『薬指にて』

『薬指にて』


「…ね、ねぇルフィ?…いる…?」

海軍本部のルフィの個室をノックする。

そうすれば、すぐに扉が開いた。

「どうしたウタ?めし行くか?」

「あー…そうだね、このあと行こっか。」

少しぼかしながら部屋に入っていく。

「ルフィは…書類珍しく片付けたんだ。」

「おう、それでどうしたんだ?」

「え?あーその…少し話でもしようかなって…。」


嘘である。

私は今日…ルフィにプロポーズに来ていた。

思えば愚かだった。

あいつは押さないと折れない。

自分からプロポーズする男に見えないと背中を押されてつい乗ってしまった。

特にガープさんからのお認めと一緒に励まされてしまい来たが…

やはりどう考えても軽率だった。

第一プロポーズしてどうするのだ。

結婚するのか?本当に?

考えるだけで顔が熱くなりそうだ。

仮に断られたらどうする?

そう考えると今度は顔から血の気が引いてしまう。

だめだ落ち着け、冷静になれと己を鼓舞する。


「大丈夫かウタ?お前さっきから変だぞ?」

「へ…!な、なんでもないから!」


少し頭にきたが、お陰で落ち着けた。

そうだ、この感じだ。

あとは明日の天気でも話すかのノリで行けば大丈夫だ。


「それでさルフィ、その、ちょっと…えと…」

「どうした?」

…言葉が出ない。

最後の最後で詰まってしまった。


「えっと…あの…け…けっ……」

「…………。」


言え。言うんだ私。

ルフィに伝えてやるんだ。


「けっムムム!」

…突如口が塞がれ…いや、目も塞がれた。

「ちょっと待ってくれるかウタ。」

待てじゃないのだが。

せっかく人が勇気を振り絞ったのに何だこの始末は。

本当に調子が狂わされてしまう。

…最も、本当に言えてたか怪しいが。


ルフィは何をしてるのだろう。

先程からガサゴソと音がするから机の中を見てるのは確からしいけど。


「あ、あった!ウタ、手出せ!」

「…?うん…。」

言われたとおりに手を出すと、小さな箱が乗せられる。

…なんだ?


「開けてみろよ、それ!」

そう言われて、やっと目と口が開放される。

割りと息苦しかった。

「ちょっと!もう……で、これ?」

本当に小さい。何が入っているのだろう。

そう思いながら開けてみる。

…そういえば、どこかで見たような気もし


「………え…。」



…中に入っていたのは、指輪だった。


「……嘘。」

一瞬なにか間違えてないかと思ったがそうでもない。

その証拠に、目の前の指輪…。

…銀色に光るそれのてっぺんには、あの私達のマークがある。

「…えと…ルフィ、これ…。」

「いや〜、色々分かんねェこと多くてさ!コビーとかにこういうの自由に作ってくれる店教えてもらって…」

「そうじゃない!」

いや確かにいつの間にそんな店行ってたんだと気にもなるが。

今聴きたい言葉は、それじゃない。




「結婚しようぜ、ウタ!」

しばらく、私の世界が止まった。


少しして意識を戻した私に、ルフィが敬意を説明してくれた。

どうやらコビーやルフィの部下たちがおせっかいを働いてくれたらしい。

「指輪渡して結婚すりゃよ、ウタとずっと一緒にいれるんだろ?」

「ま、まぁそうだね…」

「こういうのは男から渡すもんだって聞いたからよ!」

「…ま、ルフィならそんなものだよね。」

「ん?なんかバカにしてねェか?」

「いやいや…嬉しいよ、ありがとうね」


うん、まぁルフィにしては上出来だろう。

まだそんな色恋とかそんなのをすぐわかってほしいとは言わない。

ゆっくりわかってもらえればいいだろう。

…今は、ルフィがプレゼントしてくれたこと。

ずっと一緒にいてくれると言ってくれたことが嬉しくてしょうがないのだ。

少し浮かれてもいいだろう。

「じゃあ、つけてよ。ルフィが。」

「ん?おういいぞ。」

差し出した左腕、伸ばされた薬指にルフィの持つ指輪がはめられていく。

なんだか感極まってしまいそうだ。

「せっかくだしさ、もう一つお願いしてもいい?」

「おう、なん…」

元気に答えようとしたルフィの口を塞いで、すぐに離す。

ファーストはこんなものだろう。

「…さ、食堂行こっか!」

顔にたまる熱を払うように部屋を出ていこうとする。

少し呆けたままのルフィを置いて、廊下を歩く。

…周りに誰もいないことを確認して、左手を見る。

「…へへ…。」

つい口が緩んでしまった。

まさかこんな形になるとは思わなかったが…最高に幸せだった。


このあとつい浮かれて食堂に行ったら大騒ぎになったり、

駆けつけたガープ中将にルフィ諸共派手に背中を叩かれたり、

たしぎさん達に凄い問い詰められたり…

…数日後、本当にまさかあのルフィと一つになれたり…

……色々なことがあった。


〜〜〜

『お前、わちしの妻にしてやるえ!わちしに子守唄を歌うえ!』


『ん?なんだえこの指輪は?』


『「返せ?」生意気だえお前!』


『やっぱり奴隷にするえ!連れて行くえ!』


『なんだえお前…お前もわちしに逆らうか…』


『ヴォゲァア!!!!』


〜〜

「〜〜っ!」

目が覚める。

全身から嫌な汗が止まってくれない。

咄嗟に隣を見る。

ちゃんとルフィがいる。

頭に巻かれている血の滲んだ包帯が痛々しいが、ちゃんと隣りにいてくれている。

つい触れようとして、左手のそれが目についた。


あの日以来、あの指輪は私の数少ない支えだった。

ルフィとの繋がりを確かにしてくれるはずのものだった。

…それを、失ってしまった。

この前の夜の海賊との戦いの中、あの指輪は闇夜に消えてしまい…

結局そのあと現れた海軍からの逃亡までに、見つけることはできなかった。

その日はただ泣きじゃくっていた。

あの日々の数少ない思い出を失ったようで、止まることができなかった。

ルフィは何も言わず、そばでずっと抱きしめていてくれた。


その日、いつの間に泣きつかれて起きた私の左手に、見慣れないものがついていた。

草…いや、白い花だ。

昔誰かが教えてくれた気がするが思い出せないそれが、指に巻かれていた。

ルフィが寝ている間にやってくれていたのだろう。

翌日ルフィに聞いた。

「…言ったろ、ずっと一緒だって。」

…結局ルフィには、私の不安はお見通しだったらしい。

その日もまた、ルフィの胸を借りて泣いてしまった。


あれ以来、草が傷むと入れ替えるようにルフィが指に何かを巻いてくれている。

約束はまだ終わってないと言ってくれている。

それが嬉しかった。


二人でのこの旅が始まって一月と半分も既に過ぎた。

今日も新しく草でできた指輪が巻かれている。

これが私とルフィを繋げてくれている。



─本当に?

本当にそれだけなのか?


そう問うかのように気分が悪くなる。

最近こんなことが増えてきたように感じる。


…気づきたくなかった。

よりによって、こんな形の繋がりが今起きているとかんがえたくなかった。

…それでも、私の見聞色が確かな現実を突きつけてくる。


私はどうすればいいのだろうか。

その問いに、答えてくれるものはいなかった。


to be continued…

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