苦労人系監督役補佐

苦労人系監督役補佐


「貴方は……」

青年…一条終夜もまた、騎士の姿に見覚えがあった。

「昨晩ぶりだな坊主」「…その節は、どうも」

などと、短く挨拶を交わすが、両者に親交もクソもない。少なくとも、終夜は友愛よりも警戒心を強く抱いていた。

少なくとも、騎士は自分に良い印象を抱いていないだろう。この起爆剤のような騎士は、目的を遮るものは躊躇なく切り捨てる手合いだと終夜は睨んでいた。

一方、騎士と戦闘していた大剣を持つ女性は、終夜が現れてから何一つ発さず、ジッと品定めするように終夜を見つめていた。

「戦闘を中断させた理由ですが」

声をかけると両者から殺気が立ち上るが、気にしたら負けだと己に言い聞かせ、言葉を続ける。


「貴方達の宝具…特に…」

終夜の視線が騎士へと飛ぶ。

「貴方が先程持っていた槍…」

言い切るよりも先に、騎士の面倒そうな声が言葉を遮った。

「ァあ、分かってる分かってる。使えば被害がデカくなるから無闇に使うな、特にココで使えば地形がひでぇ事になるだろうってんだろ」

「んっ…そ、そういう事です」

自分の台詞をまんまと言い当てられ気恥ずかくそうに頰を掻く。


「…貴方は、英雄(ヘルギ)じゃない…」

今まで押し黙っていた女性が、終夜に対して小さく零す。

「貴方は…何者かは分かりませんが…察するに聖杯戦争の管理のため聖杯より呼び出されたサーヴァント…でしょうか」

「む…その通り、です…」

いきなり喋りだした女性の的確さに面喰らいつつも、首を小さく縦に振る。


「敵意がないのなら私からは何も。そして」

女性は騎士へと視線を移す。

「現時点での真っ向勝負では、貴方を殺すのは不可能です。また…殺せるようになったら逢いにきますよ、英雄(ヘルギ)」

「そうか。二度と来るな」

返答を貰った女性は悲しげに微笑んで、そのまますうっと消え、残された終夜と騎士の間には気まずい空気が流れる。


「………まぁ…とにかく、その宝具は無闇に使用しないでくださいね、ランサーさん」

そんな気まずさを吹き飛ばすように、努めて明るく話しかけるが騎士の返事はない。無言も無言で怖いが、これ以上刺激すると更にややこしい事になると判断し、大人しくこの場を去る事に決めた。

「それでは……」

「待ちな」

去ろうとした終夜を騎士が…ランサーが呼び止めた。その声は今にも『貫いて』しまいそうなほど怒りに満ちている。

「いつから俺のクラスと宝具が分かった?クラスはこの槍を見たからだとしても、何故真名の解放すらしていないこの槍がどういった被害を齎すのか……そこまで分かった?」

「え、えっと…ですねぇ…」

矢継ぎ早に繰り出される怒気を含んだ質問の嵐に、終夜は答えあぐねていた。

「腕の一つも落とせばその口も軽くなるか?」

ランサーの手には双剣が再び握られていた。先日は意識外からの乱入であったからこそ剣戟を防げたが、正面切っての対応となると勝てる可能性はない、と…"視"えた。


「…これでも、聖杯戦争の監督を務める存在ですからね。真名を見破るスキルを持っているし、貴方がたを止めたのだってスキルによるものです。別に卑怯な事をしたわけじゃありませんよ」


「……フン」

双剣を元通りに収め、ランサーは終夜に背を向ける。

「ならいい…あばよ。これ以上テメェと同じ空気を吸ってりゃ殺しちまう」

恐らくその言葉に嘘はないのだろう。まだ何もされていないにも関わらず、喉元に牙をたてられているような錯覚さえ感じた。

「あ、ちょ……」

ランサーもまた、一方的に言いたい事を言い切って、そのまま姿を消してしまった。元よりこの場には終夜以外いなかったのだと訴えるように、葉が風に擦れる音だけが静かに響く。



「……ランサーといい、バーサーカーの彼女といい、キミといい…サーヴァントって、皆あんな自由な人ばかりなのかい?」


誰もいない森の中、終夜は独りごつ。


「ねぇ…"ルーラー"」


或いは自分へと、話しかけるように。

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