色々捏造注意

色々捏造注意

by 抱いてイスカリ(スレ主)


「-サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました」

感情を押し殺した声。かつてはカルデアの前に脅威として立ち塞がった、オセロトルの戦士達を率いて軍隊のように鍛え上げたリーダー、イスカリ。敵対関係にあった時のような、汎人類史に牙を剥く勢いの激しさはなく、いっそ不気味なほど静かなイスカリに、逆に不安になる。しかもあの時はテスカトリポカの部下というより、最早信者に近い感じだったのに、今は静かに膝をついて頭を垂れている。

「テスカトリポカ神も、ご壮健のようで何よりです」

と静かな忠誠と共に言うのみだ。「随分大人しくなったな、イスカリ。折角の再会だ、仲直りしたらどうだ?」

「…僕は、テスカトリポカ神に創造された身。であれば、そのマスターの指示に従うだけです。仲良くしてほしいというなら、そのように」

「ほう。少しオトナになったか?イスカリ。二度目の生…いや正確には三度目の生だからな」

テスカトリポカが茶化しつつ頭をわしゃりと撫でると、イスカリはちょっと嬉しそうにしていた。正直、意外だ。てっきり、こちらに敵意を向けてくると思っていたのに。

「マスター、イスカリは根は真面目な奴でな。オレの縁を辿って喚んだ以上、アンタに噛み付くことはないだろうさ。生まれて間もないことに変わりはないが、優秀な戦士だ。可愛がってやってくれ」テスカトリポカが、イスカリに視線を送る。対するイスカリは、テスカトリポカへ恭しく頭を下げ、そのままこちらに向き直った。

「よろしくお願いします」

感情の読み取れない淡々とした声。その、暗褐色に見える瞳の奥に押し込められているのは、憎しみなのか、それとももっと別の感情なのかは分からなかった。

その後、普段の訓練も兼ねて、イスカリを連れてシミュレーションへ向かった。沈黙が耐え難くて、「えっと。イスカリはさ、何か質問とかないの?カルデアのシステムとか難しいことは答えられないけど…その、なんでも聞いていいよ」と声をかけてみる。

するとイスカリは少し考え込んでから、「それなら、マスターについて教えて頂きたいです」と言った。

「マスター…おれについて?」

「はい。僕はまだあなたのことをよく知らないので」

「そうだね…。でも、特別な力とか何もないし。ただの普通の人間だよ」

そう告げると、イスカリは何故か驚いたように目を見開く。

「どうしたの?」

「……謙虚なことを仰るのですね。召喚にあたってテスカトリポカ神から頂いた知識の中には、あなたが成した偉業のこともありましたが」

「それは、皆が…協力してくれた人達がいたからだよ。あと、敬語なんていいよ」

「わかった」

それきりまたイスカリは黙る。けれどその沈黙に居心地の悪さは感じない。

イスカリは、あの異聞帯であった事をどう思っているのか…でも、お互いそれは踏み込まない方がいいな…と色々考えながら、シミュレーションルームの入り口へ踏み込むと、先導するイスカリが小さくため息をつく。

「考え事か?随分と余裕じゃないか。シミュレーションとはいえ、また隙を突かれたらどうするんだ」

と、今聞くとちょっと懐かしい、以前ミクトランで会ったときのような刺々しさが滲み出てきた。しかし、以前のような憎しみや敵意ではなく、まるで道理を知らない子どもを諭すような雰囲気が感じられる。…なんというか。

「…お父さんみたい」

こちらの言葉に動揺したのか、イスカリは突然立ち止まる。止まりきれずにイスカリの背中にぶつかりそうになるが、寸前に振り向いたイスカリのおかげで、体勢的には彼の胸にダイブするだけで済んだ。というか、むしろ、ちゃんと痛くないように抱きとめられたというか……。

「ご、ごめん!」

慌てて飛び退こうとするが、イスカリの腕がそれを許してくれない。そのまま強く抱きしめられ、身動きが取れなくなる。

「い、イスカリ?」

困惑するこちらに構わず、イスカリは無言で拘束を解こうとしない。突然のことにパニックになりそうだったが、状況把握を試みる。

(君は、まだ汎人類史のことを…カルデアのマスターを、憎んでいるの…?でも、それならどうして…)

ぐるぐる思考を巡らせていると、イスカリは、「…この程度の拘束も振りほどけない、か。僕がその気になれば、今この瞬間に、オマエは死んでいたぞ」と言った。

「ご、ごめん…」

「まったくだ。もっと危機感を持て」

そう言ってイスカリはやっと拘束を解いたかと思うと、今度はこちらの手を取って歩き出す。

…もしかして、手のかかる子ども扱いされてるのでは…?と考えながらシミュレーションルームから出たが、未だにイスカリとの間には気まずい空気が流れていた。やがて、イスカリが先に口を開く。

「マスター」

「は、はい!」反射的に返事をしたものの、さっきのことを怒っているのかな…とビクついてしまった。

「怯える必要はない。僕は別に怒っていないぞ」

「ご、ごめん……。でも、何か気に障るようなことしちゃったかなって」

「マスターのことを把握するのはサーヴァントとして当たり前のことだろう。まさかあんなに非力だとは思わなかったが」

と、イスカリの口元には、若干だがちょっと意地悪そうな笑みが浮かんでいた。

「むっ、それはそうだけど……」

…こういう気の置けない仲間とのやりとり、って感じが、なんかすごく嬉しい。にやけそうな口元を押さえていると、

「さっき気付いたが、オマエからは硝煙の匂いも、血の匂いもしなかった。むしろ、戦いを知る前のオセロトルの仔の匂いに似ていた」

イスカリの言葉に驚く。

「そ、それって、小さい子の匂いってこと?」

「まあ、そうなる。オマエは本当に、普通の子供だな。なら、オマエも僕の民に等しい。オマエも僕を王と-父と認めるのなら、僕もオマエを認め、守ってやってもいい」

「お、お父さん……」恥ずかしそうに、けれど嬉しそうにそう言われた途端、イスカリの中で抑圧していた父性が湧き上がる。

「ふふ、僕が父親か……悪くないな」

そう言って、驚くほど優しく笑うイスカリ。その笑顔は嬉しそうで、慈愛に満ちていて。離れ離れになって久しい、自分の父親と重ね合わせてしまう。

イスカリに、「今日はもう遅い。何かあれば駆けつけるから、眠ると良い」と言われベッドに寝かされ、毛布をかけられる。イスカリが部屋を出て行っても暫くの間、あまりの彼の手際の良さに、ぼーっとして動けなかった。


そして、イスカリと何日か一緒に過ごすうちに、いつの間にか寝る前には部屋で一緒に過ごすことがルーティンになったのだが…

「今日のシミュレーションはどうだった?」

「うん、今日も上手くいったよ」

「……そうか」

どこか上の空で返事をしてくるイスカリの様子に首を傾げる。イスカリはおもむろに口を開いた。

「マスターは最近、僕を父と言わなくなったな」

「え!?あ、そ、そうかも…」

まさか、イスカリと擬似親子でいる時間を心地よく思い始めている自分がいることに気付いて、流石に、これ以上甘えてはいけないと思ったから……なんて言えない。イスカリは少し不満そうに続ける。

「やはり、僕より経験豊富な彼らの方が頼りになるということか?」

「そ、そういう訳じゃ……」

慌てて否定する。

「サーヴァントと交友を深めるのもいい。だが、深く付き合う相手は選んだ方がいい。マスターであるオマエに何かあったらどうするつもりなんだ」

「イスカリ…」

真剣な瞳で見つめられると、なんだかドキドキしてしまう。最近のイスカリは、マスターにイタズラ、というかちょっと危険なちょっかいをかけてくるサーヴァントに、まるでよく懐いた猫かジャガーのように威嚇して遠ざけようとしてくれていた。

「僕には、他のサーヴァントには言えない弱音も吐いていい。子どもらしいところも、僕に見せていいんだ。…むしろ、人の良い鈍感なオマエにはこう言った方がいいか?僕は約束は守る。だから前に言った通り、僕の民となり、僕を父と認めろ。そうすれば、僕もオマエを認め、守ってやる。…それとも、守るだけでは物足りないのか。僕の子として愛してやろうか?」

興が乗っているのか、慈愛と意地悪の中間くらいの笑みを唇に浮かべながら、段々と流暢に、朗々と、語るように迫るイスカリの言葉に、胸の奥が、きゅっと苦しくなる。嬉しいのに、泣きたくなる感覚。今までずっと、『自分はマスターなんだからしっかりしないと』と自分を律してきたけれど…本当は誰かに甘えたかったのだろう。うんと特別扱いされて可愛がられることを、きっと自分の中の子どもの心は願っている。

「…うん。そうして欲しい…」

頷くと、イスカリはふっと表情を和らげて、嬉しそうに微笑む。それからそっと抱き寄せられて、優しく頭を撫でられた。

「いい子だ」と囁かれると、なんだか心地よいような恥ずかしいような不思議な感覚に襲われる。(こんな歳でお父さんみたいな存在に甘えるって、恥ずかしいかな…)と思いながらも、身体は自然と父親であるイスカリに委ねられ、その胸板に頰を寄せる。そのままぎゅっと抱きつくと、イスカリは何も言わず抱き寄せ、あやすように背中をぽんぽんと叩いてくれた。

「ふわ……」心地よさに思わず欠伸が出ると、「そろそろ寝るか」と言ってイスカリは額に軽くキスをしてくれた。そうして二人は同じ布団に入って眠りにつく。


そして、いつものように、今日の訓練やシミュレーションを終えて戻ってくると、お迎えのお父さんよろしくイスカリが待っていた。

「ただいま。イスカリ、今日はどうしたの?」

そう尋ねると、イスカリは照れくさいのか目を逸らしつつ、「いや…特に用事があったわけではないが…」と答えた。その様子が何だか可愛くて思わず笑い声をあげると、彼は少し不満げに眉根を寄せる。

「む…笑うことはないだろう」

「ごめんごめん、」と言いながらも、自分のために待っていてくれたことが嬉しくて、「やっぱりイスカリ、お父さんみたいだよね」と言えば、イスカリも皆の手前で抑えていたものの、父性が刺激されてか、満更でもなさそうな表情をしていた。

「…みたい、じゃなくて、父とは呼ばないのか?」

「それは…ちょっと恥ずかしいかも」

「そうか……」

少ししゅんとした様子を見せるイスカリ。だが、すぐに気を取り直してこちらの手を取ると、一緒に部屋まで戻り、強く抱きしめてくる。

「やはり、オマエが目の届くところにいないというのは、不安でたまらない」

「大丈夫だよ。おれ、そんな弱くないし。最近はイスカリが鍛えてくれてるから」

「分かっている。だが、僕は……」そこまで言って、イスカリは何か迷うように言葉を切った。そして少し間を置いてから再び口を開くと、「いや、いい。今日は疲れただろう、早めに眠ろう」と言って、うやむやにされるように寝かしつけられてしまった…。


翌日は、特異点になり得る可能性がある場所の調査や資源回収に向かう。もちろん今回、マスターの直接の護衛を任されたのは、イスカリだ。

今回の調査に向かう土地は、中南米に当たる場所であり、イスカリにとって相性の良い土地であった。イスカリは到着するなり、「戦力が要るな」と言って、突然、平然とした顔で、黒曜石を鋭く滑らかに削って作られたナイフを抜くと、流れるような動作で自らの胸に突き刺した。

「!!??ちょ、イスカリっ!?」

目の前の光景に驚くこちらをよそに、イスカリの胸に開いた傷口からは、まさしく太陽のように赤黒く輝き、脈打つ心臓が覗いていた。

「神よ、我が心臓(ヨロトル)を捧げます。始まりの太陽の元に集え、我がジャガーの戦士たちよ。『ナウイ・オセロトル』」

すると、周囲の物陰から、まるで擬態を解くように、じわり、と空間に滲み出るようにして、黒い煙と共に、オセロトル達が一斉に姿を現した。イスカリはオセロトル達を引き連れ、彼のマスターを完全に保護する態勢を整える。

「テスカトリポカ神の宝具には到底及ばないが、僕の宝具で召喚出来るのは、ひとりひとりが勇猛にして忠実な戦士たちだ。誇り高きオセロトルたちよ。僕“達”のマスターを、全力で守れ」

イスカリの言葉に、オセロトル達は力強く頷き、銃や拳を掲げる者もいた。そうしてイスカリとオセロトル達と共に、本格的な戦闘に取り掛かることとなった。かつて、ミクトランでこちらを壊滅させそうになったほどの、確実な戦法の判断力と敵への無慈悲さを持ったイスカリは、味方になったら力強いことこの上なかった。戦闘になれば、イスカリはオセロトル達を的確に指揮して戦わせる。そして自らも率先して戦うのだ。イスカリとオセロトル達は、森林や敵の死角になる場所を移動して奇襲を仕掛けつつ、敵に一切の反撃も抵抗も許さずに屠る。


イスカリはオセロトル達と共に戦場を駆け抜けながら、こちらを気遣って声をかける。

「大丈夫か?」

「うん、平気だよ」と答えると、イスカリは安堵した表情を見せる。

「僕のマスターの手は汚させない。命を奪い敵を殺し、その罪を背負うのは僕だ。オマエは今、僕が守るべき子なのだから」

そう言ってイスカリは微笑むと、再び敵の残党を狩るために戦場の指揮に戻る。やはりイスカリは、血生臭さも似合ってしまうが、そんな彼も大好きだ、と思う。

「イスカリ」「どうした?」と聞きながら、イスカリは頭を撫でてくれる。それが心地よくて、思わず目を細める。

「あのね…最近、気持ちがすごく楽になったんだ。イスカリのおかげだよ」と告げると、イスカリは少し照れ臭そうにしながら、「そうか…それなら僕も、もう迷いはない。僕はオマエの父親だから、当然のことをしたまでだ」と答える。そして彼は改めてマスターを抱き寄せた。

「そろそろ帰還するか…。オマエを守れて良かった。自己満足だがな」と呟くイスカリに、自ら頬に口づけをして、「ありがとう、イスカリ。へへ…お父さん」と言って笑った。

お父さん、という呼びかけに、イスカリは、少し、いつもとはまた違った表情を見せた。穏やかな、まるでもっと長年生きてきたような、父親と呼ぶには、威厳が感じられるというか。イスカリであって、イスカリでないような顔に、少したじろぐ。

「えっ…その、イスカリ?」と戸惑うのをよそに、イスカリは穏やかな面持ちでこちらの顔を覗き込む。

「望むなら、赤ん坊のようにずっと、私の腕の中で眠っていてもいいのだぞ。」

「そ、それは…流石に恥ずかしいっていうか……そ、それにまだ色々と、しなきゃいけないこともあるし」と言うと、イスカリ(?)は目を細めて微笑む。

「ああ、まだ早かったか…残念だ。ではまた、次の機会に」と、普段のイスカリらしからぬ、昏く妄執めいた微笑みとともに言われたので、背筋が一瞬冷えた…しかし、イスカリは額の傷が痛んだのか、苦しそうに顔を歪めると、いつものイスカリらしい表情に戻り、「…今、僕じゃない僕と、話したか?」と訊いてきた。

「え?」

「分からないならいい。今起きたことは忘れろ。時々、今の僕自身が持たない筈の記憶や感情が浮かんでくることがある。そのせいだろう」

と、妙に気になることを言う。

「それ、どういうこと?」

「忘れろと言っただろう。いいか、僕はイスカリだ。そしてオマエの父親は、僕だ」

痛いくらいに抱きしめられて、イスカリが見せてくれるその独占欲に、こちらも嬉しくなってしまう。

「ふふ、どうしたの、珍しいね。やきもち?独占欲?」

「……」イスカリは、うるさい、とか、黙れ、とは言わなかった。代わりに、互いの鼓動が伝わるほどきつく抱きしめてくれた。

なんだか、その抱きしめ方は普段のイスカリとは少し違う気がしたけれど、嬉しかったので気にならなかった。

「-」

耳元で呟かれた、ほぼ吐息だけの囁きは、上手く聞き取れないくらいの声量で、しかも、聞き覚えのない言葉、あるいは言語だった。聞き返そうとするが、妙な眠気に襲われて、そのまま、イスカリの腕の中で眠ってしまう-。

眠りに落ちる瞬間、なにか重要なことを見落としているような感覚があったが、心地よさに逆らえず、そのまま世界が暗転した。


続く…?(かもしれない)

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