若き日の冒険譚

若き日の冒険譚


「お前は新入りじゃな」

「どうしたのだ?じじい2人の

茶会など見ても楽しい

ものでも無かろう」

広大な草原に建つ一軒家の庭先。

お茶を飲み談笑していた

2人の老人の元へ幼い少女が訪れていた。

「お前は怖いからあっち行け、って…

2人は怖くないの…?」

涙目に問い掛ける少女に

何を馬鹿なと老人達は大笑いする。

「それなら今日はここで茶でも

飲んでいくと良い」

「たまにはじじい2人と語り合おうぞ…

どれ、茶を汲んで来る」

にんまりと笑顔を見せる少女。

「2人は昔から戦士だったの?」

「ああ。若い頃は武者修行も

兼ねて海へ出ていたものじゃ…

そうじゃ。少し話そうか」

お茶を組み終えた老人が戻ると

2人は若き冒険の日々を語り出した。


行商人が未知の植物を卸していた。

一見すると普通の種だが

植えると1日で立派な草木になるのだ!

木材に困る地域や砂漠地域に

これを流通させれば資源不足や

砂漠化といった問題の

解決になるのではと感じた

私達はそれを求めて船を走…

「船長!チェスナット船長!

見えましたよ!」

「日誌書いてる場合じゃないですよ!」

船長室を出ると2つの山を有した

緑豊かな島が見える。

「あれがそうか!?よし!上陸だ!」


島には見事な大自然が広がっていた。

王宮を支える柱のような大木。

人間の背丈にも劣らない植物達。

強烈な緑に覆われる光景は

荘厳さすら感じられる。

「見事だ…!」

チェスナットは感嘆の声を上げる。

「素晴らしい大自然ですね!」

研究しがいが有るぞ、と仲間達も

喜んでいた。

「船長、山が気になりますね」

見上げると2つの山。

標高はそこまで無さそうだが

穏やかな曲線が長く続いている。

「私は山の調査から行きたい」

「船長!まずは周辺の生態観察や

身の安全確保でしょう!?」

「まあ、船長は1番最初に

気になる所から見るもんなぁ!」

困惑しつつも大笑いする仲間達。

-おれも山に行きてえ!

と数名が立候補する。 

みな、腕っ節の確かな連中だ。

「よし、左の山からだ!」

チェスナット達は足場の悪い

植物の道路を

目を輝かせ歩き始めた。


「船長…この山…おかしくないですか?」

「地面が歩きにくいし…

植物の生え方も変だ」

登山するチェスナット一行は

疑問を次々と浮かびながらも

山頂を目指している。

「これだけの大自然ですよ?

なのに生き物が居ない…」

「…山頂を目指そう。

高い所から見下ろして全体を把握

すれば生き物も見えるかもしれない」

日は高いうちに

山頂からの全体把握はしたい。

逸る気持ちを抑え進み続ける。

広大な大自然が覆う緑豊かな島。

そう思っていたが…

虫以外の生き物が見えない。

時折妙な方向に生える植物。

山から歩きにくい地面…

進む度に

最初の印象は消え失せ

疑問が浮かび続ける奇妙な島だった。

植物のスケッチや

サンプルを少し採集し山頂へ辿り着く。

高所から観察出来た

チェスナットは

この島と山の奇妙さを実感する。

少し離れた場所にお面のように

植物が被さっている事。

そして

広大な植物に隠れている為なのか

島を見渡しても

やはり生き物は居ない。

更に山の

植物は山の周囲を根が覆いそこから

別の植物が生えているようだった。

そして、あれは…

「船?」

大型の船が対岸に見える。

自分達の船も国で誇れる程のサイズだが

それ以上に大きい。

その時だった。

ゴゴゴと地面が揺れ出す。

「地震だ!皆、気を付けろ!」

最初に気が付いたのは1人の仲間だった。

「…船長!地震じゃない!」

チェスナットも気が付く。

遠くの植物はあまり動いていない…

この山だけが揺れている!

「船長、あれ!」

なんと山を覆う根が

動いているのだ。

「お前ら!?何しているんだ!?」

どこからか声が響く。

あまりの事に大地から発せられると

錯覚してしまう程だった。

「私は植物学者のチェスナット!

そしてその同士達だ!

この島には研究に来たので

敵意は無い!」

収まらない揺れの中で

何とか立ち続け両手を上げる。

「勝手に島へ上陸したのは

済まなかった!

繰り返すが我々に敵意は無い!

どうか姿を見せて欲しい!」

揺れは少しずつ収まって行く。

「いや…姿を見せるも何も…」

声の主は困惑しているようだ。

「人の腹の上で何しているんだ?」

「…腹の上?」

チェスナット達は気が付く。

仮面のような植物に覆われた場所。

…人の顔がこちらを覗いてた。


…の日に巨人が犠牲になりつつあった

島へ上陸。

この島は1日で急成長し

3日程で枯れる事を繰り返す植物に

覆われていた。

生き物が居ないのは

生物の就寝中に植物が少しずつ

覆い被さり拘束し皮膚から侵入、

根を張り養分を吸い取る為だったのだ。

知らずに上陸した人間や

海鳥・海獣を捕食している

「ストマックバロン」

に似た生態の島だ。

私は植物を

「フェニキシード」と名付け

島は「フェニキシードアイランド」と

命名する。

巨人達は航海の途中で島で休息を

取っていた所1日で植物に絡み取られ

それに気が付かず目覚めた時には

我々が腹の上にいたらしい。

研究・観察としてフェニキシードを

少し伐採し経過を見るも

切る前と性質は変わらず3日で

腐り落ちてしまった。

…私の思いに賛同してくれた同士達を

死なせたくはない。

亡き先祖の無念を晴らす為に

植物学者として研究しながら

世界を渡っている為

早くに気が付き

仲間も巨人達も犠牲に

ならずに済んだのは幸いだった。

仲間達の手を借りながら

明日もまた船は海を行く。

           モンブラン・チェスナット


「どちらも死ぬ所だった…ザバババ!」

「ボジャジャジャ!

全くだ…あの時の人間達には

助けられた…

植物に覆われた我らを命懸けで

斬り開き救ってくれた」

豪快に笑う2人に楽しそうに笑う少女。

「眠っていたら葉っぱに被せられたの?

そしたら人間達が山と間違えたんだね!?」

凄い凄いと歓声を上げる。

「いつかおれも

2人みたいに大きくなれるかな?」

「人間には我らのような大きさには

なれんが…」

「この地の戦士のような大きな器を持つ

事はできるさ」

「本当!?」

「ああ…本当だとも…リンリン」

ありし日のエルバフ。

ヨルルとヤルルは

シャーロット・リンリンに

語り笑い合う。

悲劇が起こるのはまだ先の事だった。


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