罪の在り処 前編
ホシノ「うへぇ~。久しぶりに矯正局の外に出たよ~。まぁ護送トラックでほとんど外の景色見れなかったけど」
ハナコ「そうですね。ミレニアムの生徒の皆さんも遠巻きで見てるだけで、こちらには全然話しかけませんし」
ヒナ「そうね…でも仕方ないわ。私たちがしたことはどうあがいても消えない罪なんだから」
アビドス砂祭り事件・・・アポピスの消滅から数ヶ月、キヴォトスを未曾有の混乱に陥れたアビドスカルテルと呼ばれる犯罪組織のトップであった
小鳥遊ホシノ、空崎ヒナ、そして私、浦和ハナコの3人は、薬の中毒からもほとんど回復し、矯正局で奉仕活動に明け暮れていた。
そんな私たちは現在、ミレニアムサイエンススクールに来ている。
もちろん私たちの立場上、好き勝手に動くことも許されていないため、監視付きなのだが。
ホシノ「けどゲームの収録って笑っちゃうよね~。なんで私たちが収録に呼ばれたのかはわからないけどさ」
ハナコ「ただ『ミレニアムに行ってゲームの収録作業にあたれ』とは言われましたけど…どういうことなんでしょうか?」
ヒナ「『詳しいことは向こうで聞け』とも言われたわね…」
私たちがミレニアムに来ている理由。それは、奉仕活動の一環であった。
その内容は『ゲームの収録』。しかし、その内容は知らされておらず、
今までの作業とは明らかに異質なその作業に私たち3人は疑問を持っていた。
監視「ここだ」
監視が部屋の前で止まった。恐らくここで収録をするのだろう。
監視「入れ」
監視に促されるまま、私たちは部屋に入った。
そこは確かによくある収録現場であった。そしてそこには…
アリス「パンパカパーン!皆さん、収録のために来てくださってありがとうございます!」
ゲーム開発部所属の天童アリスがいた。
彼女はアビドス砂祭り事件の際、まさに八面六臂の活躍でキヴォトスを救った生徒のうちの一人である。つまり、私たちの敵だった生徒だ。
ホシノ「…そりゃあゲームの収録だしミレニアムだからね、彼女がいても仕方ないよね~」
ハナコ「ホシノさん…」
ホシノさんの反応も仕方ないだろう。最後にアポピスを倒す時に共闘したとはいえ、
それまでは正にゲームで言うところの勇者と魔王軍の関係だったのだ。倒されたこちら側はものすごく気まずい。
ヒナ「…貴女がいるということは、ゲーム開発部が作ったゲームの収録ってこと?」
アリス「はい!アリス達は今、総力を挙げて『アン・ハッピー・シュガー・ライフ』というゲームを開発しています!」
ホシノ「アン?」
ヒナ「ハッピー?」
ハナコ「シュガー・ライフ?」
シュガーという単語に妙な引っ掛かりを覚えたが、それが彼女たちが開発したゲームの名前…
アリス「略して『アシュラ』です!」
ホシノ「いや略し方!?」
アリス「では、『ハシラ』です!」
ハナコ「それもちょっと…」
アリス「?では、『ピーガー』です!」
ヒナ「バグが発生した機械?」
アリス「…実は略称が決まってないんです。なので開発メンバーでどれが略称として定着するかゲームが行われています!」
ヒナ「…私たちが言うのもなんだけど大丈夫?」
どうやら、ゲーム開発メンバーは相当ぶっ飛んでるらしい。
アリス「話を本題に戻します!皆さんには、ミレニアムに泊まり込みでゲームの収録を手伝うクエストを受けてもらいます!ちなみに拒否権はありません!強制イベントというやつです!」
ホシノ「…そこはわかってる」
ヒナ「」コクリ
ハナコ「はい」
自分のしたことは解っている。私たちはキヴォトスにとても大きな混乱をもたらした。アポピスが消え、そのほとんどが回復したといっても、
行為そのものが消えたわけではない。私たちは大きな罪を犯したのだ。本来は死刑も考えられていたが、しかし、皆のおかげでこうして生きている。
罪を償うため、そしてその恩に報いるために私たちはどんな仕事も受けるつもりだ。
アリス「はい!では早速台本を配ります!タイムリミットは30分ですのでそれまでに覚えてください!」スッ
ホシノ「…厚くない?」
貰った台本はちょっとした辞書ぐらいの厚みがあった…えっ、これを30分で?
アリス「皆さんは特に台詞が多いのでその分台本が分厚くなっています!安心してください、今回は赤色の付箋のところしか収録しませんので!」
ホッとした。薬から回復しても前みたいに頭が働かない時がある。オーバードーズの反動らしいが日常生活に支障はないとのこと。
それでもこれだけの台本を覚えるのは無茶だったのでひとまずは安心した。
アリス「読み合わせにはアリスも付き合いますので安心してください!協力プレイです!」
ホシノ「…とりあえず読んでみようか~」
ホシノさんの言うとおり、赤い付箋のページを開いた。
そこに書かれていたのは…書かれていたのは!?
ハナコ「な、な、なななななな何ですかコレー!?」
そこには私たちが薬物中毒に陥っていた際の台詞が書かれていた!?なんで!?
ホシノ「…うへぇ~」
ヒナ「…これは」
アリス「はい!今回収録する『アン・ハッピー・シュガー・ライフ』は砂祭り事件などの様々な『砂漠の砂糖』に関するイベントを収録した一部ノンフィクションのノベルゲームです!」
いやいやいやいや待ってください!シュガーという単語と私たちが呼ばれたことでまさかとは思いましたが本気ですか!?
あの事件をゲームにするところもそうですが、それを全部本人にやらせるつもりですか!?もしかしてゲーム開発メンバーの皆さんって今でも『砂糖』を摂取してるんですか!?
他の二人はまだいい、少し台詞が痛々しいだけだ…いやそれも嫌だが、私のよりもはるかにマシだ!
私の台詞なんて淫語、痴語のオンパレードだ!台詞だけを見たら官能小説となんら変わりない。
実際のところ、中毒中の記憶は曖昧なところがあったのだが、何、私って痴女だったの!?
ハナコ「ととと、とりあえず台詞をお、覚えましょう…(ペラッ)はぅ…ひゃああああ」
恥ずかしすぎる。これを収録なんて、なんという羞恥プレイだろうか…これだったら普段の作業の方が億倍マシだ。
ゲームの収録を軽く見ていたがここで私たちは認識を改めた。これは立派な罰だ。心が持たない。
そうこうしているうちに30分が経過した。もちろん読み合わせなど出来なかった。
???『では本番入ります』
スピーカー越しに聞き覚えがある声がした。この声は…
ハナコ「ミヤコちゃん!?」
ミヤコ『…はい、月雪ミヤコです』
間違いない、ミヤコちゃんだ。台本の私たちの台詞に妙に覚えがあるものが多かった理由が不明だったが情報提供者がいるなら納得だ。
つまりミヤコちゃんは向こう(ゲーム開発)側のメンバーということだろう…
ハナコ「ミヤコちゃん、これは一体どういうことですか!?なんでゲーム開発チームに貴女が参加してるんですか!?」
ミヤコ『ゲームを開発するにあたり、アビドス側の情報が欲しいとのことだったので。断る理由もありませんでしたし』
ホシノ「うへぇ~。そこはおじさん断って欲しかったな~。何?おじさん達に恨みでもあるの~」
ミヤコ『無いと思いますか』ゴゴゴゴゴ
その声には怒りがこもっていた。
ホシノ「あっ、いやその~…ごめんなさい」
ヒナ「…まぁ明らかに私たちが悪いものね」
ミヤコ『では改めまして、本番入ります…ちなみに私の略称案は『アンシュガー』ですのでよろしくお願いします』
「「「参加してる!?」」」
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