虚しき世界に花が咲く

虚しき世界に花が咲く



「うーん…」

慣れない心地よさに目を覚ます

身を刺すような寒さもなく、気絶する瞬間まであった痛みはあるものの耐えられないほどではない

周囲を見渡せば知らない個室 コンクリを打ちつけた壁に鉄パイプのベットと組み立て式の本棚

「知らない天井…なんて言ってる場合じゃないよね…」

周囲を見渡しながらここがどこかを考える

「人攫い…人体実験…監禁して…」

考えるべきは最悪の結果 何が起こるかはわからない 幸いにも自分の武器は近くにあった マトモに当たらない武器でも脅しにはなる 周囲を警戒し扉を開ける

瞬間

「ウォルター!レイヴン!あの子が目を覚しました!」

女性の声が廊下に響き渡る

位置を補足されない為に隠れながら動き、敵を探る

すると廊下の奥から杖をついた老人が歩いてきた 何故かエプロンを付けたまま

老人とはいえ敵の可能性はある

一時的に身を隠し、老人が前を通った瞬間、掴み掛かり首筋にナイフを構える

「ここはどこ?」

そう問うが老人は答えない 更に声を荒げてもう一度問う

しかし返ってきた返事は予想と違うものだった

「621…落ち着け…」

その声と同時に首を捕まれ、そのまま壁に叩きつけられた

衝撃で一瞬呼吸が止まり武器を手放す 手足を振り抵抗を試みるが首を締め上げられた状態では意味もない

「やめろ!621!」

老人が静止すると男は手を離し、私は床に落ちる

呼吸を整え、再び彼らの顔を見ると老人は心配そうにこちらを見つめている 私を締め上げた男はまるで獣のような眼光でこちらを見下ろしている

「…何か誤解があるようだ ひとまず落ち着いて話をしようか?」

老人がそう告げ、私は深く頷いた


彼らは行き倒れた私を拾い、看病までしてくれたらしい

温かい食事…米たっぷりのおかゆが出され掻き込む

老人は笑顔で「誰も盗らないから落ち着いて食べろ」と言った

食事が終わり話が始まる

何故あそこで倒れていたのか 私が彼らが何者なのかなどなど…

思い出そうとすればするだけ吐き気に襲われる 親友や友人達の死を目の前で見たのだ もはやアリウスの大人や子供に呼ばれた名前すら語れない


そんな私に老人…ハンドラー・ウォルターは「無理に語る必要はない 落ち着け…」と告げる

そして「行く場所はあるのか?」と問われる

そんな場所はない 仲間もいない

「もし行く場所がないならうちで生活するのはどうだ?うちは3人暮らしで1人増える事になっても問題はない」と彼は言った

更に隣の男…621は静かに頷き機械音声混じりの声で話す

「お前が望むならお前を害するモノから守ってやる 俺もこの人に拾われるまでは今のお前と同じだったから」

獣のようだった彼の目はいつしか自分と同じものを見る目に変わっていた

私はウォルターの提案を受ける事にした 仲間の分も生きていく為に 虚しいと思っていた世界を見る為に


「しかし名前がないのは不便だな どうするべきか…」

ウォルターが言う 確かに名乗っていない というか名乗ろうとすれば吐きそうになる

「希望はあるか?」

そう問われ悩みながら答える

「621ってウォルターさんが付けた名前なんですよね?」

「あぁ まぁそうだな」

「じゃあ622がいいです」

「…理由を聞いても?」

「…あそこでの名前はただの番号みたいなもので…ここで呼ばれる数字はちゃんと名前として呼んで貰える気がするので」

Report Page