見たくて書いた孫新星

 見たくて書いた孫新星


・登場人物、時期に偏りがあります。

・エミュ下手




■のびのび生活■

(ルフィとマキノさん)


 ルフィはフーシャ村の一本道に置かれた木箱にどっしり座っていた。片手は木箱をつかんで、もう片手は海辺へと向かったゾロと繋いでいる。兄ちゃんたちはいつも言うのだ。

「自分の能力をセイギョできるようになれ」って。

 セイギョっていうのは、自分の体を思い通りに動かすことらしい。アプーからずうっと音が出てたらやかましいし、キッドだってずうっと金属集めてたら動きにくいだろう? そうドレーク兄ちゃんに言われて、なるほどなあと思ったし、おれだってできるんだ! って兄ちゃんたちに見せたくなった。

 だから、今日はこうやってゴムのからだを伸ばしてる。


「こんにちはルフィ。今日も特訓?」

「おうマキノ! とっくんちゅうだから今日はおしゃべりできないぞ!」

「あら、ざんねん」

彼女は笑みを浮かべて、お口チャックの少年の前にしゃがむ。おしゃべりはダメでも、この村に住む彼よりも少しだけ大人の誰もがそれを開ける方法を知っている。

「ねえルフィ、ちょっとでいいから、どんなことしてるのか教えてくれないかしら。お兄さんたちには内緒にするわ」

「わかった! ちょっとだけだぞ!」


 いまはゾロに腕伸ばしてもらってるんだ。だって、どこまで伸びるかわかってる方がいいって兄ちゃんたちいつも言ってるし、伸びたあとビタンってどこかにぶつかったら痛えから、シュルシュルーって戻るようにしなきゃいけないんだ! 兄ちゃんたちにはナイショな。ひみつのとっくんだから!


 笑顔で話すルフィは、この内緒話が近くを散歩しているおじいちゃんとおばあちゃんに聞かれていることも、自分たちが見ていないときに村で何しているのか(たいてい弟が何かしでかしてませんか、という心配と謝罪から始まる)聞かれた住民たちが全部話してしまうことも知らない。

 こうして村の真ん中で訓練ができるのは、漁師のみんなが海に目を光らせて、この子たちの歳の離れたお兄さんとおじいさんが悪者をけちらしていることも知らない。内緒にしてくれよと頼まれているから、だれも言いふらしたりなんてしないけれど。


 ほかにもいくつかある秘密を聞いているとき。ずっと話し相手の方を向いていたルフィの顔が、港のある方に向いた。

「あ、マキノ! 止まったぞ、腕!」

「フフ、ここから腕がシュルシュルー、なのよね」

「見てろよマキノ! ここからが」


 ほんばんだからなぁ……。たぶんそんな風に聞こえた。瞬き一つしたかどうかくらいのあっという間に、ルフィは目の前から消えていて。

「ルフィ!? ねえ二人とも! ルフィどこかに行っちゃった!」

「ああ、山の方さ飛んでったなあ、ばあさんや」

「ええ、アッちゅうまにビューンって」

「たいへん! ダダンさんたちに知らせなくちゃ!」


 ……マキノは知らない。捜索するべきは、いま目の前で消えてしまった少年ではないことを。

















■10回に1回はこういうことする。連続でする日もある■

(上の三つ子)



 準備できたぞ、と声を上げたドレークは、ぐるりとアプーを囲うように置かれた案山子や鉄屑の間に立つ。ホーキンスも同様に、がらくたを数個挟んでドレークの隣に立つ。


 行われているのは、だだっ広い場所で行われる、いわばアプーの能力範囲拡張実験。視認できる相手であれば距離や障害物を無視できる彼だが、このように多数に囲まれた状態で、敵味方の区別をして攻撃できるのか、と海賊だったかやべー連中だったかを相手にしたときにふと思ったのだ。

 そこでアプーは年齢の近い二人に頼んで、月に一、二度こういうことをする。下のきょうだいを参加させないかだって? 冗談じゃない。かわいげが減りつつある弟たちを巻き込むのは全員参加の模擬戦だけと決めているのだ。


「……オラッチの好きなタイミングでいいんだよなァ」

「好きにしろ」


 それを開始の合図だと判断して、アプーはぐるりとその場を一周する。実戦を想定してか、目の前には武器(使い古した竹刀や鎌なんかだ)を持たせた大小様々な敵。武器を構えた味方二人はアプーとは背中合わせになる形だ。



「行くぞオメェら! 見学は耳ふさいどけ!」


 爆!!

 声よりも先に響いた太鼓の音色に爆音。見学のきょうだいたちに届くのは身体が震えるほどの衝撃と木葉のざわざわ揺れる音。舞い上げられる土ぼこりに思わず目を瞑ったきょうだいが見たのは、衝撃的な光景だった。


「兄貴がいなくなってる……!」

 無傷で残っているのは無数の敵として配置された案山子に鉄屑。二人の立っていた土は削れていた。


 きょうだいたちは察する。今日のご飯したくと風呂の湯沸かしと薪割りと……、つまりは色んなことを全部やらなきゃいけない日だと。


「お前ら無事かー?」

「おれらはなんともなーい!」

「ゾロもいるかー?」

「まだここにいるー!」

「夕立くるから洗濯物取り込めよー!」

「わかってるー!」

 のんきに伝達しているアプーと小屋に帰ろうとする年下のきょうだいたち。そこに届いたのは空気を揺るがす獣の咆哮。

 ドスドス足音を響かせ、視界を遮る枝葉を無視して突っ込んできたのは、きょうだいの夢と希望とカッコいいが詰まったアロサウルス、ワラの怪物のせ。

 アプーの目の前で変身を解いた二人は、それぞれ得物を構えるが、アプーにそれを受け止める気は毛頭ない、自らもトンファーを構え、二人との距離を測る。

 一触即発のなか、踏み込んだのは同時。

「アプーテメェやりやがったなァ!!」

「アッパッパ~♪ 戦場で油断してるマヌケ相手への一撃こそが実戦の参考ダメージに最適なんですゥ~!!」

「とにかく一発殴らせろ! こっち来い!!」

「やなこった! 悔しかったら追い付いてみやがれ♪」


 ……今日は夜まで帰ってこないな。さて誰が何をしようか、これやりたい人、おかずどうしよう? ……兄たちのいつもの醜い争いにすっかり関心をなくした彼らは、もうすぐ雨に濡らされてしまう大事な洗濯物の救出へと向かっていった。











■あにいもうと■

(ボニーと兄たち)


「アプーおねがい!」

「ダメ」

「アプーのけち! ちょっとくらいいいだろー!」

「オニーチャンを呼び捨てする妹のいうことなんて聞くかよ」


 甲板のど真ん中、最近ちょっとませてきたボニーは、今日も元気にアプーに挑んで、敗北を知った。実に三連敗、次の島に付くまでだろうが毎日よくやる。


「今日は何わがまま言ったんだよボニー」

「……わがままじゃないもん」

「でもよお、うえの兄貴相手には勝ててもアプーはダメなんだろ? それってわがまま言ってるってことだ」

 彼女のすぐ上の兄二人は、ちょっとずれた言い方でボニーを励まそうとする。年少の二人は、これまで兄たちに甘やかされてきたけれど、アプーだけは別で、能力使いたい、武器使いたい、と言おうものならたいそう厳しく拒否されてきた。こっそりグレイターミナルに行こうが村で修行しようが危険な目に遇わなければ何も言わなかったくせに。


「それで、今日は何言ったんだよ」

「あたしもお姉ちゃんになってみたいって」

「……あー……」

 何が起こるかわからないグランドラインの海上で、今はその方が安全だろうとルフィと変わらない背丈で生活しているが、ほんとうのボニーは二人から見てもまだ小さい子どもだ。直近で寄港した島は平和で、彼女くらいの年頃の少年少女と、それよりも小さい子どもが手を繋いでいるところも一緒に遊ぶのも目にしたことで、下のきょうだいがいる事に対する憧れが強まったのだろう。

 ただ今回は、最初に言う相手が悪かった。ルフィもゾロも踏み込んだことはないが、このきょうだいは小さい時にひどい目に遭ったことが多いからか、悪い大人に目をつけられる子どもの姿になりたがらず、緊急時とかボニーの特訓とか、特別な理由がない限りトシトシを喰らわない。


「おれはいいけどギア3で見慣れてるだろうし、ちっちゃくしても中身そのままだぞ? おまえの弟にはなれねえぞ?」

「わかってるよ、そのくらい。……でもさ、兄ちゃんたちはどんな感じだったのかなって、なんとなくでも知りたいんだよ」

「……よく考えたら、おれたちもわかんねぇな、兄ちゃんの気持ちとか」


 よし、決まりだ。ちょっとだけ兄ちゃんの兄ちゃんと姉ちゃんになろう。ちょっと前まで弟役をやってやろうと思っていた二人もすっかりボニー側だ。

「とりあえず暇してる兄ちゃんたち呼ぶか」

 というルフィの提案に集まったのは、ちょうど船上での当番がなく、末っ子たちのためならと外見年齢の変化を受け入れてくれるウルージ、ホーキンス、そしてエース。


「期待してますよ、お姉さん」

 兄のからかいにボニーは任せとけ! と胸を張る。そして彼女の手によってあっという間に身長や年齢が逆転した。それでももともと大きいウルージは、変わっていない年下三人と目線が合うくらいの身長である。

「エースは見たことあるな、なつかしー!」

「ウルージ兄さんいくつの姿だ? 今のルフィくらい?」

「……ルフィと目線が会うならもっと下だったか。なんにせよ、私はお前たちの兄であることに変わりなし! さあ来なさい!」

「うわっ、急に担ぐな! 天井ぶつかる!」

「兄ちゃんしたいんだよー、兄ちゃんがいつも通りじゃダメなんだよー!」


 黒髪のきょうだいたちの賑やかなやりとりの横、姉をしたいと息巻いていた少女が自身の能力で小さくした兄を前におののいた。

「にいちゃん……まゆげ……ドコ……?」

 ぐるぐるお目目の妹が聞く。まゆげ……? ああそうか、一番下の妹はおれの幼少期なんてちゃんと見たことなかったんだ、訓練中でもこんなに小さくされることはなかったしな。

 近くにいるゾロもその波一つ立たない兄の様子をどう受け止めたのか、のんびりした日にふさわしくない、めったに見せない深刻さで「……迷子になったんじゃないか?」なんて言うものだから。

 冗談言うな、と諌める兄の声なんて聞こえなくなった妹は、困り果ててアプーに泣きついた。

「アプー! にいちゃんのまゆげ一緒にさがじで!」

「もっかい言って??」

 その後ろで生まれる押し殺した笑い声を、耳のいいアプーはしっかりキャッチする。……ねえオラッチどうすりゃいいの。

「ボニー。おれの姉をするんだろう? 髪をとかしてくれないか」

「お前のねえちゃん今それどころじゃないの! ゾロにでも頼め!」







 (別の日アプーから能力使用をお願いされたボニー)

「別にいいけどさあ、ペッツの抱っこくらいトシトシなくてもいいじゃん。キッドたちはわざわざ海楼石持ってるんだし、あたしだって保険に持つんだしさ」

「おれたちはこの図体からの能力暴発が怖いわけじゃねえんだボニー。わかってくれ」

「おまえの生まれる前だけど、オラッチとホーキンスは赤んぼのこと抱っこしてたんよ。成長期の前に」

「なら慣れてるじゃん」

「「こんなでかくなってから抱っこなんてしたことないから何か怖い! 頼むから能力使ってくれ!」」










■ジキジキパニック■

(シャンクスがフーシャ村にくるだいぶ前)

(キラーと年少たち)


「これでも食らえっ!」

 サボがごろつきに振り落とされた鉄パイプを引き寄せたキッドが、今度は磁力の反発により勢いをつけて弾き飛ばそうとする。それを掴もうとしたキラーの手は宙を掻いたが、失敗も想定の範囲だった。キラーは体勢を変えてごろつきの腹を蹴り飛ばした。

「こいつで最後か。……サボ、怪我はないか」

「へーき。ちょっとすりむいただけ」

 ……そのちょっとが治療担当と過保護になってきた兄の逆鱗に触れかねないんだよな。長いこと山で生活しているが年齢で言えば真ん中くらい、というどの条件で分けてもちょうど間に挟まれる立場にいるキラーは、内心ため息をつきながら男を縛りあげた。


 グレイターミナルは、懸賞金のつかないごろつきや盗賊がたくさんいる。そいつらは大抵こっちをなめてかかってくる。それを返り討ちにできるうちの兄弟、特に力をもて余したガキどもにはいい特訓相手だった。不衛生だから頻繁に行くな、と釘を刺されるが、刀やら鉄パイプやらの凶器を持って村をすみずみ歩くよりはましじゃないのかとキラーは思う。

 ……キッドが村で能力を使ったら村中のフライパンとか鍋とかが集まってしまうんじゃないか、そんな光景が浮かんで、やっぱり村よりこっちだな、とキラーは確信をもった。


「キッド、そろそろ鉄パイプ返してくれよ。持ってないと落ち着かねぇや」

「わーってるよ。でも全然はがせねぇんだ」

 そっかー、調子わりぃのか? なんてからかうのはエース、さっさと帰ろうとその前を歩いて分かれ道の逆を行くゾロ。おいこっちだ、誰ともなく上がる声にゾロは従って……いや違う、キッドに引き寄せられている。


 かん! とゾロが刀の代わりに挿している鉄の棒と鉄パイプのぶつかった音。不味いことを察した弟たちの顔がみるみる青くなる。

 たぶん全員、同じことを考えている。

「お前ら走れ! 山まで入ればどうにかなる!」

 キラーはキッドにくっついているゾロごと抱えて全力で走る。後ろは振り返らない、振り向いてはいけない。何しろ抱え込んだ磁石が強力なのだ、下手をすると刃物が顔面めがけて飛んでくる。


「キラー! 後ろからガシャガシャ音してないか!」

「んなもん無視しろ! 聞こえねえって思っとけ!!」

「兄さん、刀と鉄パイプぶん投げたらこの辺の金属そっちに行かないか?!」

 サボが全力疾走しながら叫ぶ。お前いいのか、またいいの探す、焦った声を聞きながらもキラーはどこかほっとしていた。ゾロの愛刀になる予定の立派な刀をしまっていて良かった。鉄屑の山から探したくはない。


 キラーはキッドの手のひらから鉄パイプをひっぺがした。あんなにかっちりくっついていたのに。兄たちの言う火事場の馬鹿力とはこういうものなのだろうか。

「お前ら走れっ!!」


 キラーはくっついた鉄を空に向かって投げ飛ばした。キッドの能力で強力な磁石とかした鉄はどんどん巨大な塊になっていく。


「あれ落ちたらどうなる?」

「……ここの人たちに怒られる覚悟しといた方がいいのか?」

「とにかく山に逃げるぞ! ゾロは離れるな!」

 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、きょうだいたちがやっとの思いで出入り口から山に通じる小道に突っ込むと同時に地面が大きく揺れた。
















■はじめての年少シャンブルズ■

(北の海トリオ)


「ちょっとくらい良いだろ!」

「ダメに決まってんだろ!!!」

「アプーのアホ! 減るもんじゃないしいいだろ!」

「ちょっとで済むわけないから言ってンだ、聞き分けろ!」


 山小屋の一番広い部屋の真ん中、最近形になってきた能力をもっと伸ばしたい、ついでに迷子が玉に傷の弟の迷子を荒業で治せるのでは? という誘惑に負けたローは、今日も元気にアプーに挑んで、敗北を知った。実

に五連敗。


 ところ変わって、小屋のすぐ近くにある水汲み場。アプーがダメなら、ホーキンスとドレークを味方につけてしまえばいい。山での生活において能力の使用許可を求めなくてはいけない場面では、ドレーク以下の三人のうち二人が了承してくれさえくれればいい。こういうとき、きょうだいが多いから得だと本当に少しだけ思う。

 ローは当番を手伝って欲しいと二人を呼び出し、三人だけで話せる環境を作った。

「というわけで、ゾロとエースとサボのどっちかに協力してもらって二人の精神を入れ換えたい」

「……今日と明日はやめとけ。午後からの運気が悪いし出会い運も最悪だった」

「何でやること前提で話進んでるんだ。……いきなりゾロ相手はリスクが高すぎる。俺も許可できないな」


 ホーキンスは良いとして、どうやってドレークを説得しようか。上の兄たちは(占いの結果を重視する傾向はあるが)揃いも揃って理論で説得できる、好奇心を引き出すことさえできれば、こちらの勝利。

「ゾロの身体が迷子の理由と仮定する。そうなると入れ替わったやつはゾロの行動パターンを把握できる、それに迷子は一人だけ」

「……なるほど」

「ゾロの精神が理由だとすれば、おれがいくら場をめちゃくちゃにしようが警戒するのを一人に絞れる」

「お前ゆくゆくは全員シャッフルしようとしてないか?」

「ドレークが乗ってくれたら、次の海ソラの順番おれは三番目でいい」

「乗った」

 今度から説得したいときは海ソラ一番読者権をこいつに譲ろう。北の海出身の三人は同じことを考えていた。



 当日。何でお前ら止めないんだよおおおおお! という叫びが山にこだまするなか、全員に見守られてエースとゾロの入れ換えがされた。

「一応本人確認だ。二人とも、名乗れ」

「エース」「ゾロ」

 黒髪の方がエース、緑の坊主頭がゾロ。お互いにまちがいなく入れ替わった上で、よく知る相手に合わせて質問に答えている。

「ロー、おれもやってみたい!」

「キラーくらいでかくなったら考えてやるよ。お前らに最後の質問。北は」

「あっち」

 ゾロが指した方が正解。つまり二人の入れ替わりには成功している。

「ロー、いつ戻すんだ」

「ゾロの迷子についてデータが集まったら」

「……お前らさっさと当番に行けー。オラッチこの件について関与したくなーい」


 アプーの号令できょうだいがそれぞれ目的地に行こうと動き始める。エースの身体で駆け出すゾロの足は逆方向に向いていて、それをエースが追いかけていく。二人ぶんの影は、森の木々に混ざって見えなくなる寸前に必死の形相をしたローによって捕まった。


 ……のだが。ほっとして少し目を離した隙に二人は忽然と姿を消していた。


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