自由と夢を愛した夫婦は鳥籠に籠る

自由と夢を愛した夫婦は鳥籠に籠る



インペルダウンLEVEL6。

それは世の中に存在を知られてはいけないほどの大物が収容されるフロア。

そこに新入り2名が追加された。



「ごめんなさい…ごめんなさい…」

「良いんだ!気にするな」



能力者の力を封じる海楼石製の手錠をされて俯きながら歩く女とそれを励ます男。

彼らは世界政府直下治安維持組織、海軍本部に所属していた准将と大佐であった。

“海軍の歌姫”、“プリンセスウタ”という異名を持ち海賊すら魅了させたウタ。

“海軍の英雄の孫”、“麦わらのルフィ”という異名をもつルフィ。

そんな彼らは、世界政府が所有する海底監獄インペルダウンの最下層に収容される事となった。



「私が…」

「何言ってんだ、ウタのせいじゃねぇよ!天竜人って奴が悪いんだ」



寄り道したり行く先でライブをやって楽しんでいた彼らは弱者を蹂躙する大物海賊や犯罪者をインペルダウン送りにした。

ところが、天竜人と呼ばわれる甘ったれたご子息にウタの美貌と歌を目をつけられたのが終わりの始まりだった。

無理やりウタを娶って聖地マリージョアに連れて行こうとするチャルロス聖をルフィが殴ってしまった。

幼馴染と一緒にいる為に“海賊王になる夢”や“夢の果て”を諦めてた男は、その暴挙を許すわけが無かった。



「私語は慎め。もうじき着くぞ」



ハンニャバル副署長も彼らが犯罪者になった経緯を聴いて同情したものだ。

ウタのファンでもあるのでその影響があったのかも知れない。

だが、彼は珍しく私情を堪えて護衛を伴って2人を牢屋に案内していた。



「着いたぞ。ここがお前たちが過ごす牢屋だ」



ルフィとウタは副署長の言葉を聴いて牢屋を見た。

ここが2人が歩んできた人生の終着地点。

自由が奪われた2羽の鳥が収容される鳥籠だった。

だが不思議と悪くない気がした。



「行こう」

「ああ!」



手錠を付けられた2人は防音がされた牢屋に入って看守たちと向き合った。

ここには監視する為に映像電伝虫がおり、プライバシーなど無いに等しかった。

だが、彼らはそれで良いと思っている。



「すまない。せめてここでゆっくりと過ごしてほしい」

「ありがとうな!」

「ごめんなさい」

「“プリンセスウタ”!我々一同は必ず貴女とその騎士を守ってみせます。だから元気を出してください」

「ありがとう。みんな私の為に考えてくれて…」



彼らはインペルダウンに収容される囚人と扱いが違った。

まず殺菌や消毒を兼ねて100度のお湯、通称“地獄のぬるま湯”に漬けられるのだが、彼らはパスしていた。

それどころか看守や獄卒に同情されており、歌姫だった5億ベリーの賞金首の女囚人にサインを求める者が後を絶たなかった。



「これが世界政府が最大限譲歩した結果だ!せめてここで一緒に過ごしてくれ」



この牢屋は彼ら専用に作られた牢屋であり、明らかに生活できる空間になっていた。

まず大きなベッドが存在しており、軽い仕切りの先にトイレが存在している。

自害する事ができる設備がある時点で他の囚人と違って人権が存在していた。



「ウタ、ここがおれたちの家だ」

「もっといい部屋が欲しかったな」

「悩んでもしょうがねぇよ!一緒に居られるならどこでも良いしな」

「それもそうね」



世界の神と揶揄されるほどの地位がある天竜人を殴打したルフィとその幼馴染のウタは賞金首になった。

あと二週間で2人の結婚式が海軍本部で行われるという“大海賊時代”で珍しく明るい話題が一瞬で霧のように搔き消えた。

世界政府の役人、海兵、世界政府加盟国、2人と接点がある者達、英雄であるウタやルフィのファン、全員を絶望のどん底に突き落とした事件だった。



「よし、扉を閉めるぞ。もしなにかあったらそこの緊急ボタンを押せ。医師が駆けつけるからな」

「ああ、分かった」



ハンニャバルが鉄格子の扉を閉めて錠をかけて、次に透明な扉を閉めて完全に防音された密室となった。

これは他のLEVEL6の囚人と違って彼らの存在を隠す意図があった。



「疲れちゃった…先にベッドで寝て良い?」

「そうだな。おれも疲れたから一緒に寝るよ!」

「ふふふ、牢屋の中でも楽しそうね」

「もうウタを狙う奴らと戦わずにゆっくり過ごせるからな。ようやく一緒に休める」



彼らは半年以上逃げ続けた。

追うのは海軍だけではない。

海賊の象徴とされる【四皇】と呼ばれる大海賊、懸賞金に釣られた世界政府加盟国の市民、七武海の手下、かつての知り合いや部下達。

もはや伴侶以外の全てを失った2人は、追手を撒いたり撃破して逃げ続けた。

傘下の海賊団はおろか、5億越えの幹部級を7人も海の藻屑にしてきた。

しかし、肉体と疲労の蓄積は彼らを悩ませていき鬱にしていった。



「後生の頼みだ!!聴いてくれ!!」



ある日、センゴク元帥が土下座して2人に頭を下げていた

いつもガープ中将や自分たちを叱りつけていた印象的なアフロ頭。

疲労のせいなのか全て白髪になっていた。

彼も世界政府と私情と部下やファンたちに板挟みになって苦悩して生きていた。

偶然、2人を目撃した瞬間、センゴクは躊躇う事もなく彼らに頭を下げた。



ルフィとウタも彼の話を無言で聴いていた。

生き残るために罪なき商船を襲撃する羽目になったり、正当防衛とはいえ両手は血で汚れていた。

なにより、ウタは身籠っており、お腹を痛める戦闘をするつもりがなかった。



「自首か……そうすればみんなが救われるのね」

「おれは……ウタの選択に従う。あの時、海兵になって後悔していねぇ……もう一回選択してくれ」

「そうね…私は、私は…!!」



縋る物が一緒にいる幼馴染しか居なかった。

戦略結婚として無理あり結婚させられる事となっていたが2人としては悪くないと思っていた。

その時は義姉弟関係で上官と部下の関係だったので異性として意識していなかったが、逃亡生活で恋人になる段階を通り越して結婚した。

自由を愛した17歳の大佐は、19歳の女准将を優しく抱きしめてその身体と心を征服して全力で愛した。

本当の自分を愛して欲しかった歌姫も10年以上の付き合いがある男と愛し合った。



「自首します。ルフィと一緒にいられるならそれでいいの!!」



心中すら考えた2人はセンゴク元帥の想いに心が打たれて現実に向き合う事にした。

こうして海底監獄インペルダウンにやってきた。

最後の安楽の地であり、二度と夫婦を引き裂く事がない場所にと。

かつての同僚や先輩、部下に厳重に護送されている時、2人は手を繋いでおり決して離さなかった。



「見てよルフィ!!テーブルに譜面があるの!!これならいつでも作曲できるよ!」

「そっか!じゃあいつでもウタの新曲が聴けるな!」

「ルフィの為にラブソングを作っちゃおうかな!」

「良いのか?みんなに聴こえてるぞ?」

「良いの!!ルフィを愛してるのをアピールするには絶好な機会なんだから!!」



逃亡生活より不自由で制限だらけの生活を予想していた2人にとっては好待遇過ぎて夢なのかと錯覚してしまうほどだった。

そのせいなのか、2人はあっさりと受け入れて監獄生活を送る事ができた。

最初は監獄内は2人を収容した事で大騒ぎだったが徐々に騒動が収束していった。

それどころか密閉空間で憂鬱な環境だっだ大監獄は、2人の収容から変わった。



「「「「ウタちゃーーーん!!」」」」

「はい!ウタだよ!!今日は看守や獄卒さんの為に新曲を歌うよ!!イエーイ!!」

「「「「イエーイ!!」」」」



まずは、歌姫が歌や曲を発表して看守や獄卒の娯楽となった。

本来は、ウタの父親である【四皇】の1人“赤髪のシャンクス”を牽制する為の物だったトーンダイアルに録音されたウタの歌。

それは、大監獄で長期間過ごす看守たちにとって数少ない娯楽となった。

そしていつの間にか非番になった看守や獄卒の前で歌姫がライブするのが日常となっている。

もちろん、ルフィは演奏担当でウタの歌を盛り上げる係だ。



「アンコール!!アンコール!!」

「入浴の時間だからまた今度ね!!」

「「「「えーーーーーー!!」」」」



他の囚人と違う点は、ルフィとウタは19時半から30分入浴する事が出来る。

この時ばかりは、録音される事も監視される事の無い2人っきりの時間だった。

夫婦だけの時間を作りたいと提案したマゼラン署長に反対する者は居なかった。



「ありがとうルフィ。私を信じてくれて」

「いつも信じてるぞ…そんな事言わないでくれ」

「ごめんごめん、嬉しくてつい涙が出ちゃって…」



お互いに身体を洗い合う2人は、不自由ながらも幸せな生活を送れて満足していた。

ルフィとウタは、二度と手を汚す事はない。

なにより彼らの仲を引き裂く者などここには居ない。

夢と自由を諦めた代わりに安息と幸せを手に入れたのだ。

たまに深夜に来るガープ中将の襲来に怯えながら夫婦は監獄で一生を過ごした。

例え世界がどうなろうとともルフィとウタは幸せだった。


END

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