草書(Ⅱ)
稲生紅衣メメ虎屋ダルヴァの主
女の話をしよう
少女は願われることも多々あった 遠縁であり近縁の親と同様に
『舞踏会でもっとも美しく踊りたい』
魔女のように少女は助言と魔法を与える 望まれるままに
衣装にはいつまでも良い香りの漂う気品ある緑のドレスを
化粧も大事だ 肌を白く染めるファンデーションは忘れずに
最期のおまけに飲めば楽してみるみる痩せる薬をひとつまみ
深夜十二時の鐘? 気にしなくていいだろう きっとそこまで生きられないから
人は未来を憂い 過去を恐れる それがあるべき姿だ
現実は結果だけの物 学びという物はそこには存在しない
仮に何かがあるのだとすれば 数式と獣の法だけだろう
「先輩...ここは!」
白の領地を歩き回り情報収集を進める中辿り着いた場所 その物件はクソデカかった
「チェイテ城の面影があるなあ......」
チェイテ城に食堂とコンビニとパチンコをぶち込んだ見た目をした建物を前にしてカルデアのマスターは踵を返そうとする チェイテ支店とは書いていたが悪い予感が当たったようだ
「ダメです先輩!明らかに大型の施設ですし情報が得られる確率は高いと思います!それにチェイテ城だけでその上には何も乗っていないだけマシです!」
「今まで回ったところは特にこれといった情報は無かったですからね 入りましょうか ね?」
綺麗な顔をしてマシュと一緒にカルデアのマスターを引きずる子ギルが微笑んで言っている 付き添いのセイバーはオロオロとしており忙しない様子だ
稲生に関しては「吾は社長じゃし顔ぱすじゃ!」とか抜かしているが嘘なのかどうか確かめることが難しく 能力のせいでまたダ・ヴィンチちゃんが苦悩していた
なにはともあれ入店 コンビニ部分に入ってみる
「いらっしゃいませー」
気の抜けた店員の声と共に目に入ってきたのはパッと見は普通のコンビニだ
商品がエリザベート・バートリーとアストルフォのプリントで埋め尽くされている点と店員が白髪のエリザベート・バートリーである点を覗けばだが
まだ増え足りないのかコイツ(エリちゃん)は
「あら戻ってきたのセイバーに裸族予備軍と...とカルデア御一行 なんで稲生のおばあちゃんはそこにいるの?」
「え 吾は今も昔もかるであ一行の一人じゃぞ?社長でもあるがのう」
白髪エリちゃんは『あっ突っ込んでも駄目な奴だ』と稲生から視線を外しセイバーの方を向く
セイバーがごにょごにょと子ギルに何かを伝えると
「配達は終わってますし助けてもらったお礼にお手伝いをしています とセイバーは言っています 僕も同様ですよ『店長』」
ウンウンとセイバーが遠慮がちに頷いてそれを後押しする
「ここは一体何屋さんなんでしょう…?」
「知らないの?最近のコンビニは節操無くなんでもするのよ」
マシュの当然の疑問に さもそれも当然の事の様に返すエリちゃんであるが
「万能な私が言うのもなんだけど コンビニにこれほどまでの万能を求めるのは良くないと思うよ」
冷静なダ・ヴィンチちゃんのツッコミが刺さった
ふとパチンコの方を見るとぱっと見カワキさんに似た人物がパチンコを打っているのが見えた...その背中は寂しく箱は一つも詰み上がっていない
周りの量産型メカエリちゃんが清掃の為に通り過ぎるのにワビサビすら感じるほどに
「パチンコを打ちたいのなら素材を渡してくると助かるわ 魔獣の毛皮や鉱石はQPか商品もしくはパチンコの玉に変えることが出来るから好きにしなさい
ちなみに一番人気の台は『川物語』よ」
「いや パチンコを打ちに来た訳でも買い物をしに来たわけでも無くて...情報が欲しいんだけど」
これは後でなにか商品を買った方が良いかなと考えつつ藤丸は質問する 白髪エリちゃんは心当たりがあったようだ
「なら私(アタシ)のマスターにでも聞いてみると良いわ アイツ口が軽いし無駄に情報持ってるから」
そういって食堂の方を指した その後こちらに手を差し出す
「なにを惚けているのよ 『情報料』よ!労働にはそれ相応の対価を払う!大事な事よ!」
「このエリザベートさん...そこまで傲慢ではありませんががめついです!」
道中で一応集めていた魔獣の肉を交換しQPが情報料と食べ放題プラン分省かれて帰って来た
ホクホク顔の白髪エリちゃんを他所に一行は食堂に向かう
大きく開けた会場 眼下に広がるのはアホみたいな量と種類の料理...
「僕の宝物庫には及びませんが やはりすごい量ですね
それでは僕とセイバーはお邪魔しないように料理を取ってから合流しますね!」
「子供だけで行かせるのは怖いからのう そちらに吾も同行しよう」
三人はぱっと見はしゃぐ子供の様にすっ飛んでいく
とりあえず初手でアイスを取ったり ナチョスに魅せられていた
「なんでナチョスの上にチーズやお肉を乗せているのですか...とセイバーが聞いています」
「確かあめりかん すたいる なのじゃ とりあえずちーずを焼かねばならぬぞ!お肉はその後じゃ!」
ガチャガチャやっている様は楽しそうである
藤丸とマシュは件の『マスター』に会う 彼は厨房にいた
「待っていたでござるよ...カルデアのマスターとデミサーヴァント殿!自分は『店長』のマスターで事務担当のメメ・マールヴォロでござる」
その身長3m 古今東西のサーヴァントを含めても大きい部類には入るであろうその巨体に少し驚いた
「自分は黒の陣営と赤の陣営と白の陣営の敵で 黒の陣営と赤の陣営と白の陣営とピザ屋の味方でござるから...今日からは追加でカルデアにも味方入りするでござるよ!」
「もう既に支離滅裂です...恐らくバーサーカーだと思われます 先輩!」
これは情報源として大丈夫なのだろうか そう考える藤丸であった