荒立つ島

荒立つ島


沈黙した会場に、麦わらが拳を鳴らす音だけが響いた。

トラファルガーの野郎は我関せずといった調子で、今度は階段にめり込んだクズの方に何やら処置をしている。

「ごめん巻き込んだ」

「おれは構わねェ。おかげで人魚より貴重なサンプルが手に入ったからな」

”サンプル"とやらをクルーに押し付け刀を抜いたトラファルガーが、麦わらの一味を顎で示した。

「悪いお前ら…コイツ殴ったら海軍の"大将"が軍艦引っぱって来んだって……」

驚くべきことに一応天竜人の存在を理解していたらしい麦わらが、謝罪の意を口にする。一味の連中の背中は、未だ動かない。

「お前がぶっ飛ばしたせいで……」

既に鯉口を切っていた三刀流は、刀を納めながら言い切った。

「斬り損ねた」


そこからはもう滅茶苦茶だ。なだれ込んでくる時間稼ぎにもならねェ衛兵どもに、今更海軍大将を呼び出した世界一のクズども。客は先を争って入り口に殺到し、互いを押し出し合いながら逃げ出していく。

挙句新たに合流した一味の男はもう一人の天竜人を圧し潰し、トラファルガーの奴は残ったクズ女を斬り伏せて血を抜いていた。

さて、うるせェギャラリーも居なくなった所で、そろそろ外を固めているだろう海兵どもをぶっ飛ばしてやるか。そう考えた矢先、舞台の幕を裂いて現れたのは、巨人の奴隷と、一人のじいさんだった。

「ん?何だちょっと注目を浴びたか」

そいつは会場を見回し、知り合いらしい魚人と商品の人魚、くたばり損ないの天竜人に目をやりひとつ息を吐きだした。

「つまり―成程…まったくひどい目にあったな、ハチ……」

まだ状況が掴めねえ衛兵どもが、巨人を警戒して武器を構える。的外れもここまでくると失笑モンだな。ご愁傷様とでも言ってやろうか。

直後、並外れた覇気が空気を揺らした。

節穴どもの意識はことごとく刈り取られ、次々と地に伏せていく。数秒も経たず、未だ自分の足で立っているのはおれたち海賊だけになった。

「会いたかったぞ。モンキー・D・ルフィ」

"冥王"シルバーズ・レイリーが、とうに客の消えた舞台の真ン中で笑っていた。


結局人魚の首輪を外したじいさん、もといレイリーは、言いたいことだけ言って適当にトンズラした。麦わらに何か用があったみたいだが、海軍から身を隠すことの方が優先度が高いらしい。

噂通りのイカレ具合の"麦わらのルフィ"に、ロクに噂すらねえトラファルガー。予想外に面白いモンを見れたことに文句はねェが、こっちは今「大将」とぶつかるのはゴメンだ。

「おいお前ら…」

「よし、ルフィ。まずはここを突破するぞ」

「おう!」

もののついでに助けてやるつもりが、連中は一も二もなく共闘の姿勢に入っていた。

コイツら結局何なんだ。

「…やっぱり同盟でも組んでたのか?お前ら」

「同盟じゃねえ」

「あ?」

「「友だちだ」」

仲良く肩を並べて入り口に向かう背中には、清々しいほど迷いがない。

「…あいつら頭ん中に脳ミソ詰まってねェのか?」

「……さあ」

成り行きを見守っていた相棒からの返答は、マスク越しにも顔が分かりそうなほどには困惑がこもっていた。



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