「花盗人は風流のうち?」

「花盗人は風流のうち?」


俺ぁ、ぶっちゃけて言うと『父親』のことが嫌いだった。

たいした貯金もないくせに浮気三昧でよくマンマを泣かせるし、たいして強くも無いくせに酒も浴びるように飲むしで。

兄貴たちのことも嫌いだ。

俺のことをスケープゴートにしてたから。

自分より下のものがいるからって安心してる感じ?哀れむ感じ?アレが嫌い。

普通に接してくれればいいのに。

それでいうならマンマも嫌いだ。

明らかに兄たちとは扱いに格差があるし、俺のことを見るたびに憂鬱そうな顔をするし。

でも1番嫌いなのはアレだ。

月に3回くらいか、うん。その頃の俺の地獄は確実にそれだ。

夜になって、マンマと兄たちと一緒に雑魚寝してる時にノックの音が聞こえたら、そうなったら、俺が『父親』の1人部屋のところに行かなくちゃいけなくて。

でもまあ、まだマンマや兄が起きてる時に、ノックが聞こえたらしてくれた震えたハグは好きだった。

「頑張れ」なんて言われたら頑張ろうって思えて、単純だろ?俺。

その時は隠そうとしてたし、バレないようにしろって言われてたけど。多分普通にバレてたと思う。

週に1度はクソ親父のところに行っては生傷作って帰ってきて、風呂も1人で入るようになって、性欲のつよ〜い父親の機嫌がよくなって。

ぶっちゃけ普通に察してたと思う。

まあ健気な俺は「だぁ〜、パパとの勉強頑張るよ」なんて言って純にも誤魔化そうとしてたワケだが。

俺、学校なんて通ったことなかったし。

私生児だったし。

デケェリュック背負ってバス乗って、夕方まで遊んで、そんな当たり前なことがそん頃の俺の夢だったなぁ。なーんて。

手短に物音立てないようにドアまで向かうと、酒で赤らんだ頬でニヤけてる『父親』が立ってて。

「ロロ。来なさい。」って酒臭い息撒き散らしながら言って強く腕を引っ張ってきて。

ああ憂鬱だなぁって思いながら、マンマの好きだった映画の主題歌の歌詞を思い起こす。

「着いたぞ。入れ。」

ツバメ達は去って行った

「……だぁ〜、ねえパパ、痛くしないで?」

この日の当たらない土地を

「チッ、入れっつってんだろ!鍵開けて出て行ったら殺すからな?」

スミレの咲く春と

「あのアバズレ女に似て陰気な気色悪りぃ顔しやがって」

愛と幸せの巣を探しに

「だからガキなんて嫌いなんだよ。

養ってやってんだから俺の役に立て。

おら、しゃぶれよ。歯ぁ立てたら殺すからな。」

なーんてね。

「パパ、命令OK♡」

咥える。しゃぶる。ねぶる。

この前、アイス食った時になにその食べ方って聞かれて焦ったなぁ。

そういえば今抜けそうな歯があったな。今抜けたらやだなぁ。

ちろちろノロノロと舐めてるように思われたようで、いや酒飲みすぎて勃たないだけだろと思うけど。

イライラしたような乱暴に首をとっ捕まえられて、首を絞められて。 

からだがきもちわるくて。

あたまがふわふわして。

こころがキュってなって。

ヒョロくて華奢な俺の首なんて片手で掴めるからって鼻をつままれたりして。

だいたいそういうルーティーン。

だいたいそういう『父親』で。

喉奥に熱くてネバネバしたものを出されたらやっと解放されて。

ゲホゲホとタオルに吐き出す。

それで終わり。そのあとは一緒に寝るだけ。

でもその日はいつもと違ってて。

タオルに吐き出したら乳歯が1本抜けてて、それを見たら理不尽に俺のせいかよって怒られて、来いって言われて、

それで、それで、あとは単純なSEX。

まあその時の俺は精通すらしてなかったヴァージンだったけど。

前も後ろも大貫通。なんちて。

「頭はゆりぃのによく締まるな」だの

「見ろよ腹がボコってなってんじゃん。

はは、ヒョロいのに腹だけ出てて気持ちわりぃな」だの

「覚えろ。これがSEXだ。今度からはこれをしろ。お前は父親も分からないガキで俺は一家の大黒柱。分かったか?」だの

「気持ち悪い声出すんじゃねえよ。まあ首絞めたらココも締まるけど(笑)」だの

そういう死ぬほどつまんねえこと言われて、あとはまあ普通に首絞められて気絶したと思う。

それか多分、思い出したくなくて忘れてるだけ。

あと、あえて付け加えるなら“今度”は無かったよ。

行為がマンマにバレたあと俺捨てられたし。

でも、でも、嫌いなんて言ったけど。言っちゃったけど、この地獄を耐え抜いたあとの朝は好きだった。

朝目が覚めたら、全部全部片付けられてて。それこそ夢かと思ってしまうほどに。

でもいつもに比べて腰が痛くて尻が痛くて頭が痛くて痛くないところがなくて。

目が覚めたことに気づかれたら

「……おはよう」

って控えめに頭を撫でられて。嬉しくて。

「ごめん、ごめん……」

って抱きしめられて。嬉しくて。

「愛してる。愛してるんだロロ。もう酒は本当にやめる。

すまない。本当にすまない。」

って愛をくれて。嬉しくて。

どうせ嘘だよデタラメOK?って俺と

『ふつうのおとうさん』なんだから優しいところもある。ちょっと心が弱いだけなんだ。って思う俺が居るとするならば。

愛が欲しくて、愛の実感が欲しくて、愛されたくて。

信じたいからそう思ってて。

そう思ってるから信じてて。

だからその時の弱くて愚かで情けなくて馬鹿で阿呆なドン・ロレンツォは『愛』を

この“愚かで生産性のない行為”だと定義した。それだけ。

でもまあ、ギュッと抱きしめられて、こぼれ落ちそうな俺のカケラをガラス瓶に詰めてくれるみたいに、優しく大きく強く包み込んでくれるハグだけは、このハグだけは本当にホントにほんとうに好きだった。

つまんないだろ。旧NEW俺の誕生秘話。

それだけだよ、OK?

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