落としといて上げる

落としといて上げる




 攫ってきたコビー大佐を柱に縛り付け、黒ひげ海賊団は手始めにラフィットの能力による催眠を試みた。

 コビーの顔を掴んで目を合わせさせ、その能力で思考を支配しようとするラフィットと、見聞色の覇気を最大限に活用し、遥か遠くの景色と声に意識を集中させてラフィットの能力をやり過ごすコビー。提督・黒ひげと幹部達が周りを取り囲んで見守る中、静かな戦いは競り合いになっていた。

 両者引かないまま顔を突き合わせてどれほどが経過した頃だろう、先に根を上げたのはラフィットの方だった。一歩二歩とよろめきながら後退ったかと思うと、傍らの椅子にがくりと腰を下ろした。

「……ホホホ。まさか耐え切るとは……少々侮っていたようですね。これ以上は私の方が危うい」

 口ぶりこそ平素と変わらないが、コビーを見遣るラフィットの額には冷や汗が浮かんでいた。視線の先にいるコビーもまたかなり消耗したらしく、肩で息をしながらぐったりと項垂れている。

 顛末を見届けた黒ひげは徐に立ち上がり、コビーの方へと足を向けた。カツリカツリと近づいてくるその足音につられ、コビーは重たそうに頭を持ち上げる。やけに上機嫌な様子の黒ひげを見上げ、コビーはじっとりと睨みつけた。

 その大きな影が近づくにつれて、コビーの頭の中には情報が細波のように流れ込んでくる。

 白い肌、幼い顔立ち、健やかで滑らかな脚への食欲にも似た劣情。幾分か小さいコビーの体を組み敷いて、全身を舐め尽くすように味わって、快楽で右も左も分からなくさせてしまいたい。こういういかにも真面目そうな奴を無様に欲に溺れさせるのが善い。白銀の雪景色を足跡だらけにしてしまうような悦を覚えることだろう。足を折って逃げられないよう痛めつけて、人形よろしく愛玩してやっても良いが、そうしてしまうには惜しい。とはいえ抵抗されたらそれはそれで燃え上がって、非道いことをしてしまうかもしれないが。

 ────さて、どんな泣き声で魅せてくれるか試してやろうじゃねェか。

 黒ひげはコビーの目前に屈み込み、いつの間にか俯いてしまった彼の顔を指先で上げさせた。見つめ返してくる瞳の中に怯えを見つけ、ニタリと笑みを深める。捕食、非捕食の関係は明らかだ。顔を青くして震えちまって可哀想になァ、なんて身勝手な慈愛の感情すら湧いてくる。

「おい、シリュウ。コビー大佐の縄を解いてやれ」

「良いのか?」

「縄に体重がかかってる。自分じゃもう支えられねェんだろう」

 それもそうかと思ったのか、間髪入れずに刀が振り下ろされ、縄は両断された。解放されて支えを失ったコビーは、どさりと力無く床に倒れ込む。それでも起き上がろうという気力はあるのか、床を掻いて顔を上げ、黒ひげに敵意の乗った視線を向けた。その様子にシリュウは悠然とした足取りでコビーの背後へと回り込み、抜刀したままの切先をコビーの首元に差し向ける。

「大した胆力だ……まだ足掻くか」

 ツ、と動きを抑えるように峰が首筋に触れ、コビーはとうとう観念したように瞼を下ろして力を抜いた。その薄い肩が微かに震えているのを認め、黒ひげは目を細める。

「虚勢にしちゃあ上出来だ。なァ、コビー大佐」

そっと頭を撫でてやれば、大袈裟なまでにコビーの体が跳ねた。そのまま聞かせるようにゆっくりとジャージのジッパーを下ろしていくと、先ほど読み取った事が実行されるとでも思ったのか、小さな体がより一層縮こまった。一挙一動に竦み上がっている様子に、思わずゼハハと声を上げる。

 黒ひげはシリュウに目配せをして刀を納めさせると、コビーを抱き上げた。

「しばらくコイツと部屋に籠る。……折角仕上がったからなァ」

 黒ひげの腕の中でその言葉を聞き、コビーは虚な思考の中で確かな絶望を覚えた。最早指ひとつ動かせない状況で、彼の望むまま貪られるのだ。二人きりなのが、せめてもの救いになるだろうか。

 不意に額にキスを落とされて、また体を震わせた。その意味をコビーが正しく理解したのは、黒ひげの部屋を出てくる頃だったという。

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