芸術家の卵の六者面談

 芸術家の卵の六者面談

 

 いつものように、マエストロ先生とある展覧会のための作品を仕上げていた時のことです。

 「……失礼します。お二方、少々よろしいでしょうか?」

 「あ!黒服さん、こんにちは!どうかされましたか?」

 「先生より伝言です。シャーレにて六者面談を行いたいと」

 「……六?三じゃなくてか?」

 「ええ、確かに六と言っていましたよ?明後日の14:00らしいですが、大丈夫でしょうか?」

 「……ヒルデガルト。間に合いそうか?」

 「はい!もう仕上げる所なので!マエストロ先生は?」

 「無論、問題はない。明後日だったらこの作品は間に合う」

 「なら、大丈夫ですね。忘れずにお願いしますよ?クックック……では、また」

 「……しかし、六名か……私含め五名なら分かるが……後一名が分からん。誰だろうな?」

 「……分かりません……でも、今は目の前のことを終わらせましょう!」

 「……それもそうだな」

 そうして、お互いに仕上げ、約束の時間になりました!さぁ、シャーレに行きましょう!

 「……ヒルデガルト。お前から先に入れ。こういう時の礼儀は学んだな?」

 「はい!大丈夫です!」

 ピンポーン

 『“はい、どなた?”』

 「917号です!面談をしに来ました!」

 『“お!来たね。入って良いよ”』

 「失礼します!」

 そうして中に入ると……

 「……ああ、成る程。そうであったか。確かに六名だな」

 「初めまして!私がオリジナルの天童アリスです!」

 「……初めまして……シャーレにて先生のお世話になっている1号です」

 「初めまして、こんにちは。私が2号です。増産された私達の問題を率先して解決しています。よろしくお願いしますね」

 「皆さん、初めまして!私が917号、もとい芸術家の『ヒルデガルト』です!よろしくお願いします!」

 “あれ?そのペレー帽は?”

 「私なりの個性です!」

 「……先生、少しばかりこちらへ」

 “?”

 〈……どういう事だ?オリジナルの天童アリス、そして、2号は分かる。何故1号に?〉

 〈“いや、一緒に住んでるから、つい口を滑らせちゃって。それで、話してみたいっていうから”〉

 〈……まぁ、影響はさほどないだろう。すまなかった。戻るか〉

 〈“OK、了解”〉

 「……すまない。私用で先生を借りてしまった。……それで、面談というからには議題があるのだろう?何だろうか?」

 「はい、917号機の保護をされた経緯、及び今後の相談です。早速入るとしましょう。まず、917号機。貴方の経歴を」

 「分かりました。まず、私は野良アリスの1人でした。しかし、マエストロ先生が私の事を拾ってくれました。その後、芸術について談義し、いつしか私独自の芸術性が芽生えました。そうして、今は芸術家の『ヒルデガルト』として活動しています」

 「成る程、分かりました。次に保護者の方、お願い出来ますか?」

 「……最初は複製と変わらないと思っていた。しかし、ふとある疑問が浮かんだ。『そのAIと芸術を談義出来るか』ということだった。つまり、私は疑問解決の糸口として彼女を保護したのだ。……だが、今は違う。談義した結果、芸術の良き理解者と成り、『感性』を持って芸術活動をするこの子が大事だと思えた」

 「……成る程、分かりました」

 「すいません!アリスから質問しても良いでしょうか!何故、『ヒルデガルト』という名前になったんですか?」

 「……私からそれは話そう。彼女のナンバー〈917〉はある者の記念日だ。私が敬愛する博士の1人。……『ヒルデガルト・フォン・ビンゲン』。……この世界で言う歌住サクラコのような立ち場の人だ。……ただ、この方は外の世界の人物。あまり覚えなくて良い」

 「そうなんですね!分かりました!」

 「……あの……917号に質問というか、リクエストというか……良いですか?」

 「はい!何でしょうか!」

 「……私の絵を描いてくれますか?」

 「分かりました!マエストロ先生!」

 スッ)スケッチブックと鉛筆

 しばらくして……

 「……出来ました!どうでしょうか?」

 「……ッ……」

 「……あれ?どうかされました?まさか、私失敗しt」

 「……違うんです、私はオリジナルとほぼ姿が変わらないと思っていました。……試しにオリジナルと2号を描いてくれますか?」

 「……私は別に構いませんが」

 「アリスも大丈夫です!むしろ描いてください!」

 「分かりました!少々お待ち下さい!」

 また、しばらくして……

 「……良し!如何ですか?」

 「……これは……スゴイ……」

 「おおっ!アリスそっくりです!」

 「……やっぱり。貴方は観察眼がスゴイです。私達の個性を描く事が出来てる。3枚、三者三様。それが可能なんですから……」

 「……?1号。貴方にも個性はありますよ?姿は同じに見えても私は見抜きました。他と違う点を」

 「……本当にありがとうございます。貴方は素晴らしいです」

 「そう言って頂きありがとうございます。芸術家名利につきます!」

 “最後に私から。今後の予定を聞かせてくれないかな?”

 「みんなに活力……元気を与える芸術家になりたい。そのための芸術活動を続けていきます!」

 “成る程、応援してるよ!所で、次の展覧会はいつ?”

 「……年末のとある祭典だ。そこでは、芸術家達が、たくさん集まり、来てくれたお客をもてなす。そういった長い歴史を持つ、夏と冬の一年2回の祭典」

 “え……それって、まさか……?”

 「はい!キヴォトス最大の芸術祭、『コミックマーケット』です!」

 “……おお……分かりたくはなかったけど、やっぱり……2人は何を?”

 「『聖徒の交わり』……及び複製とは無関係の立体作品だ」

 「私は絵画です。似顔絵もやろうかなと考えています!」

 “……そっか……ごめん、僕の事、描いてくれないかな?”

 「良いですよ!」

 またまたしばらくして……

 「……出来ました!どうでしょうか?」

 「……ありがとう、とても良い。ショックも少なかったよ」

 「……?よく分かりませんが、喜んで頂ければ嬉しいです!」

 「……本日の面談はここまでです。917号、貴方を正式に『ヒルデガルト』の名で芸術活動を、姿を隠して行う事を、こちらで許可します。引き続き励みなさい」

 「ありがとうございます!」

 「ん?ちょっと待て。先生、どういう事だ?2人にちゃんと話したのか?」

 “いや、アリスは認めたんだけど、2号が実際に会って決めるって言うから、この場を設けたんだ”

 「……まぁ、過ぎた事だ。許す」

 「今日はありがとうございました!アリス、貴方に会えてとても嬉しかったです!……出来たらですが、時々ミレニアムのゲーム開発部へ遊びに来てくれませんか?貴方の絵は素晴らしいので、イラスト担当の負担が減ります!」

 「……どうしましょうか?」

 「……最後、欲望が漏れてたが、許可はする。こういった芸術も良いものだと思うからな」

 「……確かにそうかもしれません。分かりました!時々手伝います!」

 「……今日は来てくれてありがとうございました。おかげで少し自分が好きになりました」

 「自分に自信を持つことは良いことです。私は自分の芸術性に誇りを持っていますから!」

 「……この絵は大事に取っておきます。自分を励ますために」

 「「私(アリス)も大事に保管します。(!)」」

 “私も飾ろうかな……今日はありがとう。また、遊びにおいで”

 「本当ですか!ありがとうございます!また、何処かで!」

 「……さらばだ。また会おう」

 〜帰り道にて~

 「今日は楽しかったです!芸術家として、レベルアップした気分です!」

 「……ならば良い。さて、帰って、夕飯とするか」

 「私、オムライスが良いです!」

 「……良いぞ」

 「やったー!ありがとうございます!」

 今日は楽しかった。これを機に芸術をもっと磨こうと思ったのでした。

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