翼は口ほどに物を言う
麦わらの一味の船員、ロロノア・ゾロの背中には翼が生えている
巨大な鴉を思わせるその大きな黒翼は産まれた時からあるもので、家族をはじめとする村の人々やゾロ本人は「そういうもの」として受け入れていた
おまけに彼には背中から炎を発するという特殊能力もあったが、やはりこれも皆から受け入れられていた
そしてこの翼と炎にはある特徴があった
本体であるゾロの感情を、彼の表情以上に表現するというものだった
ウォーターセブンを出航して二日、フランキーが展望室に登るとゾロが刀の手入れをしていた
「どうだ、この部屋?」
フランキーが尋ねると、「ああ、悪くねェよ」というシンプルなコメントが返ってくる
「それぞれ好きな事が出来る部屋ってのは、いいもんだな」
「だろォ?おれ様の設計やデザインに満足してくれたなら、気軽にアニキって呼んでくれてもいいんだぜ?」
そう得意げに言うフランキーに、ゾロは「あー」とテキトーに返事をする
気付かれてはいないが翼もバサリと動き、テキトーな羽音を出していた
それから少し会話を交わすと、フランキーは出入口の方に向かった
「それじゃ、おれは他の奴らの所に行ってくるぜ」
そう言って振り返った時だった
ゾロが手入れの終わった刀を鞘に納めて傍に置き、次の刀に手を伸ばす
だがその手は途中で止まり、引っ込めた
直後、背中の翼の位置が微かに下がる
フランキーはその背中に視線を向けた
位置が下がり、ほんの少しだけ縮こまった翼
寂しいような、悲しいような、そんな感情を内包した大きな黒
表情は一切変わらないが、たしかに感情が動いている事がすぐにわかった
直後、
「どうした?」
怪訝そうにこちらを見るゾロに「いや、なんでもねェ」とだけ返し、フランキーは展望室を後にした
「話には聞いてたが…」
フランキーは廊下を歩きながらつぶやく
「ゾロが喜んでるのか悲しんでるのか知りたい時は、まず翼を見ろ」
昨日ウソップから言われた事を思い出す
思い返せば、宴の時も楽しそうに翼が揺れていた
あの時は顔の方もしっかり笑っていたが、きっと普段は翼の方がよく動くのだろう
「目…いや、翼は口ほどに物を言う、ってか。あの兄ちゃん、意外とわかりやすいんだな」
フランキーはそう独り言ちると、図書室に向かった