罪科

罪科


 まだ夜も明けてない頃、赤髪海賊団は出港の準備をする。エレジアから帰って来て4日。これでこの村ともお別れになるだろう。"賊"らしく誰にもバレないように準備を進めて夜が明けない内に出港する。

「良いのかお頭。おれ達の宝を置いてくような事して。」

「いいんだ。世界の歌姫になるにはおれ達と一緒に居るより余程いい。今後の事を考えればおれ達もいつまで守ってやれるかわからないしな。それに.」

 副船長であるベックマンの問いに答える。頭に浮かぶのは愛しの娘ではなくこの村で出会った1人の友人との約束。

『おれ、もっと強くなるよ!シャンクス達がやってたみたいな触れない攻撃も!この良くわからないゴムの力も!特訓して!使いこなして!あんな化け物なんかぶっ飛ばせるぐらい強くなって!ウタを守ってやる!』 

 あの日、きっと一番無力を噛み締めたのはあの子だ。そんな子が折れる事無く立ちあがろうとしている。もっと強くなると宣言している。きっと、この子があの力に選ばれたのはそんな子だからだろう。

「カッコいい騎士様もついて居てくれるしな。」

 だから託す事にした。海賊になりたいって言ってるのは少し不安だが彼ならどんな道を選んでもおれ達の大切な娘を幸せにしてくれるだろう。

「お頭。全部乗せ終わったぞ。あとは出港するだけだ。」

 この先娘をどうするかはずっと話していた。それでもここに置いていこうと決めたのはおれだ。だからおれだけは涙を流さないように静かに村に、友に、娘に背を向ける。船に乗ろうとし

「シャンクス!」

 声をかけられる。振り向かなくてもわかる。この声はルフィだ。この時間に出港する事は船員にしか伝えてない。つまり

「誰だ。ルフィに出港時間を教えたやつは。いくら別れが惜しくても見送りさせるのは違うだろ。」

「シャンクス達は!昨日からなんか変だった!なんかよそよそしかったし!次に航海に出る日をはぐらかすし!酒の減りがいつもより遅かった!」

 その答えに驚く。前までは子供だと思ってた。わがままで無鉄砲なガキ。そんな彼がおれ達の無意識の行動から出港時間をあてたと宣言したのだ。きっと、エレジアでの出来事は良くも悪くも彼を大人にしたのだろう。思ってたより娘の騎士様はしっかりしてるらしい。

「なんでウタを置いてくんだよ!またウタを置いてこうとするんだよ!ウタはあんなに赤髪海賊団の事が!シャンクスの事が好きなんだぞ!ウタの…夢は…」

 振り返りルフィに麦わら帽子を被せてやる。娘の騎士様の涙を他の奴に見せる訳にはいかない。頬を何かが伝う感覚がするがきっと気のせいだろう。

「ルフィ。悪いがウタの夢を支えてやってはくれないか。おれ達は海賊だからな。あの子の夢には寄り添ってやらないんだ。」

 分かりきっていた事だが自分はきっと過保護なのだろう。あの日守ると誓った騎士様にさらに枷をつける。信用出来ないからではなくて信頼しているから。

「この帽子は誓いの証だ。お前に預ける。」

 友に重しをつけると共に自分にも重しをつける。約束という重しを。

「シャンク「野郎ども!錨を上げろ!出港だ!」!?」

 彼の言葉を遮るようにして指示をだす。これから向かう先は偉大なる航路こうはんの海"新世界"子供を連れたままではやっていけないだろう。だから遮る。このまま彼に話させたらきっとエレジアの時のように説得されてしまうという確信があったから。船員の怒号が飛び若い友の声をかき消す。船が出て船員は別れの挨拶を叫ぶ。みんな好きだったのだ。娘とあの若い友人が。その中でおれだけは何があっても背を向ける。覚悟が鈍らないように。そんな気持ちを理解してくれてるのかベックマンも横に立ち村に背を向け無言で居てくれる。ある程度島を離れて別れを終えた船員は前を向く。何があっても振り返らない。

「な゛ん゛て゛た゛よ゛ー!シ゛ャ゛ン゛ク゛ス゛ー!」

 たとえ娘の声が聞こえたとしても。



嫌な予感がして飛び起きたウタは一緒に寝てたはずのルフィが居なくて急いで家を飛び出す。靴を履くのも忘れて、裸足で。子供の足には少し辛い道を走り抜け港に向かう。不意に見えたのは麦わら帽子を被った後ろ姿。その人の名前を呼ぼうとして気がつく。それがシャンクスではなくルフィであると。そして、地平線の向こうに消えゆく船を。船を追おうとしてルフィに捕まれる。何度も叫ぶ。きっと振り返ってくれると信じて。けれども、家族のように思ってた人達は背を向けたままこっちを見ない。船が見えなくなるまで叫び理解する。ああ、置いてかれたのだと。柄にもなくルフィに八つ当たりをする。なんで起こしてくれなかったらのかと。何でシャンクスを引き止めてくれなかったのかと。そんな事をしても無駄なのに。それでもルフィは黙ってウタの右手をとり、握ってくれていた。

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