美は朽ちぬもの29
鈴澄 音夢・デート準備のみ
・嵐が来るまであと少し
昨日アテウさんに貰った服を着て、シャラシャラと鳴るチェーンが付いたスカートから『忘却の白』が見えない事を確認する。
いつもなら帽子で隠れる額や、私の視界に入らない首とかに描くんだけど、描く前にドロフィーに捕まってお化粧されちゃったから、服で見えない所に描いたの。
まだ下ろしていない、新しい靴はフレアヒール。わざと1センチ大きい靴の踵に詰めたクッションの布端がレースになっていて、ピーターパンシューズの様に外に折られて模様が浮き出るのが可愛い。
両手で抱き締めて一階に降りようとした所で、ノックの音が聞こえた。ちょっと強めに二回だけノックするのはジェムしかいないから、声がしなくても直ぐに分かる。
「マ〜〜リ〜〜ア〜〜ン〜〜ヌ〜〜」
予想と違う声に少し驚いたけど、扉を開けて直ぐに分かった。片手を上げてヒラヒラと振っているジェムも一緒にいただから。
「ほらよ、俺達からだ。金も護衛も全部ギャルディーノに任せても良いかと思ったけどよ、有るけどしないのと無いから出来ないのは違うからな」
「ラ〜〜ッ〜〜ス〜〜に〜〜頼〜〜る〜〜と〜〜良〜〜い〜〜」
私が普段被っている帽子と同じ霞んだピンクのシンプルなハンドバッグに入れられていたのは、中身がパンパンの財布とラッスーが姿を戻した拳銃。
「過保護」
思わず笑ってしまって、力が抜ける。階段を降りるまで靴を持って貰い、玄関で待っているギャリーの元に向かう。みんなに此処までして貰ったけど、彼はデートだとは思ってないんだろうな。
玄関の壁に凭れ掛かる姿は、私が知っているものより目が近くて、後頭部のシニヨンから垂れる髪がセクシーなのが狡い。
珍しく長袖の彼は、いつもの服と違ってストライプの幅が違う。青面を走る白の細い線が高い背丈を強調していて、元々の30センチ近い体格差を差し引いてもスタイルの良さを感じるわ。
「待たせてごめんなさい、Mr.3」
「君が私を待たせるのはいつもの事だガネ」
「護衛頼むぞ、ラッスー」
「私を何だと思っているのカネ」
元気に返事をしたラッスーに呆れ顔をしたギャリーの肩が叩かれ、二人は部屋の中に戻って行く。その背中にバッグとお小遣いのお礼を言うと、サムズアップだけを返された。
「君に出させるつもりは無いから安心したまえ」
「もう、二人から言われたわ」
「そうカネ。今日は案内を頼むと言ったが、最近私の周りを嗅ぎ回っている者がいるのでな、今日一日は『ギャルディーノ』と呼ぶ様に気を付けるガネ」
頷きながら、差し出された左手に手を乗せる。如何やら今日は餌役みたいね。外は薄い雲が掛かって心地良い風が吹いていて、チェーンの鳴る音がヤケに耳に残った。