花びら心中
16:55※ifローがifミンゴと心中する話
※死ネタ
※CPの意図はありませんがキス描写があります
ドフラミンゴの心臓を、鬼哭が貫いた。
ふたりきりの決戦の舞台。
ローはドフラミンゴの胸に飛び込み、抱き着いた状態から背中を刺した。渾身の力を込めた切っ先は、ローの心臓をも共に突き刺している。
ごぽ、と。ドフラミンゴが血の塊を吐き出した。
「……情熱的だなァ、ロー」
「…………」
「おれと心中でもするつもりか?」
この程度でと嗤う声に、ローは返事をしなかった。ドフラミンゴの傷からローの傷へ、刀身を伝った血が流れ込む。黙ってサングラス越しの瞳を見上げた。
(……嘘、ついてごめんな。)
恐怖はない。後悔もしない。けれど、そこだけは申し訳ないと思った。
自分を逃してくれたドレーク。歪んだ遺品に加工されても、ずっとそばにいてくれた仲間たち。ヘルメスで飛んだ、異なる世界のあいつら。
みなローの生を取り戻そうとしてくれた。みなローが再び笑える日を願ってくれた。
ローはそれに微笑み返した。いずれ現れるドフラミンゴに連れ戻されても、必ずお前らを待つと約束した。
(許さなくていい。)
最後の笑顔すら覚えてなくていい。自分の意図を見抜いていたのかもしれない、あちらの自分にそう呼びかけた。
そうして、ころん、と。舌の上で遺灰のダイヤを転がして。
「……“お前の影響で出る音は全て消えるの術”だ」
ドフラミンゴに口付けた。
身を引かれるより早く、互いの舌を無理矢理合わせてダイヤを挟む。汚してゴメンなと謝り、シャンブルズ、と大きな口の中で唱えた。
「──────!!!!」
ダイヤが果実に入れ替わる。瞬間舌の上で広がったのは、腐ったようなあの味。ローたちがとっくの昔に口にしている、悪魔の実の味。
それはドフラミンゴとの決着に踏み込む前、ローがひとかけら崩しておいたナギナギの実だった。
鳥籠の中で迎えた、27歳の誕生日。ドフラミンゴが恭しく見せつけてきた、かつて大好きな人が食べた悪魔の実。クリスタルの鳥籠に入れられたその果実の前で、ローはコラソンの糸人形に焼印を押された。
あのとき焼き付けられた髑髏を消して、やっとナギナギの実を鳥籠から出して。そのあとやる行為がこれかと、優しいあの人は叫ぶのだろう。
けれど、ローの気持ちは随分すっきりとしていた。
大好きな人をそばに感じながら、ようやく終わらせることができるのだから。
右腕にできないなら、家族にできないなら、せめて憎しみをよこせと吠え続けた男。
その糸の先に、ローの何をも縛れなかった男。
哀れでばかな、ただの人間。
せいぜいお前も、そのしがらみごと爆ぜて自由になればいい。
まるで在りし日のシスターのように、ひどく敬虔な気持ちでローは笑った。
それは、ドフラミンゴがはじめて目にするローの笑顔だった。
そこに湧き上がる感情を、ドフラミンゴは言葉にできなかった。ロー、と。こぼれ落ちた声ですら、宣言通りローの口に飲み込まれ消えてしまう。その間に、ふたつめの悪魔の実が喉を滑った。
確かな言葉を、告げるより早く。
ふたりは花びらのようにはじけて消えた。
●2023/1/12 追記
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同じ小説を23-01-12 13:23:33にぷらいべったーで非公開投稿いたしました。
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