虎杖街の物流
虎杖悠仁の生得領域は中の住民達の様々な生得領域が入り混じり一つの街として形成されていた、以下の物はごく一部だ
両面宿儺の骨山。
万の新築ボロアパート。
江戸を生きた術師達の長屋。
平安を生きた術師達の屋敷。
ドルゥヴが作り上げた高床式倉庫と縦穴住居。
九相図達が暮らす一軒家と様々だ、しかし極偶に新しい建物…否施設が生えてきたりする、その条件とは……
「お、今回は映画館か」
虎杖悠仁自身が見聞きし訪れた施設が時折領域内に出現する、幼少の時からこの仕様になっているがどうやら無意識下の一種の縛りとして成り立っているらしい未だ不明点が多い現象である。
互いに利がある為何も問題はない、寧ろ現代の娯楽を経験する良い機会と過去の術師達は現代娯楽を満喫していた。
この施設は永遠に残る訳ではない、虎杖悠仁がその施設に足を運び、経験し、記憶に残して初めてこの領域に施設が出現する、そして始まりがあれば終わりも来る。
この施設は出現してから約1日、つまり24時間に消滅してしまう、それがこの領域の仕様でありその一点はかの呪いの王ですら弄れる物ではない、寧ろ下手に弄ろう物なら二度と施設が出現しないかも知れないと宿儺本人がそう言うのだから術師達は揃って口を閉じるしかない、癪に触るがそれだけ呪いの王と言う称号は重いのだ、生け好かない存在だがあの羂索が最強の術師と言うだけの存在はある。
期間限定の施設故に過去の術師達はこぞってこの施設に足を運ぶ、今回出現したこの映画館は外の映画館とは構造が異なり完全な個室となっている、つまり自分が見たいものを好きに見れるのだ、あるものは新しく上映された映画を、またあるものは続きのアニメやドラマを鑑賞する為に映画館に足を運ぶのだ。
しかし何事も例外と言うものがある、それは今より少し前の事。
「風呂場が欲しい、広めのやつ」
とそう言ったのは誰だったか、いつか虎杖が今は亡き祖父と共に足を運んだ温泉と言う施設、あれは良かった、すごく良かった、平安や江戸を生きた身からするならばあれほどまでの湯治は経験したことがなかった、骨身に染みるとはまさにこの事、文字通り魂から洗浄される気持ちだった、故にその温泉施設が無いことを度々悔やまれた、さりとて毎日温泉施設に足を運ばせるのも忍びない、温泉とて無料では無いのだから、こう言うときレジィの術式が羨ましい。
“じゃあ作るか、温泉”
と決断を出すのは良いが方法がない、地面を掘って湧き出すと言うのは知識から得ている、だが自分たちが今立っているこの地面は虎杖悠仁の領域の地面、下手に掘り進めて悠仁に悪影響がないとも限らない、と言うか過去にそれをやろうとした術師の一人が九相図の脹相にしばかれていたのは記憶に新しい、ならばどうするか?悠仁に悪影響は及ぼしたくない、かと言って温泉も諦めたくない。
そんな最中に新しい入居者としてやってきたのが宿儺だ、彼の王の腕前ならば温泉を作り上げるのも容易いのではないだろうか?そう察知した後は早い即座に宿儺を取り囲み温泉施設の建設の案を出した、何やら宿儺は困惑していたが関係ない、俺たちは温泉に入りたいんだ。
「悠仁,少し良いか」
『お?どしたん?何か悩み事?』
「実はな…悠仁の中に温泉施設を作りたいんだ、宿儺の腕前があればそれが叶う、少し悠仁の領域を弄るが…構わないだろうか?」
『温泉かー,気持ちいいよなあれ!良いよ‼︎どうせなら広い奴な!たまに俺も入りに行くから』
承諾は得た、後は実行に起こすのみ。
「待て,俺はまだやるとは…」
「指3本だけで私達に勝てると思ってるならそうすると良いよ堕天、此処はおとなしく従っておくのを推奨する、君にも利はある」
「…小僧の生得領域を弄るのは容易い事ではない、癪だが小僧の檻としての強度は認める他ない」
「その為に今悠仁本人から許可を得た、此処の領域はかなり特殊でね、その辺の説明も兼ねて、新居者の君に教えておこう」
天使から悠仁の生得領域の説明を受けた際の宿儺の顔は生涯忘れないだろう、現代では宇宙猫と言われる現象に陥っていたのだから。
斯くして虎杖街に温泉施設が完成した、各々の生得領域の余分な所を削り構築することにより成り立たせた、特によく働いてくれたのは万とレジィだろう、コイツ等の物を出す術式はこう言った時かなり役にたつ、そして俺たちは数年ぶりの温泉、宿儺にとっては数千年振り…?いや初めてか?兎に角温泉入浴となった、湯の効能とかはレジィの術式や反転術式に用いる正の呪力を込めてある、九相図達が消滅する恐れがあったがなんともないようで何より、宿儺もご満悦だ、だから万、今はそっとしておいてやれ、温泉領域を永続的に維持できるように結界を構築してのは宿儺なんだからコイツが一番の功労者だ。
その後日の虎杖悠仁は──。
「なんか俺の中で皆が力合わせて温泉施設作ったみたい」
「マジ?ウケんね、宿儺を取り込んだからかな、少しだけ悠仁の生得領域を弄れるようになったようだね、それですることが温泉て…ククッ」
「一応俺が直接足運べば中に施設が出るみたいなんだけどさ、映画館とかカラオケとかね、でも温泉施設の風呂を経験した後だと今までの風呂じゃ物足りなかったみたい」
「現代娯楽にすっかり骨抜きにされてんじゃん」
五条悟に事のあらましを話していた、現代の最強と最恐が二人仲良く鍋を突く状況は見るものが見れば失神するだろう。
この後二人は食後の運動とばかりに少々荒めの手合わせをしていた。
◆中にある備品等は何処から来るのか?
虎杖街に置いて外の物が流れて来るパターンは大凡二つ。
一つ目が虎杖悠仁がその目で見て触れた物、それが中に流れて来る、外から中に流れて来る施設がそこにはあった。
(空港の荷物搬出所みたいな感じ)
「良いかな堕天、悠仁が外で触れた物、或いは取り込んだ物が悠仁を経由してこの中に流れ込んでくる…ほら今あの通り悠仁が触れた物が流れ込んできただろう?」
「…それでアイツらは揃いも揃って小僧に注文しているのか」
「現代の物は便利でね、生活を豊かにしてくれる、娯楽にも事欠かない、流れて来た物に対して自分の呪力を流せば消滅する事はないしね、烏鷺は化粧品やファッション誌なんかをよく保存しているし万なんかはほら、君との新婚生活に備えて──済まない、これは言うべき事ではなかったね」
「はぁ…それで?もう一つの流れ出て来る方はなんだ?」
「彼さ…あそこにいるレジィ・スター、彼の術式だ」
「あの蓑虫が?」
「そう言うな、あれで戦闘服らしい、とても理にかなっている」
そう、もう一つの方法はレジィ・スターの術式:再契象による物だ、彼は悠仁が買い物に出かける際必ずレシート、つまりは契約書を貰っている、即ち彼は此処の搬出所を使わずに外の物を取り入れる事が可能なのだ、彼は基本的に外の日用品や食品等を術式で出している、これに目をつけられるのは時間は掛からない、集団の圧に屈した訳ではないが(流石のレジィも歴戦の術師達相手に無意味に仕掛けようとは思わない)
それでも毎回とやかく言われるのも面倒だ、かと言って毎度戦闘で決めるのも芸がない、のでこうして賭博場の景品として物を出している、レジィはこの領域を作り上げる為に自分の住処の領域を極限まで絞ったらしい。
「兎に角堕天、この施設と彼を消してくれるなよ、唯一の外との繋がりで物流を生む場所だ、この二点が生きていればそれで良い」
「…酒や食物は流れ出て来るのか?」
「酒に関しては悠仁自身が未成年の為常飲こそ不可能だが…まぁ頼み込めば流れ出て来る、彼は優しいからね、食物も同じだ、基本的に悠仁が食した物がこの搬出施設から出て来る、無論我々が外に口を出せば直接摂取できるがね」
「はぁ…つくづく、面倒な肉体に受肉した物だ」
「皆最初はそう言っていた、しかし次第にその文句の行先は一つだ、文句なら羂索に言うんだな、悠仁が我々を全て取り込んだのは羂索の管理不足、そして我々を取り込んでも平気かつ力を外に出さないように設計したのも羂索だ」
「はぁ…アイツか…つくづく気色の悪い奴だ、まぁ良い、今はそれで納得しておこう」