羅刹
「ほう…深淵から湧き続ける者達か…ジャシンめ…相変わらず陰険な真似をする…」
ブラックモナークはやれやれと溜息混じりに舌打ちをする。
「今ジャシンの軍勢は邪眼と交戦中…控えている彼らに突撃の指示を出しますか?」
そう提案するのはバロムである。
彼らとは着陣が完了し現在待機中のザガーン、ギリエル、ダイダロス、オルゼキア、ディアブロスト達の事である。
「あれが奴等の全てではあるまい。寧ろこちらの全戦力を傾ける事をジャシンは望んでいるだろうよ」
そう返しながら提案を一蹴するモナーク。
「ええ、眼前のあれが最大戦力であればジャシン帝の軍勢など闇文明の世界で嘲笑の的でしょう」
当然バロムも未知数の敵に全軍突撃などという下策を取るつもりは無かった。
「しかし数だけは無駄に多い…ならば"羅刹"でも呼びましょうか?あの数で無数に湧いてくるのなら奴も大喜びでしょう」
「あの"羅刹"をか…クハハッ!面白い!」
不敵に笑うバロムの更なる提案を聞き手を打って高々と笑うモナーク。
「ならば奴らには後退の指示を出せ。側面に控えてるデュランザメスやデスライガー共も同じだ。何、"羅刹"と言えば奴等でも後に起こる事は理解できるだろう」
そうしてモナークの全軍に後退命令が出された。
モナークの予想通り、"羅刹"と知らされた彼らはその意図を理解したのである。
一方、邪眼(とカルデア一行)とジャシンは戦闘を繰り広げていた。
そんな中、向こう側で待機していたモナークの軍勢が急に退却していったのだ。
「先輩!向こうの軍勢が引いていきます!」
「何か企んでいる……?でも当面こっちにはすぐに来ない!」
「ならマスター!目の前の奴らに集中するだけよ!」
と奮い立てるカルデア一行。
しかしロマノフは一人、その違和感に思い当たる節があった。
(死をも恐れぬ覇王の軍勢が後退する…?まるで何かに巻き込まれない様に……それはつまり…!)
すると突如轟音と悲鳴が響き、向こうのジャシンの軍勢が吹き飛んでいた。
「救援!?」
そう思って振り返った藤丸達の顔は一瞬で青ざめ愕然とした。
「なんだよ……こいつは……」
当然である。それは味方ではなかった。
彼らが振り向いた先には武装した髑髏の様な巨体が、武器を振り回し暴虐の限りを尽くしていたのだから…
(くっ…やはり…だがこんなにも早く"アレ"を使うだと!?)
この戦場に
『殺戮の羅刹 デス・クルーザー』
が投入されたのである。
「もう"アレ"を出すとはな…モナークよ…余程その玩具を自慢したいと見える」
頬杖をつきながら溜息をつくジャシン帝。
彼の背後には禍々しい龍の影がその眼を光らせていた…