胡蝶の夢
「嘘つき、嘘つき嘘つき!私はもうアクアの事、家族だなんて思わないから」
そう言った、言い放って家族ではなくなった人の顔をみた。
なのになんだその穏やかな顔は、なんだその悲しそうな顔は、お前が暴いたんだ。
お前が悪いんだ!そう、思ってた。
「ルビー、……そろそろ、この夢も終わりを迎える」
「夢?これが夢だって?!ママのヒミツを暴いたこれが?夢?ふざけるな!」
「もう少しだけ、お前に隠していたかったが…さよなら、ルビー」
その瞬間、アクアの身体が光に溶けて…その強い光に私は目を閉じ、開く。
先ほどまでリビングで食事をしていたはずなのに私はいまベッドの上、
リビングからは包丁の音と懐かしい鼻歌が聞こえてる。
「ママ…?ママッ!」
「おやおや、今日のルビーは早起きだねー。誕生日そんなに嬉しい?」
「ママ、何で生きて…?それに誕生日って…」
「生きてって私死んでないんですけど?!」
私の目の前に料理が運ばれてくる、奮発したのだろうママには珍しく豪華な食卓で…。一つの違和感にたどり着く、私たちは三人家族。
先ほど家族ではないと言い放ってしまった兄の分がテーブルの上に無い。
「…ママ、アクアの分がないんだけど…?」
「あっ、あはは…そうだね、後で作って上げておかないとね」
「あとで、あげる…?」
「ほらほら冷める前に食べて食べて、今日はうまくできたんだー」
凄く嫌な予感がする、この家にはアクアの形跡がなさすぎる。
でも玄関に写真はあるけど…あの時の写真だ。
ママが死んだ時の、幼いアクアの写真……そんな、訳ないよね?
おぼつかない足取りでアクアの部屋の前まで歩いて見入る。
アクアのネームプレートによかったっと安堵が一つ、ドアに手をかけ私は後悔した。
部屋には仏壇が佇み、小さなベッドと机が一つだけ。
遺影に映るその姿に私の理性が、本能が理解を拒む。
「なんで…そんなわけ、ないよ。だってさっきまで、私はアクアとご飯食べてて…いつ?いつから?」
私があの言葉を吐いてから、アクアは消えた。夢の終わりだと、アクアは言った。
あの笑顔も、あの困り顔も、意地悪な表情も、優しい表情も、魘され苦しむ表情も。
一緒に作った思い出も全部、全部私の夢…?
そんなのって、ないよ…こんな最後なんて望んでいなかったよ。
アクアに謝る機会が欲しい、こんな残酷な終わりなんて…嫌なのに…。
今日は私の夢が終わった日、そしてママのいる現実に帰ってきた日。
そんな夢の終わり、傍にいたはずの夢の人(アクア)は泡沫の思考の中に消えていた。