華は油につき、油は浮つく
(成華視点)
ある日、思いのほか早く終わり時間が余ってしまった任務の帰りに、私たちはとある建物の前にいた。
「榊原、来たかった場所というのは、ここかい?」
「うん…一度来てみたかったんだ…猫カフェ…!」
ワクワクを隠しきれない私を、微笑ましそうに見ている傑。
なんだかこそばゆく感じてしまうが仕方がないじゃないか、なにせ猫カフェだ。
猫好きならば一度は訪れたい楽園に、やっと足を踏み入れられるのだから、多少浮ついてしまっても仕方がないというものだろう!…多分。
「へぇ、意外とちゃんとした喫茶店の形してんだな、猫中心で中身は雑なもんかと思ってたわ。」
世間知らずなお坊ちゃまらしい感想をこぼす五条。彼の場合こういった施設は人づてにしか聞いたことがないだろうから、そういう感想になるのも少しわかる…わかるのは癪だけど。
「何はともあれまずは入ろう。ずっと入り口にいては迷惑になってしまう。」
そそう言ってドアを開けて中に入…らずに道を開ける傑。私を先に入れてくれるらしい。こういう細かい気遣いが自然にできるのは傑の良いところだ、親友として誇らしく思う…まあすぐに女の子を惚れさせてしまうのは少し心配だけど。
なんて思いつつ中に入ると、そこはやはり楽園だった。一見落ち着いた内装の喫茶店だが、スロープやテーブルの配置、遊具の場所などから店主の確かな猫への愛を感じられる。そしてその店内には、たくさんの天使たちがいた。大きさも模様も毛並みもそれぞれ異なる猫たちが、思い思いにくつろいでいる。
「天国はここにあった…!」
「また大袈裟な…」
苦笑しながら入ってきた夏油に、物珍しそうに中をキョロキョロと見ている五条。
そういう仕草は猫みたいなのに、なんでちっとも可愛げがないのか、あぁ性格が悪いからか…
なんて思っていると、アルバイトの可愛らしい女性が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ!三名様でよろしいですか?」
「はい、三名です。」
すかさず前に出て対応する傑。私があまり人と話すのが得意でないから気を使ったのだろう。本当に良い親友を持ったものだ。
すると、店員さんは傑と五条を見て少し顔を赤くしていた。無理もない、傑は塩顔だがきれいに整った優しげな顔だし、五条も見てくれだけは男性アイドル顔負けの美貌を持っている。
しかしなぜだか私を見たあと、店員さんもすぐにスマイルを取り戻して、システムの説明をしてくれた。
そうして大まかな説明が済み、とうとうお楽しみの時間がやってきた。
(夏油視点)
店員さんから話を聞いたところで、榊原は早速猫と戯れに行ったようだ。猫じゃらしを振り丸い目をした灰色の人懐こそうな猫と戯れていた。灰原っぽいなあの猫…
普段はあまり人と関わることが不得手な榊原だが、ああやって屈託のない笑顔で過ごしているのを見ると私もつられて顔が綻んでしまう。
ふと横を見ると悟も猫じゃらしで猫を釣ろうとしていた。金色っぽいサラサラとした毛並みのどこか神経質そうに見える猫だ。
(…七海に似ているな…)
なんて考えていると七海猫はふい…と顔を逸らして悟から離れていってしまった。 どうやら性格まで七海に似ているようだ。そのまま榊原の方に近寄り、彼女の足の上で丸まってくつろぎはじめた。
「五条は猫さんへの愛情が足りない…この子たちも…私の方がいいみたい…!」
とドヤ顔で悟にマウントを取り始める榊原と、悔しそうな顔でぐぬぬと漏らす悟……ぐぬぬってほんとに言う人は初めて見たかもしれないな…
それはそれとして、このままいつものように喧嘩しては店に迷惑だと思い、いつでも止めに入れるように少し身構えていたが、
「…(俺は邪魔者みたいだし)ちょっとトイレ行ってくる…」
と言ってそのまま御手洗まで行ってしまった。珍しいこともあるものだと思いつつ、寄ってきた白い綺麗な毛並みの青い目の猫を(…まるで悟みたいだな)と思い撫でていると、
「見て見て傑…!傑みたいな子見つけちゃった…!」
と楽しそうな榊原が声をかけてきた。その手には黒い毛色の細い目の猫が抱えられてこちらを見ていた。なるほど確かに私に似ている、だがそれよりも気になったのは、榊原の頭に着いているものだった。
「…榊原、それは…」
「…?ああ、コレ?…さっきそこにあったから着けてみた…似合う?」
────なんて上目遣いで聞いてきた。しかも猫耳カチューシャを着けて。なぜだか顔が熱くなる、それはもう鼓動が逸り出してどうしてか榊原を直視できないほどに。とはいえだんまりは良くない。私は何とか平静を装い、
「………ああ、可愛らしくて、とても似合っているよ。」
とだけ絞り出した。すると榊原はニマニマと嬉しそうに笑ったあと、少し考えるような素振りを見せてこちらに向き直り、
「…にゃ〜んにゃん♡…えへへ…ナンチャッテ…」
と恥ずかしそうにしながら、猫のポーズをして鳴き真似をした。
「………ヅヅヅ…いいと…思う」
としか言えなかった、いやむしろそれだけ言えたことを褒めて欲しいくらいだ。
(…なんなんだ可愛すぎるだろうあれは猫のポーズで鳴き真似しかも恥じらいながらなんて反則だろうもうああダメだこれはもうほんとにどうしよう榊原が可愛すぎてしんどい)
なぜか引っ掻いてくる茶色の毛に泣きぼくろのような模様がある猫(硝子っぽいな…)をいなしつつも、真っ赤になった顔を榊原に見えないように逸らしてとんでもない事になった思考を冷まそうとしたが、店員さんから、
「可愛い彼女さんですね!」
なんて言われて、火が出そうな顔を手で覆いながら、なぜかその言葉を否定したくなくて一言、
「…そうですね」
としか言えなかった。
成華:猫耳系女子
あざとい、あまりにもあざとい!しかし夏油に対する好感度は友愛に23である。なんなんだお前ら。
夏油:限界化オタク
成華のネコミミ+「…にゃんにゃん♡」+恥じらいのコンボにより、無事尊死。だが恋愛感情に自覚無し。なんなんだお前ら。
五条:多分動物には嫌われる(偏見)
「やっぱ俺いらなくねぇかなぁ!?」
家入:普通に忘れてた
ごめんなさい。
タイトルは「犬は人につき猫は家につく」ということわざから。油は浮ついてます。