苗床は私の性癖に合っていますよ
「く、はは、あはははははははははははははははははははははっ!! やった、やった!」
狂い嗤う少女がいる。優しかった少女の面影を殺し、愛らしかった笑顔を塗り替え、鈴のようだった声は千切れそうなヴァイオリンのようだ。イヴだった少女は、イヴリースへと塗り替えられた。
「ねえ、ねえアヴラム? どうしたの? いつまでもそんなところで寝ていないで私を助けてよ。ねえ、アヴラムぅ? くひ、はははははは!」
息絶えた少年のそばには竜の仔が寄り添っている。二つの命だったものを、少女は心底愉快そうに踏みにじる。生気を亡くした少年の顔を何度も踏みつけ、鼻を折り、歯を砕き、目を潰し。ただただ楽しそうに笑っていた。
「ねぇえイヴ、貴方のアゥラムねえ、あはは! 死んじゃったぁ! ペットのトカゲもお兄ちゃんも死んじゃったぁ! 悲しいわよね、切ないよね、伝わって来るよ、貴方の心……すっっつごく楽しいぃ!! きひ、ひひひひひひひ!」
彼女だった心の絶叫が頭の中に響き渡る。聴く人の涙を誘うほどの悲しみの声に、彼女はただただ嗤う。おぞましく歪んだ唇は裂けそうなほど吊り上がり、うっとりと、悩ましく熱っぽいため息さえ漏らしながら。
「あぁ、んもぉ、ダメよそんなに良い声で鳴いたら。興奮しちゃうじゃない…あぁ、貴方処女だったのね。綺麗なまま結ばれたかったんだ? 好きな人に捧げたかったんだぁ…でもざぁんねぇん! コレのチンポはもう役に立ちませぇん!」
細腕が手を掲げると、不意に転がっていた剣が浮き上がる。それは彼女が全てを手に入れた証なのだろうか、まるで主に従うかのように剣は少女の手に収まり、軽々と振るわれる。
一振りが竜の首を落とす。もう一振りが少年の腹を裂いた。最後の一振りは、少年の陰部に突き立てられた。ケタケタと笑う少女の声は無垢に聞こえるかもしれない。だが、その顔は真っ黒な悪意に染まっている。
「ねえ、どうする? 貴方さえよければ今ここで殺してあげる。私たちの仲じゃない! ね、その方が良いと思うなぁ。だって生きててもアレだよ? 大好きだったお兄ちゃんはもう死んじゃってるし、なんて名前だっけ、そのトカゲも燃えるゴミだし、大好きだったこのガキも私が殺しちゃったんだよ? それなのにイヴはのうのうと生きていたい? 違うよねぇ、死にたいよねぇ! だからさ、出てけよ」
吐き捨て、剣の柄を握りしめる力が強まっていく。やがて血が滴り刀身に触れ、不思議な輝きと共に…剣に浮かんだのは少女の姿。一瞬の強い瞬きと共に現れた少女は悲しみに満ちたまま笑い、少年の亡骸を抱きしめる。
その姿をつまらなそうに見つめ、イヴだった少女は気のない拍手をした。
「はいはいお疲れ様。もういいよ、じゃあねイヴ」
ぱちぱち、と乾いた音が響く。同時に刀身にひびが入り、五度目の拍手と同時に砕け散る。少女の幻影も消え、イヴリースが指を鳴らせば二つの死体は燃え上がる。やがて残ったのは、ただ一人だけ。
「さて、と。後は最後の一仕事を済ませればぁ…全部、ぜーんぶ私のもの! ふふふふふ、ふふ、あ?」
笑う少女の視界に、小さな影が映る。
それは大したことのない犬のような魔獣。かつて、隠れ住んでいた頃のイヴでさえ一人で追い払えるような雑魚でしかない。ここまでの旅路では近寄ってすら来なかった、ただ数だけは多い魔獣だ。
警戒する必要すら覚えず、イヴリースは手でシッシッと追い払う。普段ならそれだけで逃げていくはずなのだが、なぜか今は喉を鳴らしてこちらをじっと見ている。
「なに? 邪魔するなら殺すけど?」
次第に苛立ち始めたイヴリースは、魔獣の前へと歩み寄っていく。
そもそも、弱いのだ。サイズも普通の犬より少し大きい程度で、毒も魔法も使えない。牙もそれこそ犬と同じで爪だってそう。繁殖力だけしか取り柄のないゴミなのだ。
それが逃げない。まるで対等かのように威嚇して来ているではないか。先ほどまでの気分の良さに水を差された気がして、瞬間的に怒りが高まっていく。
「は。いい度胸じゃない、さっさと死になさい!」
振り上げた手を下ろす。もはや万能に近い彼女からすれば、その行為ですら勿体ない。ただ念じればすぐに消え失せるはずなのだ。
そのはず、なのに。
「……え? ちょっと、なに、どうなってるの?」
何も起きない。魔獣も一度怯えたように下がったが、徐々にイヴリースに近づいてくる。
混乱しているのはイヴリースだ。力が流れない。どこかで止まっている。その流れをたどってみていくと…剣が、ある。折れて砕けた剣の残骸が、追悼の鐘のように音を立てているのだと初めて気づく。そして見回してみて、イヴリースは憤怒の表情を浮かべた。
「イ、ヴゥウゥウウウ! 最後の最後に、下らない真似をしてくれたわね!」
恐らくそれは、最後の抵抗だったのだろう。力を振り搾って残されたのは、イヴリースの力を封じるための結界だ。それも恐らく、この辺り数十メートル程度のごく狭い範囲にだけ広がるもの。急ごしらえのためか結界自体は空間を遮らず、歩いて結界から出てしまえば力を取り戻す、そんな子供だましのような結界だ。せめてアヴラムの亡骸だけでも守りたい。そんなイヴの最後の願いが作った奇跡である…結界が力を発揮するのが遅れ、その願いだけは叶わなかった事を知らずに逝くことができたのは、イヴにとって幸せなことだったのだろう。
凄まじい形相で剣の残骸を睨みつけ、大きく舌打ちをして歩き出す。結界の外から、この場をすり潰してやろう。
(そうだ、なんなら生き返らせてやってもいい。そしてアヴラムの前で野犬にでも純潔を捧げさせてやろう。ふふ、死ぬまで、死んでも後悔させてやる!)
目の前の魔獣を蹴り飛ばす。歪んだ笑みを取り戻し、下らないことをしてくれた連中に復讐をしてやろうと一歩を踏み出した、その時。
どう、と衝撃を受けた。
「ぅぐ、あ?」
何が起こったのか分からない。ただ、気付いたら尻もちをついていた。 目の前には魔獣が四つ足で立っている。こちらを見て、唸っている…?
その獣は――何も考えていなかった。
そもそも愚かな生き物なのだ。ただ、目の前に自分より弱い生き物がいて、それがメスだということだけが重要だった。
魔獣であるそのオスにはそれだけが、飛び掛かる理由だった。
「痛っ!? この、雑魚がぁああ! どけ! どきなさい! どけってばああああ!!」
叫び、睨みつけるイヴリースの迫力は確かなものだ。知性ある生命体であれば、今や神に等しい彼女に対して愚行に及ぶことはしないかもしれない。だが。
魔獣は犬のように舌を出し、薄汚い牙を見せながらイヴリースの頭から臭いを嗅いでいく。鼻先同士が触れ合い、イヴリースは獣臭に吐き気を催した。
「うぷ、臭い…ちょっと…なに、してるのよ…」
青ざめる、とは今のような彼女を言うのだろう。怒りで赤くなっていた顔は血の気が引き、自らの股間を激しく嗅ぎながら見る見るうちにペニスを巨大化させていく魔獣に声を失ってさえいる。
魔獣のペニスは異常なものだった。人間のモノと違い、ドクンドクンと脈打つたびに明らかに全体が膨らみ、特に先端は脈動に合わせて握りこぶしほどにまで丸く膨らみ、元に戻るを繰り返している。白濁した汁を先端から垂らし、鼻が曲がりそうなほどの獣臭がする精汁が白く美しい肌の上に落ちていく。
イヴリースの怒りは急速にしぼみ、変わって湧き上がるのは――恐怖だった。
「ね、ねえ、ちょっと…待って? わかった、わかったから。ね? 後で、結界から出たら貴方のお嫁さんを探してあげるから。そうだ! 私と同じ体の女がいいわ! イヴっていうの、それを貴方にあげるから…いやああああ!」
獣は意に介さない。自分の下にメスがいるのだ。交尾に邪魔な服を噛みちぎり、露わになった股ぐらに鼻を擦り付ける。処女の甘酸っぱい匂いがわかるのか、尻尾を大きく振って汚い舌で舐め上げる。
ぴったりと閉じた聖域は、白く柔らかな双丘で挟まれている。開けば美しい桃色の秘肉が、愛する人を受け入れるためにあるはずだったのだ。
その場所は今、穢れた獣の、気遣いも何もない力任せの舌なめずりで肌が擦れ、血が滲んでいる。膣を隠す秘肉を邪魔だとばかりに、ヤスリのような舌で何度も舐めつけていくのだ。魔獣は交尾をしやすくするためにある意味濡らしているのだが、される方はたまったものではない。
自慰すら、さほどしてこなかったのだ。敏感過ぎるといっていい場所を拷問まがいのクンニを受け、イヴリースは外聞もなく泣き叫んだ。
「い、ぎゃあああああああああああ!!! いだいいぃい! いだ、いやああ! やだ、やめで、やべでええええっ!!」
暴れようにも、結界はイヴリースの力押え込む。彼女に許されるのは最低限存在するための力だけ。惰弱な魔獣にすら劣る力では、逃れようがない。
やがて魔獣は舌に触れる突起に気付く。それは快感ではなく、酷い刺激を受けて半ば悶えるように顔を表したクリトリスだった。血が滲む膣の中で咲く桃色の種はどこか美しささえ感じられるが、魔獣には関係ない。同じように舐めるだけだ。
「っあ、ぎぃいいいいあああああああああ!!! あああああ!! あが、あがっ…」
股間が脳を殴りつけるような痛み。感じたことのない激痛に白目を剥きながら、イヴリースは瞬間気絶してしまう。顔は酷いもので、美少女だった面影を全て涙と唾液、鼻水で上塗りしてしまっている。びしゃびしゃと音がする方に目を向ければ…痛みのあまり放出された尿の水たまりと、勃起したペニスを挿入しようとする魔獣の姿が見えるだろう。
だが、魔獣のペニスは上手く入らない。気絶した人間相手に四つん這いではらちが明かないと思ったかどうかは定かではないが、業を煮やした魔獣は苛立ったように、あるいは叱咤するように膣を舐め上げた。そうすれば。
「ひぎゃああっ!? いだ、いだい、いだぃよぉ…ひっ! やだ、やだああああ! 助けて、助けてアヴラム!」
顔をぐしゃぐしゃにして、四つん這いでアヴラム――だった灰に近寄っていく。
それを見て魔獣は満足そうに尻尾を振った。メスがちゃんと交尾の姿勢を取ったのだ。後は孕み袋に精を注げばいい。
ノロノロと手足を動かすイヴリースに覆いかぶさった魔獣はペニスを膣にあてがった。真っ赤になった膣は腫れ始め、痛々しい姿だ。先端を擦り付けてへこへこと足を動かすさまは、間が抜けている。
「あ、ああ…やめで…おねが…あぐっ!? いだ、いだいっ! ごめんなさい、ごめんなざいいぃ!」
何度か繰り返すうち、挿入できないことにまた苛立ったのだろう。魔獣は唸りながら前脚を振りかぶり、イヴリースの背中をしたたかに打ち据える。犬のパンチなど普段なら笑って過ごしてしまうのだが、今の彼女には苦痛でしかない。
もしかしたら、今の情景を見て酷いDV夫と妻、のように見えるかもしれない。お尻を突き上げて、上半身は床に擦り付けて許しを請う…犬に向けて。あまりにも滑稽な姿だった。
もはやイヴリースに抵抗する気力は残っていなかった。ただ震えながら足を開き、魔獣がペニスを入れやすいよう待つしかない。腕で隠した顔からは、隠し切れない涙が湖となって広がっていく。
「うっ、うっ、うぅ…うぐ、ぐ…くるし、いだい…は、はぅ、うっぐ…いだい、いだいよぉ…!」
徐々にペニスが膣を押し広げ、魔獣が腰を振るごとに亀頭と思わしき部分が押し込まれていく。強烈な圧迫感は息苦しさを感じさせ、処女の狭さが強引にねじ伏せられて…イヴリースにできることはもはや早く終わることを祈るしかない。
そして、やがて処女の証となる膜にペニスがたどり着く。だが魔獣の滑稽な腰振りではなかなか破れないのか…ここまで従順なメスだったイヴリースの抵抗に、魔獣は苛立ち交じりに吠え、再び背中を叩き始める。
「うぁ、あぐっ…ごめんなさい、ごめんなさい、処女でごめんなさい!」
だが、イヴリースにもどうしようもないことだ。謝りながら頭を抱えて震える彼女にしびれを切らし、魔獣はペニスを引き抜いた。
許してもらえるのだろうか。そう考えたイヴリースは顔を上げ、目の前で怒りに満ちている魔獣に悲鳴を上げた。
「ひぃいっ! あ、ああ…あぅ、あぅあ…」
言葉すら失ったかのようなイヴリースに魔獣は転がっていた剣の柄を咥えて放り投げる。一瞬意味が解らなかったイヴリースだが、短く吠える魔獣の意図に気付き。
乾いた笑いを浮かべた。
「あ、は……あはは、なに、これで処女膜を破れって? なにそれ」
それほどまでに弱い魔獣なのだ。ただの犬に繁殖力というおまけがついただけ。そんなどうしようもない魔獣にイヴリースはいいように扱われ、そして。
泣き笑い、涙を流しながらイヴリースは膣に剣の柄をあてがっていく。そもそもリースはこのような経験は一度もなく、イヴだって物を入れたことはない。ただ魔獣のために、処女膜を代わりに破るための行為。気持ち良さなんて僅かにもない。
ずぶずぶと沈んでいく冷たい感触。固く、異物感に吐きそうになる。
「うぐ、ぅあ…ここ、ここに膜があるんだ…あは、あはは…痛っ! あぁ…」
ぐじゅ、と押し込み、激痛に涙がこぼれていく。肉体が痛いのか心が痛いのか分からなかったが、イヴリースは力なく柄を抜き、放り投げた。処女を捧げた相手に対するにはあまりにも雑なものだった。
力なくお尻だけを上げ、交尾を待つメスに魔獣は再びペニスを突き入れた。もはやメスの方は死んだ魚のような目で反応すら見せないが、知ったことではない。膜が無くなったおかげか、満足げにカクカクと腰を振りながら奥へ奥へ、強引に広げながら突き進み。
やがて子宮の入り口に達し――そして、異常が始まる。
「…? なに、中で、ぃぎ、いあああああああああああ!!」
穢れを知らない場所。生命の神秘が宿る場所。その入り口に到達したペニスの先端は突如脈動を始めた。脈打つたびに膨らみ、一回り、もう一回り、徐々に徐々に大きく大きく膨らんでいく。
処女だった固い膣にはあまりにも残酷な仕打ちだ。否、処女でなくとも拷問であることに変わりない。
だが、見ていたはずなのだ。握りこぶし大にまで膨らんだペニスの先端が中で出現すれば、必然ですらあった。それを思い出すことすらできなかっただけ。
そこまで膨らんでしまっては、ピストンなどできはしない。足をばたつかせる魔獣と、目を見開いて喉が切れそうな絶叫を繰り返すイヴリースにとって、あまりにももどかしい時間。不自然な位置がぼこりと膨らみ、イブリースの膣中で脈動を繰り返し。
やがて唐突に吐精が始まった。イヴリースにとっては極悪な激痛と苦しみでそれを認識することもできなかったが、魔獣は舌を出して恍惚したように愛らしい鳴き声を上げている。
どれだけの時間がたったのか――イヴリースには永遠のような拷問の末、ようやく魔獣がペニスを引いた頃にはもう、彼女は抜け殻のようだった。相も変わらずお尻は突き上げた姿勢で無惨に広がった膣からは獣臭い精汁がぼたぼたと垂れ落ちている。子宮まで見えてしまいそうに広がりきり、魔獣は満足したのか離れていった。
「…………………終わっ、た……あは、はは………」
静寂の中、ただ中身のない笑い声が響く。惨たらしくも魔獣に蹂躙された美少女は、そのまま涙を流し続けた。
しかし。
魔獣の繁殖力は『魔獣』なのだと彼女は知らない。犬ではないのだ。それは生き物であれば、メスであればどんな生き物でも自らの子孫を増やす苗床とする繁殖力。それゆえにあの生き物が魔獣なのだと、彼女は知らない。
そして、ひ弱な魔獣が今まで数も減らさず生きて来た理由も。
「あ……? なに、お腹、膨らんで……」
とくん。
とくん、と脈動が聞こえる。ゆっくりと、だが確実に脈を打ち、その度にお腹が僅かに膨らんでいく。
イヴリースはまるで無垢な少女のように不思議そうにお腹を撫でた。仰向けのままぼんやりと、ただ膨らんでいくお腹を撫で続け。
思考がその答えに至り、勢いよく上半身を跳ね上げた時にはもう、どくん、どくんと、一人では立てないほどの妊婦と化していた。
「は? は、はは、嘘でしょ? だって、あんなのの子供なんて、ぅぐぅうう!? いた、いたい、いだいぃ…!」
孕んだ子供が脈動する。暴れるように腹を蹴り、もがきながら子宮から出ようと前脚を子宮の外に突き出していく。産道へ、産道へ。這い出ていくのだ。
「うぎゃああああああっ!! あが、か、は…うま、うまれ、産まれりゅ…まっで、まだ、そんな、あああああああああああ!!!」
ずるずると自分から這い出ていく魔獣は小さなものだ。所詮イヴリースの子宮だから、大きなサイズには生まれない。生まれたてのバンビのようにぎこちなく足をばたつかせ、必死に立とうとする姿は生命の神秘であり、美しいものに見えたかもしれない。
彼は、イヴリースの息子は、生まれてすぐに鳴いた。立派な遠吠えを残し、外へと駆けていく。自身の子を産むメスを見つけられるだろうか。それともその前に死んでしまうかもしれない。
やがて遠くなっていく遠吠えを聞きながら――イヴリースは目を閉じた。涙も枯れた。
「もう…いい。もうどうでも…いい。世界なんてどうでもいい…」
絶望に包まれ、ようやくイヴリースは希望を見出す。魔獣に犯されたことも、子供を孕んだことも、全て死んでしまえばいいのだ。イヴのように死んで楽になればいいのだ。
幸いこの体は人間がベースで、舌を噛めば勝手に死んでくれる。痛みはあるが、犯された痛みに比べれば大したものではない。
「あは…ごめん、ね…イヴ、アヴラム…」
最後の最後に改心したことは、誰かにとって救いだったのだろうか。
空へと手を伸ばし、小さく微笑んだイヴリースは、やがて息を引き取った。
結界が輝く。結界はイヴリースの生命力を固定するためのもの。イヴリースを消し去るほどの力を出せなかったイヴが残した最後のあがき。そこにいる限りイヴリースの出力は最弱で固定され、同時に無くなることはない。
ゆっくりと目を開いたイヴリースの体は修復されていた。力は相変わらずひ弱な魔獣以下だが、処女の美しい体を取り戻したらしい。
「生き返った、か…イヴ、あんたは本当に」
小さく笑い、イヴリースは周囲を見渡した。
一帯を埋め尽くすほどの魔獣が唸り声を上げている。そのどれもがペニスを大きく膨らませ、今にも襲わんとばかりに浮足立っている。
その中には、体の小さな個体もいる。可愛らしい鳴き声は、何処かで聞いたものだ。
獣臭などもはや臭いもしない。その臭いの中心に彼女はいる。
「あんたに頼らなければよかった」
綺麗な笑みを浮かべ、押し付けられるペニスに手を添えた。メスは彼女一人だけなのだから。