落日

落日


武器の音が響く。真白の部屋で、彼女は一人そこにいた。

「お父様」

いつの間にか彼女の「父」が傍らにいる。姉妹で色の異なる髪をなでる。

「……お父様?」

もう一度、彼女は「父」を呼んだ。

上を向く。老人と言って差し支えない顔を覗く。隻眼を見て、再度呼びかけた。

「なぜ、私は」

言葉は最後までつながらなかった。「父」が「娘」を抱きしめる。

「……行け。生きよ」

天馬の代わりの翼はすでに与えられている。元より大神が手づから作った肉体は、ちょっとやそこらでは傷つかない。それでも盾と槍を手渡して。大神は、「娘」を手放した。

「──あ────」

手を伸ばせども届かない。届くはずもない。既に道は分かたれた。

介入できるはずもないし、逆もまた然り。縁が途絶えることはなくとも、交わることもまたありえない。

燃える城が見える。戦う姉妹機と神々の姿が見える。同じであったはずなのに、否。今も同じであるのに、自分だけが切り離されて。

「──お姉様、お父様」

意味はあるのだろう。正しく刻まれずとも、その程度のことは最初から植え付けられていた。大神の判断に間違いはない。

それでも。

意味ではなく、理由を求めて彼女は試行を繰り返す。姉とは少し異なる細工が施されたプログラムが一旦停止するまで、“ trial and error”は繰り返される。

不完全なままで外界へ解き放たれた彼女が「壊れる」まで。

修復と損壊を繰り返し、正しく何かに「堕ちる」まで、後────。


不完全と未完成。調整の終わらぬままに飛び出した肢体。果たしてそれは故意か偶然か、大神のみが知っている。

Report Page