美術家さんの奥さん

 美術家さんの奥さん


「麗しい貴婦人の彫像が、やっと完成したんだよ。明日見に来てくれ。君のような可愛い女の子に、最初に見せたいと思ってね」

私の知り合いには、美術家がいる。その人は私に優しくしてくれて、よく作品を見せてくれた。その人の作品は、麗しい女性を中心としたものが多く、なんでも奥さんをモデルにしているらしい。その奥さんの写真を見せてもらった時、あまりの綺麗さに納得した程だった。

そして、その美術家さんの彫像を見るために、私は彼のアトリエへと向かった。アトリエで私を迎えてくれたのは……。

「あら、お客さん?」

出迎えてくれたのは、美術家さんではなくその奥さんだった。美術家さんはどこにいるのかと訪ねると、

「ああ、あの人なら工房にいますよ。あなたに見せたい作品があるとか言っていましたよ」

と、笑顔なのにどこか怒気を感じる声でそう言われた私は、美術家さんの工房へと向かった。そこにあったのは……美術家さんが言っていた、陶器でできた麗しい貴婦人の彫像だった。

フリルが沢山ついたロココ調のドレスを身に纏い、リボンが巻かれたつばの広い帽子を被った、ブロンドの髪で豊満な胸を持つ白一色の貴婦人。顔はまるで仮面のような感じだが、それがかえって良い味を出している。美しい。一目見ただけで、その言葉に支配された。

だけど、肝心の美術家さんがいない。奥さんは工房にいると言っていたのだが。キョロキョロと辺りを見回すと、美術家さんの声が聞こえてきた。

「き……君かい? そこに……いるの……かい?」

美術家さんの苦しそうな声が聞こえてきた。だが、美術家さんはどこにもいない。すると、貴婦人の彫像がガタガタと音を立てて揺れた。

「こ、ここだ……僕はこの中にいる……」

ガタガタと揺れた貴婦人の口の部分に耳を近づけると、美術家さんの声が聞こえてきた。なんでこの中にいるのかと聞くと……。

「じ、実は……君に優しくしていたのを、妻が……誤解したらしくてね……僕が、寝ている間に……僕をこの中に閉じ込めたんだ……僕の、作品の中に……」

ガタガタと、苦しそうな声と共に揺れる陶器の貴婦人。どうやら、動けないようだ。

「た、頼む……これを、壊して……出して、くれ……そこに、トンカチがあるから……」

彫像の近くにあった、トンカチで像を叩く。彫像にヒビが入った。すると、彫像は激しくガタガタと動き、ヒビがどんどん大きくなって、ガシャンと音を立てて、中からパンツ一丁の美術家さんが出てきた。

「ハァ……死ぬかと思った……」

美しい彫像は壊れてしまったが、なんとか人命は助かったようだ。何をどうしたら、あんな彫像の中に閉じ込めることができるのだろうと思ったら、美術家さんが答えてくれた。

「僕の妻は、僕よりすごい美術家でね……たった一日で、僕を使って僕が作ったものと同じ彫像を作って、僕を彫像にしたんだ……その上、嫉妬深いからその分がパワーになったんだと思う……」

美術家さんの奥さんは、ある意味とんでもない美術家なのかもしれない……私はそう思いながら、美術家さんを奥さんの所へ連れて行き、奥さんに謝罪する美術家さんを何時間か眺めていた……。

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