脈無しパンジー
「センセー!」
呼ばれて五条は立ち止まった。
振り返ると、虎杖悠仁がなにかを持って走ってきているのが見えた。それがバラの花束だとわかると、五条は虎杖が走ってきた方向を見て納得する。
(そういや、そんな時期だっけ)
「悠仁って、オモシロイものばっか拾うよねー。そういう術式でも持ってんの?」
ゲラゲラしながら五条が目隠しをずらすと、虎杖が持っているバラの花束がハッキリ見えた。バラは、去年より1本多かった。
「そんな術式ねぇの、先生が一番わかってんじゃん。じゃなくて、コレ」
虎杖が五条に花束を見せた。
「ヤダー、愛の告白ってコト?」
キャッ、と五条は言った。
相手が七海だったらガチギレ間違いなしだったが、虎杖は七海じゃなかったのでガチギレしなかった。虎杖は五条の言葉をスルーする。
「落としものみてーだからさ、落としもの置き場の場所教えてほしいんだけど」
「それ落としものじゃないよ」
「え? でも…」
虎杖は花束を見た。花束についてあるメッセージカードを。HAPPY BIRTHDAY とカードには書かれていた。
「でも、落ちてたんだけど…」
「それでいいんだよ。元の場所に戻しといて」
「………」
それは、また花束を放置するということだ。地面に。
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。明日になったら無くなってるから。GTG(グレートティーチャーゴジョー)を信じなさーい」
ポンポンと、五条は虎杖の肩を叩く。
誕生日プレゼントの花束が地面にある理由を、五条は知ってるらしいが、虎杖に教える気はないらしい。そのまま五条はクルッと虎杖の体の向きを変えて、背中を押す。
虎杖はまた、さっきと同じ場所に戻ってきた。目の前には、高い建物がある。その下に、花束を置こうとして、
「でも、こっちのがいいかな」
近くの花壇の上に乗せた。そうしたほうが、誰かに踏まれる心配がないと思ったからだ。
花壇には色とりどりの花が咲いていた。
虎杖は花に詳しくないが、よく見る花だった。
花束のまわりで、たくさん花が咲いている。