罪作りなアースが悪い

罪作りなアースが悪い


サウンズオブアースが拒否しなかったという理由で明確な了承はなしに同棲が始まってから、毎晩毎晩(時には朝も)キタサンブラックはわっしょいわっしょいしている。おかげで今では彼女はアース以上にアースの身体に詳しい。不意に思ってもいないところを撫でられて身を震わせてしまったりする。キタサンの巧みな指裁きで肌を撫でられ、繊細な部位同士を擦り合わせ、アースは毎夜彼女のためだけに歌うことになってしまう。


二人の過去を振り返ってみる。

キタサンは昔から、今でも強引だ。先に強引に迫ったのはアースだとキタサンにも他の友人にも言われるが、アースにはまるで自覚がない。

初めての口づけを奪われ、狼狽えているうちに口内を蹂躙され、〝一目惚れ〟だと宣言された時のことをアースは未だに鮮明に覚えている。

早々にキタサンに落とされていたことをアースはかたくなに認めようとしなかったが、キタサンに優しくも力強く愛されるうち、徐々に彼女の存在を自らの心の内に受け入れるようになっていったのはアース自身も認める事実だ。

にわか雨に降られ、傘を持っていないアースが途方に暮れていた時、偶然通りかかったキタサンは「一緒に行きましょう」と言ってアースが何かを言う前に手を引いてきた。

雨の中肩を並べて二人で歩く、アースは傘に護られ濡れずに済んだが、見ればキタサンの肩が濡れている。当のキタサンはそれを全く気にしていないようだった。

見かねて、アースは苦言を呈した。

一瞬考える素振りを見せたキタサンは、なんの衒いも無くアースの肩を抱き寄せた。狭い傘の中、身を寄せて、これなら雨に当たらない。

「ズルいよ君は……」

アースの呟きが聞こえたかどうかはわからないが、アースの肩に置かれたキタサンの手には力がこもった。

そのころにはもう、お互いの間ですら両想いであることは暗黙の了解になっていたに違いない。

当時『口から出る言葉全てが口説き文句だ』と言われていたアースが、キタサンに頼りがいのあるところを見せられると瞳を潤ませ頬を染めてしまっていた。

それでも友人らから付き合っているのかと聞かれれば、アースは否定していたのだが。


キタサンのアースに対しての強引さと言えば酷いものだ。

「アースさんが悪いんですよ……」

と言われ、アースは訳がわからないまま部屋に連れ込まれ、人生で初めての感覚を味わうことになった。

「アースちゃんが悪いんだから……」

その後もアースが他の生徒を賞賛しているところにキタサンが現れると、まるで所有権を主張するように腰を抱き寄せてくる。

「アースが悪いんだよ……」

切なげに息を乱したキタサンの顔が近づいてきて、また為す術もなくアースは連れ去られる。そういうことを何度も繰り返してキタサンの態度はどんどん変化していった。

アースにはキタサンが何故突如冷静さを失うのか本気でわからない。尋ねてみたら「そういうところだよ」と言われ、お仕置きのように唇を塞がれた。

腰に回された腕の力、唇の柔らかさ、甘い匂い、口内に侵入してくる舌の温かさ、アースの心臓は高鳴り、この時初めて自分からおずおずと舌を伸ばした。

為す術なく、仕方が無く、強引にされてしまっている。周囲にはそう見えていたし、アース自身もそう思っていた。しかし、振り返ってみれば、アースは抵抗らしい抵抗などほとんどしていなかった。


アースが一度も明確に了承しないまま、キタサンとの関係は公然のものとなっていった。

とても嬉しそうにユニヴァースさんに祝福までされてしまった。

とあるクリスマスでは、友人らとのパーティの間キタサンはずっとアースの手を握って離してくれなかった。時折くすぐるように指を絡ませてきて、それが淫靡な感覚を思い出させてアースの肌は粟立った。

パーティの間中焦らされて、アースの諦観と期待は膨らんでいた。解散し当然のように二人きりになる。

寮の前の中庭で一際強く手を握られ、いよいよだとアースの鼓動は大きくなった。きっと強引に手を引かれ、部屋に連れ込まれるのだと思った。

「今日は楽しかった。アースと一緒にいられて嬉しかったよ」

パッと、手が離れた。

「また明日ね!」

幸せそうに火照った笑顔でキタサンは手を振った。

「えっ」

アースは思わずそう呟いていた。しまった、と思ったときにはもう遅かった。

ニヤニヤと笑うキタサンが、アースの顔をのぞき込んでいた。

「意外そうだねアース。なにを期待してたのかな?」

急激に顔が熱くなり、キタサンの顔を見られなくなった。

強引に抱き寄せられる。バカとかズルいとかそういう言葉を投げつけて、恥ずかしさを必死に誤魔化そうとした。

言葉が出てこなくなると、ようやく少し顔を上げられるようになって、キタサンの口から漏れる白い息が最初に目に入った。

キタサンに抱きしめられていると寒さを感じない。

「意地悪してごめんね……」

ゆっくり近づいてくる唇を受け入れると身体に甘いしびれが走った。

キタサンはアース横抱きにし、サトノダイヤモンドのいないキタサンの部屋に運び込んだ。

その夜のキタサンは蕩けるように優しく、恥という殻が破れたアースはそれまでで一番素直になってキタサンに甘えた。


その後程なくして、キタサンからアースは鍵を渡された。

「あたしの部屋の鍵。アースが嫌なら受け取らなくていいから」

キタサンは寮を引き払って学園のすぐ近くに新しい部屋を借りたらしい。アースは一瞬迷ったが、鍵を受け取った。それくらい彼女にとって特別な存在だと言われたようで嬉しかった。いつでも好きなときにキタサンに会いに行けるサトノダイヤモンドに気を遣う必要も無い。

……と、その程度に思っていたのだが、その日の夕方にはアースの荷物は寮の部屋から消えていたのだ。


学園内部、別室といった条件の枷が外れたキタサンは、本当に毎日帰ってくればアースに襲いかかってくるようになった。

最近初めて、キタサンの強引な求めを撃退できた。夕食の鍋を火にかけっぱなしで本当に危なかったのだ。

はたかれた頬を手のひらの形に赤くしたキタサンは、何故か嬉しそうにしていた。

「アースは本当に嫌なときはちゃんと言える子だもんね♥」

並んで座ったソファで肩を抱き寄せられながらそんな風に言われると、自分の方が年上なのに、とアースは釈然としない感情を抱いた。


「アースさんってキタサンブラックさんとはどういう関係なんですか?」

後輩のウマ娘が勇気を出したという様子でアースにそう尋ねた。

アースは一瞬考えた後、相応しい言葉を自信を持って答える。

「アモーレ・ミオ」

Report Page