転機

転機



 その日は酷く虫の居所が悪かった。


 数ばかり多く口ばかり達者な木っ端海賊共に、遠巻きにするばかりで交戦を避けようとする海軍共。ワノ国の統治そのものは比較的順調だったが、そのせいで余計に細々とした処理や指示が必要となり身体を動かせない日々が続いていた。

 自身に並ぶ存在、〝四皇〟であれば思う様に戦い傷付き、或いは死を垣間見る事も出来るだろうという誘惑を、溺れる程に干す酒に沈めて意識から遠ざける。……海賊団の頭等という立場さえ無ければ、思うがまま戦いを挑めるだろうか。

 そんな事、今更出来はしないと分かってはいても。時折どうしようもなく、心が乾いて仕方が無かった。


 ウォロロンが――カイドウが、何時ものように降り立ったその周辺が、つい数日前にとある人物と兄弟達が駆け回った場所だったのも災いした。

 へし折られた木々に戯れじみた破砕跡。楽しげで磊落な意思と共に、自身でさえぞわりと背を騒がせる強者の残り香。この相手と、死力を尽くして殺り合えたなら。……そう渇望するのに、其処に居るのはあまりにも小さな子供達だけで。――〝何故〟という理不尽な怒りと失望が、燻り続けていた不満と鬱屈に火を付けてしまった。


 バチリ、バリリと遠雷じみた音がコルボの山奥に響き始める。誰に向けたものでも無く、ただ臓腑を焼くような鬱屈のまま放たれたそれは、しかしこの場所のもの達にしてみれば極大の嵐に等しかった。

 逃げる事さえ間に合わず、息を潜めていた動物達が木立や岩陰でバタバタと倒れ伏していく。

 ぐるぐると、まるで本当に龍となったかの如き唸りと牙が擦れる音が響く。

 敵が居ない。強者が居ない。肌に馴染んだ荒くれ達の気配も騒がしさも、此処には無い。……非日常だからこそ安らかにあれたぬるま湯の様なこの場所が、今だけは心底恨めしいとさえ思えた。


 ――……出直すか


 僅かに残った理性を掻き集めてそう判断を下す。求める物が違うのだ。……今回ばかりは、〝飼い主達〟の傍に居た所で収まりが付きそうに無い。

 短い時間を縫っての訪問が無徒労になると思えば、この激憤も幾らかは沈静化するだろう。それでも尚足りぬならば、久方ぶりに〝趣味〟に興じるのも一興だ。

 そう結論付け、再度上空へ駆け上がろうとした、その直後だった。


「――ッウォロロン! この……目ェ、覚ませっ!!」

 ぱちり、と弱い静電気にも似た微かな感覚。見逃さなかったのが幸運とさえ思える程に弱いそれと、遠雷に紛れて聞こえた声。

 出処を探り向けた視線は酷く荒んだものだったが……〝それ〟を見付けたその直後には、大きく見開かれ驚愕のそれに取って代わられていた。

 パチパチと小さく鳴る音に、それに見合った小さな火花。轟雷じみたカイドウのそれに比べればあまりにも小さな、さながら静電気と言うべきそれは、しかし本来ならあり得ない筈のものだった。

「ウォロロン!! なあ、聞こえないのか?! ちょ、これ…止めろって!!」

「ウォロロン、どうしちまったんだよ〜!」

 守る様に一歩前に出た1人の背を2人で支え、遠雷に負けじと声を張り上げる小さな3つの人影。

 真っ青な顔色で、ガタガタと全身を震わせて。それでも逃げも倒れもせずに、彼等は確かに立っていた。

 

 バチバチと弾ける黒雷は、〝覇王色〟と呼ばれる覇気同士の衝突で見られるモノ。あまりにも未熟過ぎるそれでは、当然だが皇の一角に対しただの余波でさえ防ぎきれるものでは無い。……が、そもそもにしてソレを発現出来ているという事そのものが異常そのものだった。


 覇気を抑える事も忘れ見聞色を展開してその内側を探れば、確かに在る王の素質とその鮮やかさに驚愕する。

 〝覇王色〟のみならず、他2つのそれさえも僅かな切っ掛けで引き上げられそうな程に浅い場所に漂う気配。驚愕と……高揚、或いは期待の中残る2人も探れば、更に王の素質がもう1つ。覇王の色持たぬ1人にしても、他の2つは兄弟と変わらぬ程の浅層に揺蕩っている。――素質、或いは才能の塊。新世界においてさえ早々転がってはいない原石が、まさか最弱と嘲られる東の海の片隅に転がっていようとは。 

 ならばあるいは、本当に。

 悪い事をするならば自分達が止めてみせると宣言した声を思い出す。……なんの裏も迷いもなく告げられたそれは眩く鮮やかで、けれど叶わぬ夢だと思っていた。

 ゴミ山やスラムで育ちやがては海賊となる子供など、この時世では珍しくも無い。どれ程御大層な夢や目標を掲げたとしても、〝力〟が無ければこの海で生き残る事など出来はしないのだ。

 

 ああけれど、本当にそれをなし得る可能性があるなら。

「「「ウォロロン!!」」」

今度こそ、重なる声が意識に届いた。


 はっとして漸く覇気を収めてやれば、ぐらりと傾いだエースの身体を、自分達もふらつきながらサボとルフィが支えようと奮闘していた。

 急速に沈静化し冷静さを取り戻した思考が、自身のやらかしと現状とこの先の終わりを伝えてくる。……いくら恐れ知らずの三兄弟と言えど、ここまでやらかしてしまったからにはもう受け入れてはくれないだろう。


 最後に良いものを見れた。

 あれだけ啖呵を切ったこのガキ共が、いつか名を上げて自分の前に立つ日がくるかもしれないと思えば、この先の無味乾燥な時間も幾らか慰められるだろう。……それも、案外悪くはなさそうだと、今なら思えそうだった。 

 〝ウォロロン〟をここに置いて、〝カイドウ〟に戻るだけだ。――一時の夢としては、十分に楽しめた。


 そうして密かに飛翔しようとしたその刹那叩きつけられたものによって、酷く珍しい事にその姿勢が大きく崩れた。


「「待てウォロロン!! 逃げんじゃねェ!!」」

「え、ウォロロンもう帰んのか?!」

 エースとサボの怒声二重奏と、素っ頓狂なルフィの叫びが耳を劈く。は?と思わず間の抜けた声が溢れ、それでも反射的に視線を向け直せば仁王立ちする兄2人とその間で首を傾げる弟1人の三兄弟。

 未だに顔色は最悪で息も乱れたまま、それでもその強い視線には、怒気こそあれど恐怖も拒絶も嫌悪も含まれてはいなかった。

 


 ………………



大変尻切れトンボですが楽しかったです。

この後は三兄弟からお説教くらって、こいつらは本気で自分が悪い事をすれば止める気だしそれが出来るかもしれない力もあるしで、酒inと共に泣き上戸発動するウォロロンと、いつもより情緒不安だなァ腹減ってるのか?仕方ねェからいつもより酒多く呑んでも許してやるよ、とかやりながらわちゃわちゃしてる三兄弟

覇気食らってた時は流石に恐怖を感じなかった訳では無いし命の危険も感じたけど、コルボの大虎相手とかと同じで強いヤバい怖いとは思っても後は引かないし嫌いとか憎いにはならない

ガープをおっかないとは思っていても、決して嫌いでは無かったのと似た感じ


耐えられたのは、直じゃなくてあくまで余波だったのと、元来のメンタルの強さと、覇王色持ち×2と、10歳時点で覇王色発現出来てその後独学で全部使える様になったエースが居たから


この後なんやかんやあって、そんな強いならって一日100戦のあれとかにウォロロン主導での鍛錬が追加されるので、多分この世界の三兄弟、フィジカルと覇気に関しては原作以上になりそう

まあ、ワノ国ラストでテンションmaxで気力もやる気も満ち満ちたカイドウさん(原作より強そう)相手の決戦が待ってるので、多少の強化は良しと言う事で1つ

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