二初 花屋と配達員 序盤

二初 花屋と配達員 序盤


鉛丹色の短めの髪を持つ青年は、今日も花屋を訪れる。

彼はいつも○○町を担当する配達員。フラワーショップShigarakiというお店も管轄内のため、いつもよく訪れていた。

そこの店主は高身長で優しげな、しかしいつも大切な何かを失っている気にさせるような雰囲気を纏った男だった。彼は何気なく訪れた客をリピーターにさせるような好青年で、無論配達員である俺にも優しい。時々冷たい目付きが垣間見える気がするが、きっと雰囲気で勝手に思い込んでしまっているだけなのだろう。

勝手に苦手に思ってしまい申し訳無いと思いながら青年は今日もあの花屋を訪れた。けれど今日は店主はいなかった。

「こんにちは、配達員くん」

代わりにいたのは、いつもの彼とはまるで違う男だった。がたいのいい店長とは違い小柄で、短髪でスッキリした髪型ではなく少々長めの髪型と見目姿は真逆と言っていいが、鼻筋の通った顔立ちはよく見れば似ているような気もした。容姿は違う所の方が多いのに、何故か似ていると感じさせる佇まいだった。

「はじめましてだね。僕は与一。今日は兄さんの代わりを勤めているんだ」

与一はにこやかに挨拶した。これもまた店主と似ているなと感じさせるものだったが、冷たさは無かった。それどことか暖かさを感じる。青年は彼の笑顔に引き込まれた。

一瞬見惚れてしまったがすぐに我を取り戻し、青年も挨拶を返した。

配達員として働き始め、この花屋を担当するようになってから1年以上は経つ。それなのに青年は、今まで店主の弟に一度も会った事がないばかりか、存在すら知らなかった。不思議に思っていると、顔に出ていたのか与一が説明してくれた。

「僕は体が弱くてね。いつもは室内にいる事が多いんだ。兄さんも過保護だから、必要以上に僕を外に出したがらないし、僕の話も他人にしないんだ」

なるほど合点がいった。けれどそんな過保護な男が店番を弟に任せるのだろうかという新たな疑問が浮かんだ。それも見越してか、続けて説明してくれた。

「最近は調子もいいし、色んな人と交流する仕事をしてみたいからと無理に頼んだんだ。兄さんは渋っていたけれど、ついに折れてくれてね。店番だけだけどね、花屋は案外重労働だから」

兄である店主が気を使ったのか椅子が用意されていて、与一は座りながら接客をしているようだった。

「こんにちは、配達員くん」

そうこうしているうちに、バックヤードから店主が出てきた。配達予定の商品を持ってきたようだ。

「弟と親しくしてくれているみたいだね。嬉しいよ。弟は今まで家でもできる仕事ばかりだったからね、至らぬ点も多いと思うが、これらかもよろしく頼むよ」

そう言って店主は挨拶をしてきた。弟の与一と同じような笑み。やはり雰囲気が似ているが、与一には無い冷たさがある気がしてならない。

青年はとりあえず商品を受け取り、今日は店を後にした。

去り際に手を振ってくれる与一から、青年は何故か目を離す事ができなかった。

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