする。
男なぞこんなもの。相手なんて、なりやしない。
「仲間に何やってんだ、おまえ!」
かなりの覇気を持つ男が奥から飛び出した。
おそらくソニアやローズマリーでは相手にならぬ。
確か、新時代の英雄。年が近いので覚えていた。
だが、男である以上、妾の美しさの前には無力。
“メロメロ甘風”
頭に血が登り、迫る男は避けなかった。
直撃。
何も起きない変化。
迫る男。
なぜ。
「がっ・・・っ」
勢いのままの正拳突きを、無防備な体勢の中で何とかガードするも、威力が強すぎる。
床を滑る。踏ん張れない。
九蛇の船の手すりをへし折り、船外へと吹き飛ばされた。
船が遠い。
「姉さまーーー!」
ソニアの絶叫が聞こえる中、海に落ちた。
あの男は強い。九蛇の誰もが叶わない。妾を助けにくる余裕があるとは思えない。
海軍も動くとは思えない。一撃で海に落ちて死ぬ七武海に意味は無い。
暗い海の底へ沈んでいく。
このまま死ぬのか。
美貌が故に好きにしてきた女は、美貌の効かぬ男に殺されるのか。
深い水中から見る海面は煌めいて、場違いにきれいだと感じた。
バシャンと陽光に煌めいていた海面が割れた。
人が飛び込んできた。
自分と同じ黒髪の人影。
近づいてきて、手を腰に回された。
反射的に抱き着いてしまう。
上方向への強烈な重力。
「ぶはっ、ごっほ、ごほ」
砲弾のような勢いで水上へと飛び出した。
飲み込んでいた海水を吐き出す。
飛び散る水滴に虹がかかるのが見える。
「軽いなー。おまえ。ちゃんと食べてんのか。ニシシシ」
私を助けたのは殴ってきたヤツだった。
日差しの中、太陽のように笑う男。
トーン、トーン、トーン・・・
六式の月歩と言ったか。
空中を歩く海軍の技法。
楽しげなステップで、空を踏み、船へと跳ねていく。
「なんで、妾を助けた?」
「そりゃ助けるだろ。お前を連れに来たんだしな。仲間を石から戻してもらわなきゃならねえ」
「死ねば、解除されるとは思わんかったのか」
「そいつは最後の手段だろ。ほらよ!」
女への扱いとは思えない乱暴な動きで、九蛇の船に投げ込まれた。
着地する。
相手はすでに構えていた。
「勝負だ! おれが勝ったらみんなを戻せ!」
何を言っているのか、一瞬、分からなかった。
「能力者が海に落とされたのじゃ。お主の勝ちじゃろ」
「不意打ちみたいなもんだったからノーカンだ! 今度は落ちるなよ!」
律儀な奴だ。
「・・・そうか。ならば・・・」
“メロメロ甘風”
石化の魅了の直撃。
やはり何も変わらない男。
さっきのは何かの間違いではないらしい。
「さっきからおまえ、何やってんだ? なんかの能力か?」
「もう良い。妾の負けじゃ。石化も解くし、どこへなりとも連れて行くが良い」
「そっか! ありがとう!」
これまでのやり取りを全く構わず喜ぶヤツに、沸々と対抗心が沸き上がる。
少しは吠え面をかかせてやらねばなるまい。
「ただし。これから海軍が呼びにくるときは、お主が呼びにこい」
「はぁ? 何言ってんだ? そんなに暇じゃないぞ?」
きょとんとしつつも困った表情。
そう、こういう顔が見たかった。
これからこの男以外が来たら、ごねることにしようと今決めた。
「よろしく頼むぞ、モンキー・D・ルフィ」
「ま、いっか。よろしく、えーっと、確かハンモックだったっけ」
「ハンコックじゃ」
他の男とは違う、自分に魅了されない男。
太陽のような眩しさ。
仄かな胸の高鳴り。
モンキー・D・ルフィとの付き合いはこうして突然始まって――――
終わりは、そう、いつものように催促を無視して、呼びにきた軍艦に、ルフィの姿がなかったときから始まった。