能力者狩り
能力者狩り。
私、ウタが所属する黒ひげ海賊団が戦力増強のため行っている悪魔の実の能力者を狩り、その能力を奪うものだ。
今回のターゲットは…名前は覚えてない。能力はたしかスケスケの実。
私とティーチ、そしてシリュウさんをメインに多くの団員を連れて追っているけど…消える能力が思った以上に厄介、今は森の中に逃げ込まれてなかなか捕えきれない。
団員の皆が必死に探す姿を、私はティーチの肩に座って眺めていた。
「ゼハハハハ!相手にすると想像以上に厄介!そう遠くには逃げてねえだろうがな!」
「笑っている場合か、逃げ切られると面倒だぞ」
「分かっている!そのために娘を連れて来たんだ。頼めるか、ウタ!」
「うん、分かった」
ティーチとシリュウさんの会話を聞いて、私はティーチの肩から降り、ゆっくりと歩きながら息を吸う。
ティーチが私を頼ってくれる。
皆が私の力を必要としてくれる。
もう置いていかれない、戦闘中は邪魔だからって船室に押し込められない。
今の私は間違いなく幸せだ。
だから——ティーチが狙う獲物は絶対に逃がさない。
『ひとりぼっちには飽き飽きなの繋がっていたいの 純真無垢な思いのままloud out-』
森の中に私の歌声が響いた。
アブサロムは森の中、スケスケの実の能力で透明となり走り続けていた。
今は“黒ひげ”達からも相当離れ、このまま逃げ切れると予想していた。
(とにかくここを逃げ切ってモリア様と合流を…)
そう考えた瞬間、何か音が聞こえた気がした。
一瞬その音に気を取られたその時だった、背後で何かが砕ける音がして振り返る。
アブサロムの目に映ったのは木々を砕きながら自分に迫る巨大な黄金の槍だった。
「な、なんだあ!?」
思わす叫んだ拍子にスケスケの能力が解け、姿が露わになったが、改造された肉体の力を使い横に飛び、その攻撃をギリギリで避ける。
そして槍が飛んできた方向を見れば…黒ひげの肩に乗っていた女がこちらへ歩いてきていた。
「見つけた」
女が短くつぶやくと指をパチンと鳴らした。
その指から音符のようなものが数えきれない数産まれ、その全てが槍と盾を持った空飛ぶ兵士のようなものへと変化した。
その兵士達がアブサロムへと殺到する。
「くそっ…能力者か!」
アブサロムは叫び兵士達に腕を向ける。
その腕にはスケスケの能力で透明となったバズーカが取り付けられている。
それを兵士達へ放つが、あまりにも兵士の数が多い。
いくら撃ち落としても数は減らない、それどころか兵士達の後ろに立つ女から次々と音符が生まれ、新たな兵士へと変わっていく。
アブサロムはこのままじゃ不利と判断し、すぐに全身を透明化、踵を返しその場から撤退する。
このスケスケの能力ならば逃げ切れるはず——
「もう遅いよ」
そう呟いた女が再び指を鳴らす。今度生まれたのは巨大な五線譜のようなもの。
それらがうねり、見えていないはずのアブサロムへまるでこちらの居場所を把握しているように一直線に迫っていく。
振り切ろうと全力で走るが、抵抗も空しく五線譜が体に巻き付き、捕縛されてしまった。
アブサロムの自慢の筋力でも破れず、その場に倒れ透明化も解けてしまう。
動けないアブサロムへと女がゆっくりと歩いて迫る。
この女の能力が分からない、あまりにも自由度が高すぎる。
「なんなんだテメエの能力は!」
思わず叫ぶが女は冷え切った目でアブサロムを見下すと口を開いた。
「教えるつもり無いし…あなた、もう終わりだよ」
なんだと、と返そうとしたが意識が遠のいていき言葉が出ない。
何が起こったか分からないまま、アブサロムは意識を手放した。
仰向けに倒れているスケスケの実の能力者の胸からナイフを引き抜く。
その男は眠っているように死んでいた。
これで上手くいっただろうか、と考えていると、背後からティーチが叫んできた。
「よくやったウタ!さすが俺の娘だ!ゼハハハハ!」
振り返るとティーチとシリュウさんが歩いてきていた。
シリュウさんの手には妙な模様の果実、おそらくスケスケの実だろうものが握られていた。
どうやら上手くいったらしい。
すぐにティーチ達の所へ駆け寄っていく。
「ティーチ!私、役に立てた?」
「ああ、完璧だ!お前を連れてきて正解だった!」
私の問いにそう言ってティーチが乱暴に私の頭を撫でてくれる。
胸の奥が暖かくなって、嬉しくて嬉しくてたまらない。
私の能力、ウタウタの実。
歌を聞いた相手の精神をウタワールド、私が支配する夢の世界に引きずり込む。
引きずり込まれた相手の体は眠ったような状態となり、私が自由自在に操れる。
スケスケの実は透明となり見えなくなる能力だが音を無力化する能力は無い。
なので私が今回の能力者狩りに選ばれた。
私が歌うだけで確実に能力者をウタワールドへ引きずり込める。
あとは意識を失い、透明化が解けた能力者にトドメを刺すだけ。
ティーチを困らせた罰に、ウタワールドでちょっと虐めてもやった。
私が支配するウタワールドならば、透明化しようが私は見つけれるし逃げられない。
歌さえ聞かせてしまえば、私は最強、絶対に負けない。
「よし!戻るぞ、ウタ!」
「うん!」
ティーチの言葉に答え、その肩、私の特等席に飛び乗る。
今回も役に立てた、きっと次も役に立てる。必要としてもらえる。
その期待で胸がいっぱいになっていく。
先ほど殺した能力者のことなど、もう忘れていた。