胸やけバレンタイン
ω゜)ノ「お前いくつあった?」
「下駄箱に3つ……多分あの子達かな」
「うぅわ!モテ男!ギターでぶん殴って良い?」
「まいったなー机の中にあったよー、いやーまいったなー」
「はいはい母親から母親から」
「うっせーばーか!」
「男子ってわかりやすー」
「良いんだよ!今日という日はそうなるんだよ!!」
エレジア音楽学校のある教室で野郎どもはソワソワしていた。なぜか?2月14日……証明終了。
いつもは授業や音楽に励む彼らも今日という日に限って『あわよくば?』という期待感で満ち溢れている。
あえて、どうせ俺はと斜に構えることによって精神的被害を抑えようとする者や既に恋人がいてその子とのやり取りにのみ焦点を当ててる者。
そんな奴らを肴に揶揄って楽しもうとするガキ真っ盛りな奴ら。いつもの五割増しで教室は騒がしかった。
「おはよー」
「おはよー」
そこにこのクラスで一番男子が目を引く存在、ミライが登校してきた。クラスに入って席に着くところまでチラチラと横目で見る男共。
もちろんその視線に気づいている彼女はちょっとだけ鼻で息を吐く。
「はいはい、昨日サンジさんに教えて貰ったやつだけど欲しい人は並んで。一応全員分あるから」
「「「「「ありがとうございます!!!!!」」」」」
「うわぁ」
ザザッ!と訓練された軍人のように整列してお礼を言う男達。神様仏様ミライ様とおがむ奴もいる。
チョコクッキーの小袋詰めを男達に渡してく……
普通男の子にチョコレートを渡す時って少しはドキドキするよね?と思ったが、今の状態はただの配給にしか思えない。
もしくは街中でのティッシュ配りな感覚?
「ミライのモテない男救済が無事完了したな」
「うっせーそこ!ブスに何言われても全然悔しくないし!」
「ああ?」
「ごめんなさい」
ミライの友達とその男友達のやり取りに苦笑するミライ。実はこの二人が去年、放課後にチョコの受け渡しをしてるのを知ってるからこそ笑いを堪えてる。
そして、鞄から一番力を込めて作ったチョコレートケーキを一番仲の良い女友達2人に渡す。
「ええ!?マジで!?」
「うわぁありがとう!」
親友の証ということだろうか、明らかに男達に配ったクッキーよりも力作に見える。
「じゃぁ私も、一応……」
「なんかミライちゃんの後に出すと程度が知れちゃうけど」
「ううん!すごい嬉しい!ありがとう」
そう言って初等部の頃からやってたチョコ交換を今年も済ませた。ミライもほくほくと笑みが溢れる。
「なぁミライはさ~そこまで気合入ったお菓子作るけど、良い相手とかいないわけー?」
「えええ?」
そう言って揶揄ってくるが正直に言えば、いない。
「すごい、男子達が明らかにほっとしてる……」
「盗み聞きすんな!」
「まぁまぁ」
二人が耳を大きくしてる男子に怒ってるのを宥める。しかしミライはよく考えても学校に素敵な男性という像が出てこない。
本当に私はそういう恋愛イメージないなーと友達に打ち明ければ
「まぁ周りにいる人がねー」
「ああ……」
父親の船に乗ってる人達を思い出す。男らしさ溢れる剣豪、紳士な対応を胸とするコック、話し上手な狙撃手と……確かに女性目線で見れば凄く魅力的だ。
それに比べれば学校の同級生のなんとガキ臭いことか……。
「私はサンジさん推し」
「えー私はゾロさんかなー」
「ウソップさんと喋ったことあるけど本当面白い人だったなー」
「チョッパーさんフワフワまじ最高」
「私はジンベエさんかなー」
「ブルックさんにバイオリン教えてもらったけど本当に音楽には真摯だった!」
なんだかいつの間にか他の女友達が集まってきて、麦わら一味誰推し談義になってきた。
ちなみにフランキー推しはいなかった……中等部の子に変態は無理らしい。
と、ここまで名前が上がり……つい、本当につい言葉漏れてしまった。
「パパは、どう?」
しまった!と思ったがもう遅い、周りの子がニヤ―と『この子は本当可愛いなぁ』と視線で頭を撫でてくる……
「まぁでもルフィさんねぇ……最推しの人がいるからねぇ」
「あの人の推し方には勝てないし、ベストカップルだから」
「?」
最推しの人?ここで理論立てて考えてみた。パパを最推しということはルフィのことを一番好いてる人……つまりはママだ。
「ああ……」
確かにママの推しの仕方を見れば皆も自分もという気にはならないと思う……
その日の放課後の帰り道。ミライと友達二人はバレンタインの事を振り返りながら下校する。
「まさかあの先輩に告るとはねー」
「しかも実ったし……良かったぁ」
「ねぇ、まぁでもお似合いだよね」
まさに青春の1ページな出来事があったらしい。
その他にも、隣のクラスにいた母親からのチョコという呪いのアイテムで涙を流す男がミライの余ったチョコクッキーを貰って狂喜したり
チョコ没収!と怒って来た生活指導の鬼教師とのデスレースをくり広げる男子達。
職員室に列を成した女性徒達がいた事……あるあるな話だが若い先生へのチョコ渡しだろう。
「ミライちゃんは他の人には?」
「男の人だったらゴードン学長に渡したよ」
「いやそりゃ身内じゃん」
「だって本当にそういうのいないってば」
「じゃあどういうのがタイプ?」
と友人に聞かれれば、ええとミライは頭の中で必死に考える。
どういう男の人が魅力的だろうと……これまでの男性像を思い出す。
(だーはっはっはっ!ミライ!飲んでるかー!?あ、まだ酒はダメか!悪い悪い!おいウタ!怖い顔するなよパパ泣いちゃうぞ!)

(マストー!ライトー!!ひいじいちゃんのカッコいい所見せてやるぞー!どこの山を削ってやろうか!!)

(肉ーー!!!!!)

……
…………
「一般常識がちゃんとしてる大人な人かな」
「お、おう……」
死んだ目でそう言うが、それは果たしてタイプな人なのか周りへの反感な気持ちでは?と思ったが指摘出来なかった友人達であった……
「ねぇ思ったけどミライちゃんのお父さん達は毎年すごい貰ってるんじゃない?ベルカントに留まった日とか特に!」
「ああ……確かにそれはあるね。去年とかサニー号にどっさりチョコ送られていたし」
「まぁ海賊と言っても本当話しやすい人達だからね」
去年のバレンタインでサニー号へ送られたチョコの山。チョッパーが目を輝かせて喜んでいたのをよく覚えてる。
「あれ、そう言えばナミさんとかロビンさんは送らないのかな?」
「ああ、それはないよ」
ウソップ曰く『ナミからのチョコ?ミライ、法外な金利が確実な所から金借りるか?それと同じだ』とのこと。
なるほど、ホワイトデーは3倍どころか30倍になりそうだ。
本人たちにも聞いたことはある。
~~~~
「チョコ?別にそういう仲じゃないし今更送ってもねー……それに」
「ンナ~ミさ~ん♪ロビーンちゅわ~ん♪スペシャルチョコケーキ出来ましたー!!」
「自分のより確実に美味しい物が出てくるもん、意味なくない?」
「ふふふ♪」
苦笑いするナミと微笑ましく見るロビンの顔が印象的であった。
~~~~
友人二人を連れてベルカント島の離れにある自分の家についた。今日は自分の家でチョコを舌鼓しようという予定だったらしい。
先週美味しい紅茶を手に入れたんだと友達の前にニコニコしながら扉を開ける。
そこには……
「はーい♪ルフィ~♪あ~ん♪」
「あーん♪うん美味い!ウタも食うか?」
「うん!あーん♪」
チョコフォンデュに浸したパンやフルーツを食べさせ合ってる両親がいた。
静かに扉を閉めた……
「…………」
「…………えっと……」
「流石……最推し?」
「やめて」
ルフィ最推しのガチ勢の甘々空間に長女は項垂れた。仕方ないここはわざとらしく大声でただいまぁ!と言って入ってやろうと扉に手をかけた瞬間
「ねぇ~もっと美味しいデザートがあるんだけど~……興味ない?」
「おお!なんだなんだ!」
「うん……あのね……こっち、来て」
「ウタ…………おう……」
中からそんな甘い声が聞こえた……
……
…………
………………
「……ねぇ」
「はい」
ミライの目が死んでいた。ハイライトがどっかいった……。乙女がしてはいけない目をしていた。
ゆっくりと隣にいた友人を見る。
「予定変更、私の家無理」
「そうだね」
「あと、遅くまでいて良い?」
「どうぞどうぞ」
「今日は3人で楽しみましょう」
こうしてミライは友人の家に向かい、バレンタインの話題で遅くまで語り合った……
半分が家族の愚痴だったが……
──ハッピーバレンタイン。甘い時間も程々にしときましょう。