花を溢す
少し他意が(無意識だけど)芽生え始めたドラゴンさん
※革命軍の立地構造は捏造
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「良い香りね、素敵な方とご一緒だったかしら?」
にこやかな表情と共にニコ・ロビンからの指摘を受けた時には珍しく面食らったのであった。偵察報告の後で気が緩んでいたのか、応えあぐねての約5秒程の沈黙。自分からの反応がないことから更に聞き及んでも良いのでは?と判断したらしい。 その場にいた面々より
「ついにそういう人が」 「1人2人いてもおかしくないと常々思ってました」 「お疲れだったんですね」 「俺も抱いて下さい」 「何があったんですか」と次々と問われた時に自分の頭上に『?』が追加で浮かんだのは言うまでもない。(いや、一部何か変な事を言われたなとは思ったが) どう答えたものかと、視線を今しがた入室した次席に向けると戸惑いを混ぜた苦笑と共に首を横に振るばかりで、自分としては小首を傾げる他なかった。
疑問が解消するのは思ったより早かった。今日中に出来る事を片付け、残るは休むのみと自室に戻る際に、途中までご一緒しても?と後をついてきたサボと共に自室への外階段を下るその途中。 向かい風を受け髪が舞った時だった。
ふふっと懐かしい子どもの声が風と共に背中越しに聞こえた気がして、振り返った。 尤も、そこにいたのは小さな子どもではなく自分の目線に近いところで淡い銀杏色の髪を潮風に揺らして困った様な表情と共に眉を下げて笑う姿の彼だった。
「ふっはは…!ドっ、ドラゴンさん! 頭のとこ花まみれになってます!」
何も言わない自分の表情を疑問が浮かんでいると見て取れたのか、髪についてたみたいですと笑いながら手渡されたのは自分の小指の爪程の大きさもない橙色の小さな花達だった。成程、確かに透き通った様な柔らかな甘い香りが掌から漂ってくる。 今思えば偵察中に潜んだ場所からも同じ様な香りが漂っていた事に気づく。
「皆がドラゴンさんが女性とその…そういう人と一緒にいたんじゃないか~って、 ちょっと驚いていたんですよ」
「任務中に同衾して堂々とここに帰ってくる様な趣味はないが」
「…ないですよねぇ、香水みたいな良い匂いがするから俺も驚きましたよ」
疑問が解消されたのは良い。 ただ、自分としてはそう見られたのがやや不服ではある。誰がそういうものに現を抜かす暇があると思っているのか、と少し表情に滲ませるも彼は小刻みに笑っていた。
「す、すみません、そんな顔しなくても!ちょっと払いますので少し頭をこちらに少し倒してもらえますか?」
(花にまみれた自分はそんなに笑えるものなのか?)とは思ったが楽しさが滲む彼の声を聴いているのは悪いものではなく断る理由もなかった。 あー良かった、ほんと良かったと安堵が混ざる彼の声を頭上から受けながら、されるがままに花を払ってもらう。 何が『良かった』のか?、また湧いた疑問は柔らかな花の香りと共に潮風に混ざりながら流れていった。
また明日と自室前で別れ、彼の足音が離れたのを遠くに聞きながら掌の花達を今更ながらに見つめた。 精悍さや頼もしさを感じる表情を見せるようになったと思ったが、あの崩れた様な表情と髪を揺らして声をあげて笑った彼を見たのはいつ以来だったか。星の形にも見える花達を掌の中で転がす。
──あの時、この小さな花よりも、ずっと傍で見守ってきた青年の困った様な笑顔と安堵が混ざった笑い声を、親愛とは違う色と温度を伴って愛らしいと想ってしまったなど自分は少し疲れているのかもしれない。昔から思慮深く人を見ている子だ、愛らしいと想っていると伝わってしまえば必要以上に困惑するのが想像出来る。
自分の表情から疑問を浮かべた顔をしていると彼が判断したなら何より。
だが、と。
自分の目が届くところで、出来れば自分にその笑顔をまた向けてもらいたいと望んでしまうとは自分も欲深くなってしまったものだと思う。
払い落とすには惜しい小さな花達を卓上にそっと溢し、緩んでしまう自分の口元を僅かに残った花の香りと共に掌で覆った。
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『何か思うところがある様子だけれど、彼を部屋まで送ってみては?』
『折角だから行ってきなよ、ロビンさんもこう言ってくれてるし!』
言葉に背中を押されて帰ってきた今、正直彼女達には頭が上がらない。
『私は素敵な方とは言ったけれど、 【女性】とは言ってないでしょう?』
『何事も確認だったでしょ!』
今日の結果をきっと待ちわびている2人に報告すればきっと満足げな表情と共にこの言葉を返されるのが予想出来た。
してやられたよ、と花に溢しながら俺は小さな花達を指先でつついた。