茅の中、蚊帳の外
幸いを望む幼子痛い、痛い、痛い。
ずきずきする、頬が、腕が、足が、心が。
茅の中、1人倒れて、置いてけぼり。
風花と永佳も行っちゃって、1人茅で置いてけぼり。
稲穂が傷を摩って、更に痛い。摩らないで欲しいのに、風がもっとと急かしてくる。
父さんは僕を置いてって、母さんは父さんに着いてって、風花は母さんの手を握って行って、永佳は僕を見なかった。
ひとりぼっち、投げ出されて蚊帳の外。
家族って何だっけ、親子って何だっけ、姉妹ってなんだっけ。
夏樹は僕を心配してくれるけど、夏樹の母さんがそれを許さない。夏樹は友達でも、みんなはだめって言うから。
死体を操る術式。虫の死体も人の死体も動物の死体も操る術式。相伝でもなければ家の誰かが使っていた術式でもない。ぽっと出の意味も訳も分からない、誰も知らない術式。
そりゃあ嫌だよね、だって怖いよ、死体を操るなんて。僕も怖いし、こんな術式要らないよ。でも家のためには強くならなきゃいけないから、ずっとずっと練習して練習して練習して。
でも、僕の呪力は少ないみたい。
だから、いつまで経っても殴られて蹴られて、吐いて吐いて吐いて吐いて。血も胃液も唾液も何もかも、呪詛も。
生まれたくなかったな。
誰とも会いたくないや。
何で僕は1人なんだろうな。
何で僕だけ1人なんだろう。
痛い、いたい、いたいなぁ。
茅が鳴いてる、さっさと立てって。風も言ってる、起き上がれって。そんな感じがする。
でも痛いよ、立ち止まりたいよ、なんで立ち上がらなきゃいけないの、何のために立ち上がるの。
僕は僕のために死にたいよ。
死んじゃだめなの、ねぇ。
死んじゃだめなら、会いたいよ。
僕の、僕の大切な人。
僕を見てくれる人、僕の術式を見ても怖がらないでいてくれる人。僕のために思ってくれる人。この痛みを分かってくれる人。
会いたい、会いたい、会いたいよ。
僕だけの幸いに、行きたいよ。
僕だけの幸いに、会いたいよ。
僕だけの幸いのために、生きたいよ。